102.(勇者ミヤモト編)邪神降臨。そして選ばれし勇者ミヤモト
・昨日、ついに第2巻が発売されました! Web版とはまた大きく展開が異なりますので、どうぞお楽しみください!
・ミヤモト君も大活躍しますよ!
・第3巻も発売決定です! こちらはまた進捗を活動報告でご連絡いたします!!
102.邪神降臨。そして選ばれし勇者ミヤモト
「じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、じゃ……」
「蛇? 謝?」
「じゃしーん! 邪神ルイクイ! て、てめえ! なんでこんなところにいやがるうううううううううう⁉」
俺は勇敢にも腰を抜かすだけで声を上げる。
邪神!
邪神ルイクイ!
俺を甘言で誘い、世界の破滅を手伝わそうとした、この世界の元凶だ!
だが、もちろん俺はそんな誘惑には乗らなかった。
あたかもその誘いにまんまと乗ったフリをして、その力だけを利用したのだ!
邪神よりもなおタチの悪いマサツグをギタギタにして俺に頭を下げさせ、あまつさえ俺が王となり世界の覇権を握るためにも、それが必要だったからだ。
もちろん世界平和のためだ!
悪辣王マサツグの手でこの世界には絶望が満ち始めていた。
誰も口にしなくても明らかだ!
この世界は腐り始めていた!
マサツグのせいで!
マサツグの野郎のせいで!
だから、俺はあえて敵であるはずの邪神の力を利用し、操られ洗脳され正気を失ったクラスメイトと言う名の友を取り戻すためにぃ! 俺はあえてぇ! 奴の口車にのったのであるああああ‼
だが、俺が舌を巻いたのは更にその上をいったマサツグの悪辣さ。
残酷さだ!
信じられねえことに奴は、友であったクラスメイトたちを死地と言う名の戦場へと送り出し! なんと前線に立たせることで俺の良心を攻撃してきたあ!
数多くの兵士! クラスメイト! 友! 国民‼
人間の盾を築くことで勇者である俺の良心を人質に取りやがったのだ!
邪神すらも目を剥くほどの外道!
それをまるで呼吸をするようになせる奴は、もはや人間じゃねえ!
そこにこそ、義憤を感じ、弑逆の王マサツグをのぞこうとした英雄ミヤモト・ライズ、この俺様の正当性がある!
邪神の力を借りるには十分正当な理由があったのだ!
イシジマどもが糾弾するような裏切りはなかった!
私利私欲は一切なかった!
絶無!
絶無だ!
ゼロ!
俺は今だこうして世界の平和の象徴、最後の砦としてここに立っているぅうう!
「ミヤモト君、あなた大丈夫ですか? 先ほどから思っていることが漏れていますけども?」
「な、何を勝手に心の叫びを聞いてやがるうう⁉」
黒髪を長く伸ばし、人間離れした美しさを宿す顔。漆黒の瞳は地獄へと通じる底の無い洞のごとし。
見つめ続ければ発狂するほどの深淵。
人でない者。
神。
世界の終端に位置し、世界の終わりを告げる役割を持った終局神性。
邪神ルイクイ。
そんな神は生真面目な表情を浮かべる。
「むっ。勝手にではありません。あなたが勝手に心の叫びを口にしていただけです。そのように言われるのは不愉快です」
プンプンといった調子で腰に手をあてる。
その様子はまるで委員長のごとし。
だが、決してそんないいものじゃねえ!
ルイクイが眉をしかめた瞬間、周囲の草花が途端に枯れ始めた。
気圧が下がり、息苦しさを感じる。
空気が腐ったからだ!
人によっては存在するだけで毒!
人の死! 物事の終端! 命の終わりをまき散らす害悪!
それが邪神ルイクイだ!
「酷い言われようですねえ」
ルイクイが悲しそうに眉根を寄せた。
知るか馬鹿が!
「そんなことより何しにきやがった! 俺は今、魔王アモンから逃げ……いや、戦略的な撤退をしてるところなんだ! てめえなんかに構ってる暇はねえ!」
邪神は恐ろしい。
だが、こいつは病原菌のような奴だが罹患さえしなければ害はねえ。
魔王アモンやスキュラの眷属シェリルといった理不尽な暴力を振るうような輩のほうが、俺と言う英雄にとっては喫緊の脅威だ。
俺の命こそが世界の希望だ。
ここで失うことは世界の損失!
希望の終わり、絶望の始まりぃ!
だから、俺は絶対に逃げおおせなけりゃならねえ!
そうでなきゃ、身を挺して俺を逃がしたイシジマたち舎弟どもの気持ちを逆に踏みにじることになるからなあ!
「ああ、よく見ればあればアモンですね。取るに足らぬ存在ではないですか。オルティスさんとの戦いに巻き込まれて、というか邪魔なので封印したお方ですよ。いつの間に封印がとけたのでしょうか?」
「なんだと?」
俺はピタッと動きを止める。
頭の中で秤が右へ左へと揺れる。
(このまま逃げる方が助かる確率は低いんじゃねえか?)
そんな俺の慧眼、未来視とも呼ぶべき洞察が、直感が、神の如きひらめきが脳裏をよこぎったからだ! 他ならねえ!
何せ今の俺は不意を突かれたせいもあって若干の傷を負っている。
何とか態勢を立て直すために、今は一時的な、戦略的撤退の真っ最中だ。
無論、逃げてるわけじゃねえ。
俺は逃げたことはねえ。
負けたこともねえ。
今はまだ時じゃなかった。
相手の卑怯極まる不意打ちすらやりすごし、なんとか命を長らえると言う、まさに英雄的な行動の最中なのだ。
友であるイシジマたちが逝っちまったが、あいつらも俺を生かすことが出来て本望だと思っているに違いねえ。
そんな気持ちを背負っちまってる。
自由に奴らと戦えればどれだけいいか。
気楽な立場のマサツグとは違う。本質が! 背負っている責務が! 世界の命運がぁあああああああ!
だからこそぉ!
今は渋々だが世界の命運を担うと言う重責を確実にこなすためにこそ一時的な戦略的撤退をしていたわけだ。
おれは逃げたくなかったが、世界が逃げろと言ったというわけである。
だが、こうして俺を英雄とみなし、そして力を貸した邪神が現れたとなれば話は別だ。
(こいつを戦かわせりゃいいんじゃねえか?)
俺はふと天才的発想を脳裏に思い描く。
こいつは今確かに言ったよな?
アモンなど雑魚だと?
あのおぞましい猿、いや鬼、そして雲に届かんばかりの巨体、恐るべき魔力、邪悪なる波動。
それを有するあの化け物、おそろ……いや、マサツグなら恐ろしくて思わずケツをまくって逃げ出すほどの邪鬼を『雑魚』と言ったのだ。
ああ、なら話は簡単だ。
英雄が手を貸すまでもねえ。
俺の力は世界に平和を取り戻すために温存するべきもの。
おいそれと使っていいものじゃねえ。
好きに敵と戦えればどれだけいいか。
だが、俺にはそんな自由すら、いまとなってはないのだ。
ああ、何でおれはこれほどまでに英雄なんだよ……。
「だが、それはミヤモト君。君にとっても同じなはずだよ? 邪悪なる人。この邪神ルイクイの端末体に初めてなった人類の忌み仔よ。君の邪悪さに比べれば、あの程度の魔王。世界を4回程度しか破滅させられないほどの狭隘なる神など、ひとひねるのはずだと思うけど?」
「……はぁ???」
突然の邪神の言葉に、俺は思わず声を上げたのである。






