第二十話 包囲する輩
第二十話 包囲する輩
☆
カランッカランッ
扉を開けると中も外と変わらない雑然とした雰囲気だった。しかし置いてある武具の中にはーー「業物なのか」そう思わせるモノが幾つか見て取れる。
そして目の前のカウンターで、ジロリとこちらを見る店主はこの中で一番の業物に思えた。何気に強さが滲み出ている。[剣技LV3]が俺にそう伝えて来た。
「買い取りを頼みたいんだけど」
ジルが促して来るので俺はアイテムボックスから回収した武具をテーブルの上に取り出す。数十本の剣や槍、弓矢がうず高くつまれていくのをジルとクリスはジッと見ている。
この世界では仲間が死んだ時、その持ち物の所有権は生き残った者に移るらしく、それを売り払う事もおかしな事では無いらしい。
「幾らになるかしら? 業物は無いけど手入れは悪く無いはずよ」
一悶着あるかと思ったが意外にもすんなり買い取りが始まった。対した値段にはなら無いようだが、ロングソードはスピアはそれなりに良い品だったようで、当座の冒険資金になら足りそうな雰囲気だ。
ジルとクリスは交渉に長けているようで話は進みーー十分後に俺たちは売却代金を受け取る事が出来た。
「まとめて35000Gだな」
そこそこの金額だったのかジルとクリスは少し顔を見合わせて頷き合うと「仕方無いわね」と言って代金を受け取る。
「出物があったらまた頼む」
無愛想な店主がそれでも礼を言うと
「そうね、ちょっと探し物の旅に出るかもしれ無いからまた帰って来る時にはお願いするわね」
と言うと、店主は納得出来ない風にこう言った。
「帰って来る……のか?」
「必ずね」
そう言って金貨と銀貨が入った袋を受け取り俺の顔を一瞥すると
「いきましょう。もう用は無いわ」
『佐藤、いま反応が変わりました』『ああっ、どうやら敵対した様だな』『周囲の殺気はどうなりましたか?』『かなり狭まって来た。躱して逃げ果せるのは無理だな』
ジルとクリスの知り合いがどうやら敵に変わった様だ。危険を冒してこの店に来た理由がわからない。
だが、狙いはあるようだ。
カランッカランッと戸を開ける外には殺気を隠そうともしない冒険者と思しき集団が取り囲んでいる。
「ずいぶん物々しいわね」
「そうね、ボクらが仲間だった事を忘れてるみたいだね」
「二人ともーーどうやら嫌われたようだな」
すると一人の剣士の様な男が前に出て来た。恐らくはこの中で一番の猛者なのだろうか、放つ殺気が桁違いだった。
「ジル、クリス、森のアジトが壊滅した二日後に、そこに居たはずのお前達が仲間の装備を売り払いに来た。その上見知らぬ男に付き従っている訳だ。さて、どう説明する積りなんだ? それとももう乗り換えたのか? 姉妹そろって慰み者にでもされたか!」
まだ未遂だ。早ければ今日夜半には達成出来ると踏んでいるんだがな
「そうね、リーダーに合わせてくれるなら説明してもいいけど、信じて貰える自信がないのよ。でも誓って嘘は吐かないし、逃げも隠れもしないわよ」
その強気の根拠が俺で無い事を祈る。
「ふざけるな! お前達は裏切り者だ! 誰がリーダーになど合わせるものか! ここで始末してやるから諦めろ!」
そりゃそうなんだろうが、それは困ったな
「お話中誠に申し訳ないが、この二人はもう俺の所有物なんだよな。悪いが譲る訳にはいかない。そして、手を出すなら悪いがここで始末させて貰う。全員な」
すでに周辺の索敵を[サーチ]と[ロケイト]によって詳細を掴んでいた俺はジルとクリスの前に歩み出ると[風切り丸]を抜き敵意を放つ。
