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からしが目にしみる夜に・・・  作者: 此花 陽
灰色と、からしの匂い

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3/3

冷え切った自販機の缶コーヒー_③

 二十五歳。

世間では、仕事に慣れて私生活を謳歌し始める年齢だという。

だが、たいきの手元には何もなかった。


 学生時代の友人は、それぞれ結婚したり、

大企業で出世して海外赴任したりと、

どこか「自分だけのグラウンド」で

全力疾走しているように見える。


 SNSを開けば、きらびやかな夜の街で

乾杯する元同級生たちの姿が嫌でも目に入った。


 それに比べて、自分はどうだ。

ただ淡々とタスクを消化するだけの、灰色の毎日。


 改札に交通系ICカードをタッチしようとしたその瞬間、

たいきの指先が、ほんの少しだけ震えた。

どうしても、あの黄色の改札機を通る気になれなかった。


 今、あの波に乗ってしまったら、

二度とこの灰色のループから

抜け出せないような、

そんな根拠のない恐怖が胸を突き上げた。


たいきは、ゆっくりと回れ右をした。

駅の北口。


オフィス街の整然とした街並みとは対照的に、

どんよりとした暗闇の中に、ぽつりと赤く灯る一角があった。


ガード下から伸びる、細い裏路地。

そこが、昭和の面影を色濃く残す飲み屋街「昭和横丁」だった___。

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