101.(勇者ミヤモト編)古の眷属と邪悪なる神
・本日ついに第2巻発売です! ここまで来れたのは皆様のおかげ! 深く感謝です!!
・Web版、書籍版で大きくストーリーが異なりますので、どちらも楽しんで下さいませ。
・マサツグ君や孤児の女の子たちの活躍はもちろん、ミヤモト君の大活躍もお楽しみに!
・同時に第3巻も発売決定!! 今後とも異世界孤児院をよろしく!!
101.古の眷属と邪悪なる神
「てめえ、シェリル! イシジマの一撃でくたばったんじゃなかったのか!」
「まさか、まさかさあ。あれくらいでやられてあげるわけにはいかないよお。我ら古の眷属たちの宿願は、そうそう脆くはないと知りたまえよお」
はあ?
「古の……、なんだって?」
「あはー、いいのいいの。気にしないで。それよりも気にしてよ。聞いてくれよう、あの音をさあ」
んだとぉ?
音だあ?
俺はムカつきながらも耳を澄ます。
すると、遠くから微かにバリバリ。バリバリと言う何かが破裂しそうな、空間を割く様なおぞましい音が耳に届く。
「はあ、なんの音だ、こりゃあ?」
「まったくだよお。本当に、何てことだろう! 何せたった一回だ! たった一回の戦闘で負の魔素がこれほど手に入るなんて! いやはや、わたしの慧眼は捨てたものじゃない。いいや、それともあれかな」
シェリルは訳の分からないことをほざきながらこちらを意味ありげに見て、
「これも一つの才能だということなのかねえ」
俺は馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
何を言っているのか分からねえ。
だがあ!
「俺が才能の塊なのはわかりきったことだ! 今更確認するまでもねえことだあ!」
のけぞりながら言う!
シェリルはなぜか半笑いで、
「だねえ。つける薬はないようだ。本当なら何年も、何百年も、邪素を集める予定だった。反目する者たちどおしの憎しみや恨み、そこでぶつかりあう魔力同士から生まれる特殊な魔力残滓こそがこの城に施された封印を解き放つ鍵さ。だからこそ、君たちのような者を招き、戦わせてきた。道中にゾンビたちがたくさんいただろう? それはその残骸ともいうべきものたちさあ。ふふふ、今回も単なるその一環と言うだけだったのさ。なのに、君たちったら、それをたったの、たったのッ……」
シェリルは感極まったように、
「ただの一回! ほんの一度の戦闘で満たしてしまうなんてさあ。見ておくれよ、この封印城を! 邪悪なる魔力で満ち満ちている。ただの人間だろう君たちは? とても信じられないよ。並みの魔族や邪悪なる眷属たちよりも、よほど、よほどだよお! こんなにすぐに解放してしまうなんてさあ! これはもう、ちょっと邪悪だとか、人でなしだとか、そんなレベルじゃないよ。もはや君こそが『鍵』。封印城を作ってまで封印した魔王の封印を解く呪われた鍵そのものだよ!」
「話がなげえ! 俺に分かるように言いやがれ! この馬鹿サキュバスが!」
俺は怒号を飛ばす。
するとサキュバスは狂騒するように嗤い、
「ははははっはは、これは失礼勇者ミヤモト様! 英雄ライズ様! ならば目の前でご覧あれ! かつて善神、邪神のいずれにも従わなかった我ら『スキュラ』の眷属、その王。魔王 アモンの復活を! 古の神の再降臨をおおおおおおおおおおおお‼」
その声とともに、
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおおん……。
特大の雷が落ちたような爆音が耳を貫いた。
それと同時に凄まじい力に吹きとばされる。
封印城の内部から生じたその力の暴力は、すべてを根こそぎにするほどのねじれ狂う単純なエネルギーの塊だ!
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ」
とんでもないパワーに俺は体を動かすことすら出来ずにただただ吹きとばされる。
城の瓦礫とともに一緒に空中を放物線を描いて飛ぶと、周囲の森の木々に散々に体を打ち付けられる。
べきべきと幹を何本もひしゃげさせ、俺の体もくの字になったり海老ぞりになったりしながら地面を削るがまだ勢いは止まらない。
そうして、崖のたもとのような場所に激突することでやっと俺の体は停止した。
「ひいいいいいいい、いでええええええええええよおおおおおおおおおお」
俺はたまらず嗚咽をもらす。
何も悪いことをしていないのに、こんな理不尽な目に遭うなんてどうかしている。
くそ、くそが!
体中がいてえ!
一体、何が起こりやがったんだ!
混乱し、思わず涙を流す。
アモン?
スキュラの眷属?
古の神ぃ? 魔王だとぅ!
そんなことはどうでもいいいいいいいい!
関係ねええええええ!