俺達を取り囲んでいた12人は瞬間的に放たれた殺気に一瞬怯んだ。『なんだ覚悟が足り無いな』『転生した途端に魔王と勇者もどきに囲まれて死の危険に晒されたのも気が付かずに切り抜けた貴方が異常なんです』『失敬な! 俺は常にベストを尽くしていただけだ!』『それで何とかなるのが困り物なんでしょうね』
次の瞬間剣士が剣に手を掛け今にも斬りかかろうとしたその刹那ーー無詠唱無挙動で超能力LV3の枠を超えたハームがその身体を締め上げる! そしてマインドボルトをでその意識を刈り取ると〈ビクンッ〉と痙攣して剣士は動かなくなった。いや、力の抜けた筈の身体はするでもその位置を頑なに守っている。まるで釣られた人形の様に、不思議なバランスで〈ビクンッビクンッ〉と痙攣し辛うじてまだ生きてはいる事を伝えていた。
「サ、サトウ貴方が…」
俺の力を知るジルが何かを言おうとするがそれを制し、俺は剣士の横を通り過ぎる。
「こちらから挨拶に向かわせて貰う。リーダーとやらによろしく言っといてくれないか。ジルとクリスの話は俺が付けに行くとな」
そのまま包囲している奴等を一瞥し俺は通り過ぎようとしていると、慌ててジルとクリスが駆け寄って来た。
「…サトウ、私……」
「話は後だ。先ずは表通りに向かう」
「……分かったわ…」
俺はアルマを付けて二人を先に行かせた。ハームの間合いから離れる直前に路地に走り込んだ二人はこの場所からなるべく距離を取らせ、出来れば衛兵のいる詰め所を探せとアルマを通じて指示を出してある。
そして俺はその細い路地でジッと身を潜めた。サーチで確認した中には弓兵は居なかった。そして魔法使いも確認は取れなかった。つまり接近戦が発生する事を意味している。
そして奴等にしてもこのまま俺達を見過ごす事は出来ない筈だ。マインドリーディングから店主は敵意があってもただの協力者だと判断していた俺はこの12人に用がある。
ただ少し厄介なのは
「やっと来たか」
すると慌てて追いかけて来た。どうやら剣士の所と店主の所に二人残ったようでその数は9人か。
「さて、相手になってやろう」
まさか待ち受けられているとは思わなかったのか路地に潜む俺を見つけて全員が立ち止まった。さすがに剣士を締め上げていた俺の力を掴めずにどう攻めるか考えているのだろう。人数にモノを言わせた強襲は諦めたようだった。
「心配するな、手加減はしてやるからな」
如何に一人も殺さずに沈黙させるかだ。
「ふ、ふざけるな! ここで始末してやるからな」
そう言って抜刀して斬りかかって来るがその剣には何の力も感じられない緩慢なものだった。
そして俺は「ふぅっ」と溜息を吐きーー風切り丸を鞘に収めーー超能力を発動させた。
「これで相手をしてやる! 覚悟しろよ! 死にはし無いだろうがな」
そして『それでも再起不能は十分有り得るからな』と聞こえないくらい小さな声で呟くと、細い路地に肉のひしゃげる音が響いた。
ハームで押さえ込まれた先頭の男は〈ギシギシ〉と締め上げられ身動きが取れずに苦悶の声を上げる。
(一人目!)
一気に間合いを詰めハームを解いて飛び蹴りを叩き込むと後ろから迫っていた二人に直撃した。さすがに仲間を切り裂いて襲いかかる気は無いようでご丁寧に受け止めるつもりの様だ。俺はそこへサイコブラストを放つ! 不意打ちをくらいまとめて吹き飛ぶ三人はなんの初動も無い一撃に身構える事すら出来ずに意識を失くした。
(三人!)
超能力は接近戦ではかなりの脅威なのだ。なぜなら短いとはいえその射程は当然剣や槍よりは長く相手からの物理攻撃を相殺する事が出来る。それも剣技LV3と身体能力強化LV3があればこその神業ではあるが。
俺はさらに後方の二人に[マインドブラスト]を放ち膝をつかせる。(五人!)
