100.(勇者ミヤモト編)勝利のむなしさと正義の心
・100話達成‼ そして、とうとう明日2/10には第2巻が発売です!
・Web版、書籍版で大きくストーリーが異なりますので、どちらも楽しんで下さいね‼
・マサツグ君や孤児の女の子たちの活躍はもちろん、ミヤモト君の大活躍もお楽しみに!
・同時に第3巻も発売決定!! 今後とも異世界孤児院をよろしく!!
100.勝利のむなしさと正義の心
「なんだとおおおおおおおおおおお⁉」
俺は目ん玉をひん剥いて絶叫した。
当たり前だ。
ありえねえことが、目の前で起こっていやがるんだからよぉ!
俺が。
この勇者であり英雄のこの俺様がッ……!
「押し負けてるだとぉぉぉおおおおおおおおおお‼」
「ふ、ふふ、ふふふふふふ、はーーーーーーーーーはっはっはははっは!」
「何が可笑しい、ゴミ野郎!」
「笑わずにいられるかカスめが!」
「ぐはあああああああああああ⁉」
俺はイシジマに力負けして吹きとばされる。
くそ、なんでだ!
なんで、この俺ともあろうものが押し負けるなんて無様をさらさなくちゃならねえ⁉
「そうか、ズルか! てめえ、卑怯だぞ! 一体何のズルをしやがった!」
俺は相手が卑怯な真似をしていることを即座に看破する!
そうだ!
そうに決まってる!
俺が、この俺様が負けるはずがねえんだ!
今までだって実力で負けたことはねえ!
常に勝利! 常勝腐敗なのがこの勇者ミヤモト・ライズ様だ!
相手に背中を見せたのは、敵が卑怯な真似をしたときだけ。
例えば俺がたった独りで勇敢にも戦っているのに、相手が何倍もの数をそろえ、卑怯にも集団で襲い掛かって来た時!
あるいは、善神などといかがわしい看板を掲げる邪悪なる神に魂を売って、その力を行使された時ぃ!
あるいはあるいはぁ! 洗脳したクラスメイトや愛すべき国民たちを人質に取り、この俺に降伏を迫られた時だあ!
俺は正義の男。倫理観の塊! 勇者かつ英雄的ジェントルマンのミヤモト・ライズ!
ゆえの弱点!
正義ゆえのウィークポイント!
女子供に手を挙げられない!
仲間を絶対に守ろうとする!
誰だって改心すれば許してやるという甘さ!
そんな英雄であるがゆえの弱点を卑怯にも突かれた時のみ、俺は敗北してきたのだ!
だが、敗北したにも関わらず、俺はこうしてここに立っている!
あまつさえ、聖剣の導きによって封印城で死闘を演じている!
輝かしい未来を掴まんと今なお前進を続けている!
それはなぜか!
決まっている!
「実質的に無敗だからだ! 俺は負けてねえ! 単に油断させただけだからだあ!」
「ふ、ふはっははははっはははっははは! 負け犬が! 負け犬らしい言いぐさだ! ならばいいだろう! お前の様な馬鹿につける薬はない! 将来医者が弁護士になる勝ち組の僕すらサジを投げる大バカ者がお前だ、カスがあ!」
「は、は、はーははははっははっは! 好きなだけ吼えろ、この馬鹿がああ! お前みたいなのを頭でっかちの馬鹿というんだ! やれええええええええええええシェリルうううううううううううううう」
俺は奴らが現れてから一言も発さなかったシェリルに命令を下す!
だが、イシジマは更に哄笑を上げた!
「やはり馬鹿だったか! 馬鹿め馬鹿めこのアホめえ! お前の考えなどお見通しだ! 隠れているつもりだったか? 不意を突けるとでも思ったか? 馬鹿めがああああああああああああ! よめよめなんだよおおおおおおおおおおおおおお‼」
「うわっきゃあああああああああああああああああああああああ‼」
背後から襲い掛かろうとしていた男サキュバス、シェリルがイシジマの容赦のない一撃で吹きとばされる!
