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112.ワルムズ王の帰還

112.ワルムズ王の帰還



「返せ・・・返せ・・・。わしのじゃ。その王位はわしのものじゃ・・・返せ・・・返せ・・・」


「ワルムズ王・・・なんと醜悪な姿に・・・。たかだか王位を失っただけで、そこまで堕ちてしまったというのか」


ワルムズ王はなぜかヘドロのような怪物に変貌していたのである。理由は分からない。かつての王としての面影はそこにはなく、今や零落し、化け物になり果てた哀れな存在がそこにいるだけであった。


だが一方で、その姿のほうが以前の人の姿をしていた時よりもよほど合っているようにも感じられた。


それは、化け物に変貌した今を持ってしてもなお、権力などと言う下らないものにすがろうとするあさましい姿が、そう感じさせたのであろう。


「権力に全く興味などない俺には分からない話だよ。王位などくだらん。たかだか、王位程度になぜそこまで執着する? ・・・だが、もし希望するならば、俺という優れた王がどのように世の中を治めているのか、そしてその治世がどのように優れたものなのか、間近で改めて学ぶといい。もう一度、王になる資格を得られるよう、俺の近くで必死に努力するんだ。俺の真似をして、できるだけ王としての資質がどのようなものか、理解するといい。そうすれば、お前のような者でも再び王になるチャンスもあるだろう」


何もせず王になれるわけではない。俺と言う王の手本を見ることで、初めて王が何かを知り、資格を得ることができるのだ。


「それはとてもいい考えですね!」


リュシアが明るい声で言った。


「ご主人様に学べば、きっとワルムズ王とて、精神的に成長するでしょう。そうやってご主人様に学び、そしてご主人様に認められるよう一生懸命努力すれば、王位に戻れるかもしれませんよ! ご主人様に学べるなんて本当に貴重な機会です。政治とは何か、王の職責とは何か、それらを学びなおし、反省することで、また私たちに王として認められる可能性も出てくるのではないでしょうか。いえ、ご主人様に認められることが、王の資格そのものということでしょうか!」


「的を射た指摘だな」


俺は彼女の意見に頷く。


「いいか、ワルムズ王・・・いいや、今はただの化け物か・・・。いいか化け物。王とは一人でなるものではないのだ。周りの人間たちが認めることで初めて王となるのだ。俺のように、勝手に周りに祭り上げられて王にならされるという、迷惑極まりないケースのようにな」


その言葉に、


「マサツグ様は本来は王に収まる器ではないですからね。ですが、周りが無理を言って、王なんていう役不足の位にとどまってもらっているくらいですので」


「本当は世界を治めて欲しいのだけど、今はいちおうワルムズ王国を治めているっていう、いわゆる腰掛の状況なのよねー」


「ギルドもナオミ様がギルド全体の統治をしてくれればと心より願っております」


「本当はわしの代わりに魔王になって欲しいのじゃがなあ」


「できれば次はドワーフ王国のほうにも来てもらって王になってもらいたいくらい」


「いえ、それよりも魔族の方の王よりも更に上、帝王になって魔族を導いて欲しいのですが・・・」


リュシア、エリン、シー、シルビィ、ラーラ、クラリッサ、ミラたちは言った。


俺は彼女たちの言葉にうなずく。


「そういうことだ、化け物よ・・・。これが≪王の資格≫というものなんだ。求めるのではなく、王と言う器自体が、俺自身を求めてくる。お前のように王位に執着するのが、もっとも王位より遠い人間だということなんだ」


だが、これほど言葉を尽くし、成長の機会を与えようとしても、悲しいことにやはり俺たちの言葉は通じなかった。いかに救おうとしても、その者自身が過ちを悔い、俺に学ばなければ、けっして前には進めない。その現実を改めて目の当たりにし、俺にも救えない者がいるのだと改めて痛感するのだった。


「う、うがあああああああああああああああ! 勝手なことを! わしは認めん! 認めんぞ! 返せ! 我が王位を返せ! その王冠を返せええええええええええ!」


びちびちと、身体の体液を弾け飛ばしながら叫んだ。


「汚い! こっちに寄るんじゃない! この汚物が!」


「ぎ、ぎあああああああああああああああああああああああ⁉」


俺は咄嗟に衝撃波を放ち、元ワルムズ王を吹き飛ばしてしまう。俺の身を守るというより、いたいけな俺の仲間たちを守ったのである。


化け物は、何度もごろごろと転がり、大岩にぶつかって止まった。そいつは倒れたまま地面でグモグモと蠢いている。


その姿は余りにも醜悪だが、逆にそれが人としての本来のワルムズ王の人としての≪格≫を現しているように思え、妙に納得もしていた。


そして、


「王位など、大したものではなかったぞ? 貴様の尻拭いのために、しばらく玉座で執務を執り行いはしたが、当たり前のことを当たり前にすればいいだけだった」


俺は、あの程度のことも出来ず、人々に見捨てられ王位を負われた男に同情を禁じ得ない。


そして、


「こんな王冠がいるなら、すぐに返してやるさ。ほら」


俺はそう言って、ポイと王位の証である王冠をワルムズ王の元に放り投げたのである。


「ああ⁉ なんということを!」


ワルムズ王は放り投げられた王冠に驚愕し、それを受け止めようとする。


しかし、


『バリン!』


ワルムズ王が受け止める直前に、その王冠は破裂し、バラバラとなった。俺が衝撃波を放ち破壊したのである。


「ああ⁉ ああああああああああああああああああああああああ⁉」


ワルムズ王の・・・化け物が絶叫し、身体を蠕動させる。


俺は教師のように、冷静に諭すように言った。


「だから言っただろう。今、王冠にすがろうとしなければ、俺はその王冠を破壊するつもりはなかった。だが、あさましいお前は権力の象徴たる王冠に手を伸ばしてしまったのだ」


「さすがご主人様ですね・・・。ずっと言われていました。王位は自分から掴みに行くのではなく、周りから与えられるものなんだと」


「そういうことだね。マサツグ様はそれを王冠を破壊することで、ワルムズ王に学ばそうとされたんだわ」


「化け物にまで堕ちたワルムズ王にそこまでの慈悲を与えるなんて、普通はできないことだよね」


「ナオミ様の優しさに、ワルムズ王も気がつかれればよいのですが」


少女たちの言葉に俺は頷く。


「ただ、一方で学ぶことには時間もかかるだろう。俺が今日してやれることはここまでだ。今後も学び続けるといい。期待しているぞ、かつての王よ。さて、話は変わるが・・・」


俺は当初より疑問に思っていたことを聞こうとする。


「その姿、お前にはふさわしいとは思うが、自然とそうなったのか? それとも何者かにそのような姿に変えられたのか?」


俺はそう化け物にたいして問いを発したのだった。

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