物理攻撃力は無いが精神攻撃耐性が無い低レベルの者にはスタン効果を持つこの魔法は有効だ。そこへ膝蹴りと肘打ちがトドメとなる。身体能力強化LV3は超人的な打撃力を可能にするのだ。
さすがに事態を把握して焦ったのか至近距離からナイフが俺を狙う! しかしその程度では投擲LV3のスキルを持つ俺には通用し無い。その動きから簡単に命中範囲を想定し投げた瞬間に簡単に躱す事ができる。そして俺はその投擲の隙に打撃を喰らい崩れ落ちる奴等を飛び越え一気に間合いを詰めるとーー最弱に威力を弱めた雷遁 飛雷を至近距離から放つ! 《バヂンッ!》と身体が弾け飛ぶ(六人目!)のを視認しその横を走り抜けさらに連続して飛雷を続けて二発放った!「ぎゃんっ!」少し強かったのか吹き飛んだ男は泡を吹きながら痙攣を繰り返していた。
(七人目! 八人目!)
目の前で仲間が吹き飛び慌てた九人目に俺はナイフを突き立てた。
「お前らはどうせあの二人を慰み者にしてから殺すつもりだったんだろ? 覚悟しろよ「待てっ!」
するとーー背後からさっきの店主が走って来た。
「分かった、こいつらではお前には勝てん。ここは引いてくれないか? お前も殺すつもりは無かったんだろ。だからワザと剣を鞘に収めてから挑発したんだな」
そう、そのつもりだった。
「……たがこのまま付け狙うのを放置は出来ないからな。それならここで始末を付けて全員の口を封じるのが一番だと思わないか?」
「はぁ」と溜息を吐くと
「分かった。俺が話をつけよう。リーダーには俺から話す。それでいいか? このまま騒ぎになるとこちらもマズイんだ。それに、お前が居るのにあの二人はまた必ず帰るといっていた。仕方ない、一度だけ信じる事にする」
ふむ、マインドリーディングでも怪しい反応は無い。ここは信じても良さそうだ。今の所はだが。そしてこれでこちらも時間が稼げるだろうしな。
「では明日夕刻、またこの店に来る。良い返事を期待しておくことにしよう」
俺は倒れている剣士を一瞥し、振り返ってまた大通りに向かって歩き始める。反応はこれだけだな。私怨混じりの独断専行ってヤツかもしれない。
そして路地の影で隠密と忍足を発動し、俺は人混みに紛れ込むと二人の後を追った。
『アムル、何処にいった?』
『思ったより時間がかかりましたね。どうせ一人も殺さなかったんしょ?』
『当然だ。今日はゆっくりと夜を楽しみたいからな』
『さぞかしジルと心の準備の出来ていないクリスがガッカリする発言ですけど[正義の味方だから君達には手を出さない]という発想も葛藤も無いんですね』
『[据え膳喰わねば男の恥]というじゃ無いか♡』
そして俺はアムルの誘導のもと合流を果たした。
二人は俺を見かけると慌てて駆け寄って来た。一応は心配していたという事だろうが……俺はジルの顔を鷲掴みにして締め上げた。
「さて、ジル、俺をワザと巻き込んだな」
次は慌てて俺の腕に飛びつくクリスの喉を締め上げる。
『わかっててついていったのにさも被害者の様なその口振りには呆れてモノも言えません』
「さあ、ジルとクリス、これから仲良くお話しを聞かせて貰おうか。彼奴らとは明日の夕刻にまた会う事になった。それまでに二人にはキッチリと罰を与えるからな」
両手で足が浮くほど掴み上げられ、失神寸前になったジルとクリスは力無く頷いた。
この姉妹の不幸は俺と出逢った時にもう始まっていたのだ。それを思い知って貰おう。