……だが、
「はーはっははっはははっは! 隙を見せたなあ! イシジマあああああああああ」
俺の哄笑が城内へ響く。
「ちっ、こいつは囮か! だが、ぼくに奇襲するなら声など上げている場合ではなかったな、ミヤモト……って、え?」
イシジマが呆然とした表情を見せる。
く、くくくくく。
そうだ。その顔が見たかった。
その絶望に歪んだ顔が。
この俺様をコケにしやがった男の青ざめた顔がなあ!
「お、お前、卑怯だぞお!」
「は~? 先に卑怯な真似をしたのはお前だろうが。どんな手段か知らねえが、ズルして俺に勝とうとしやがってよお。しかも、俺の仲間を傷つけやがって。絶対に許せねえよなあ」
「お、お前……」
イシジマが顔を真っ赤にして、
「女を人質にしながら何を堂々と言ってやがる!」
絶叫を轟かせる。
そう、俺の手にはナイフ。
そして、その刃はフカノの首元に突きつけられていたのである。
一瞬の隙をついた俺の作戦勝ちであった。
思わず、俺は勝利の雄たけびをあげる。
「やはり、やはり俺は天才! 戦いのプロ! 世界で一番優れた男だあああああああああああああああああああああああああああ」
勇者の勇ましい鬨の声が周囲にこだましたのである。
「は、恥を知りなさい、この畜生。あなたは鬼でも悪魔でもありません。それにも劣るド畜生です!」
「やめろ、フカノ! そいつを刺激するな! 本当に何をするか分からん相手だ!」
「ああ、イシジマ君……。本当にごめんなさい。この男がまさか女子供まで人質に取るほどのゲスだったとは思いませんでした。予想してしかるべきだったのに……」
「奇襲だけでも卑怯なのに、まさかそれすら、女を人質にするための囮だなんて、誰が予想できるもんか! やはり僕たちとは次元の違う悪なんだ!」
「黙れ!」
俺はフカノの長い髪の毛を乱暴に引っ張る。
「きゃあ!」
「やめろ! フカノに乱暴なことをするなあ!」
「うるせえ! へっ、よけるなよお」
俺は怒号と共に、魔力弾を作ってイシジマに向かって放つ。
ゆっくりとイシジマに迫る。
だが相手は避けることはできねえ。
何せフカノという人質……いいや、俺の作戦による戦利品が手元にあるからなあ!
「うげえ!」
「くくくく、いてえか? なあ、いてえかよ?」
「ふ、ふん。こんなもの大したことじゃない」
「ああん?」
俺は片眉を跳ね上げる。
相手の態度が将来この世界に王になるべき、大英雄ミヤモト様に対して尊大すぎるという点を除いたとしても、看過できない点があったからだ。
「ああーん? 一体どうなってんだよ。確かにてめえらもこの世界に転移した際に色々とスキルを得たのは知ってるがよお。だが、俺様という大英雄の攻撃に耐えられるレベルじゃなかったはずだろうお?」
俺は訝し気に相手をにらむ。
「ちっ、まあその通りだ。俺たちは偶然ここに来たわけじゃない。とある情報筋から、お前がここにいると聞いてやってきたんだ」
「はあ?」
ある情報筋だと?
どういうことだ?
俺は更に訝し気に眉をしかめる。
当然だ。
なぜなら、『俺がここにいると知っている奴なんて誰もいねえ』はずだからだ。
それにだ。
「てめえらの持つ過ぎた力ってのもそいつからもらったとでも言うつもりかあ?」
「ふん、まあそういうことだ」
「んなわけねえだろうがあ!」
ドゴーン!
「ぐわあああああああああああああああああああ」
イシジマが俺の一撃に悲鳴を上げる。
だが、そんな雑魚の阿鼻叫喚に関わっているのは無駄だ。
んなことよりも重要なことがある。
イシジマのような雑魚どもに、これほどの強大な力を与えられる存在。
そんな奴がゴロゴロといるはずがねえ。
例えば邪神や善神といったこの世界を司る存在。
いや、そこまで行かなくても構わねえ。
だが、そうだな。
例えばだが、魔王や悪魔の王、そういった神々すらとも匹敵するような相手でなければおかしいのだ。
しかし、それこそ謎だ。
どこに、神か悪魔だかの王がいるというのだろうか?
そんな時、
「そうだねえ。不思議だねえ。ミヤモト・ライズ様♡」
明るく、だがどこか禍々しさを感じる声が、俺の耳に届いたのである。