この勇者であり英雄である俺をこんな目にあわせるなんてええ!
絶対に許さねえ。許さねえからなああ!
俺は憎しみにかられながらも、激痛の走る体を見下ろす。
まずは俺の状態の確認だ。
さすがにさえている。
冷静沈着。
どんな状況であれ、まずは現状を把握する。
俺と言う英雄が英雄たるゆえんだ。
ドロリと地面に大量の赤い水たまりが出来ていた。
「はひ?」
俺の口から思わず変な声が漏れる。
体中からは血が噴き出しており、左足などは変な方向にひしゃげていた。内臓も少し飛び出ている。
「ひ、ひぎゃああああああああああああああああああああああああああああ‼」
俺は絶叫する!
いてえ!
いてえよおおおおお!
俺は泣きじゃくる。
なぜだ!
なんでこんな目に遭わなくちゃならねえ!
俺は単に聖剣を取り戻してマサツグに復讐してやりたかっただけだ!
国を支配して女をはべらし、バカな愚民どもに奉仕させて幸せに暮らしたかっただけなのに!
英雄たる俺にはその資格がああるはずなのに!
なのに、どうしてこんなことになっていやがるんだよおおおおお!
「くふふふ、くふふふふ」
と、空から怪しげな笑い声が降って来る。
誰かと問うまでもない。
「シ、シェリル!」
「ふふふ。スキュラの姫と呼んで欲しいところさ。でも、私と君の仲だ。呼び捨てにすることをむしろ歓迎するよ、邪悪なる人、ミヤモト・ライズ様。人類を破滅へと導く人」
「そ、その姿は⁉」
「ああー、これかい? いわゆる正体というやつだ。サキュバスだと言ったね? あれは嘘さあ。本当は6つの蛇の頭を持つ、可愛らしいモンスターというやつさ。どうだい、もう一度穴という穴に、この蛇をもぐりこませてはくれないかい?」
「ひ、ひいいいいいいいいいいい!」
トラウマが呼び起こされた俺は、ひしゃげた足を必死に動かして這う這うの体で逃げようとする。
「にょははははっはは~。どこに行こうというのかねえ? おっと、そうそう、君が今ここで逃げれば、魔王アモンは近隣の村を手始めに、この大陸を焦土にするだろう。封印されていた時の魔力がたまりにたまっているからねえ。君の友人だとかなんとかの、あのイシジマ君たちもさっき気絶していたのを拾って来た。そうら」
俺が逃げようとしていた先に、やはり傷つき、気絶した4人の馬鹿どもが降って来る。
放っておけば死ぬだろうことは容易く理解できる。
それほどの傷だ。
俺はそれを見ない様に目をそらす。
だが、その先には更に禍々しき影があった。
その体は天を突くほどの巨体。
猿のような顔と毛深い四肢。黒い翼を二対生やし、口は裂けるほどにでかい。煌々とした目は世界を睥睨し、シュルシュルという不気味な声をその口腔から漏らしていた。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、、ああああああああああああああ」
「ふふふ、理解したかあい?」
いつの間にか俺の隣に降り立ったシェリル。いいや、スキュラの化け物が耳元で甘い声で囁いた。
「あれがアモン様だ。我らが眷属の王。邪悪なる神々の一柱さあ。さあさ、どうするのさあ、勇者様ぁ。英雄ミヤモト・ライズ様。もちろん、決まっているよねえ?」
勇者がとるべき行動なんて決まってるよねえ。
俺はその声にこたえるように頷く。
そして、
「せ、世界の命運なんて知るか! それに、そこの奴らだって友達でもなんでもねえ! お、俺は知らねえ! 俺は悪くない! 全部、全部、そこの奴らがやったんだ! 俺は被害者だ!」
殺るならそいつらをやりやがれええええええええええええ‼
俺は絶叫しながらシェリルから逃げ出すように背を向けて走り出したのである。
「むむぅ、さすがだよお。最後まで友達を生贄にするなんてねえ。まあ、別にそれでもいいけどねえ。私たちの悲願は成ったんだ。どこに逃げても手のひらの上だよお。世界の崩壊を世界の片隅で指をくわえてみておいでよお」
『邪悪なる我らが王には誰もかなわないのだ~!』
そんな声が聞こえた。
もちろん、俺は止まらねえ。
なぜなら、俺のせいじゃねえからだ。
俺は悪くない。
なら、俺が責任をとるいわれなんてねえ。
わき目も振らずに走った。
幸い、追ってはこないようだ。
へ、へへへ。
助かった。助かったんだ。
俺は命が助かったことで安堵し、思わず笑みがこぼれる。
そうして。
ふと、横を見た時であった。
「ふむふむ。邪悪なる王ですか」
そこに邪神がいた。






