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からしが目にしみる夜に・・・  作者: 此花 陽
灰色と、からしの匂い

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冷え切った自販機の缶コーヒー_①

 午後七時十五分。

オフィス街を吹き抜けるビル風は、どこか湿り気を帯びて冷たかった。


 二十五歳のたいきは、

窮屈な黒のビジネスシューズの底を濡れたアスファルトに打ち付けながら、

駅へと続く緩やかな坂道を、ただ惰性で歩いていた。


 その肩は、目に見えて内側へと丸まっている。

薄い安物のビジネスバッグが、歩くたびに頼りなく太ももを叩いた。


「たいきくん、悪いんだけどさ」


 数時間前、開発フロアの冷え切った蛍光灯の下で、

先輩SEから投げつけられた言葉が、まだ耳の奥で耳鳴りのようにくすぶっていた。


「さっき納品したテスト環境、またバグ出ちゃってさ。

 仕様書の二ページ目、データベースの連携部分。

 今日中に直しておいてくれる?


 あ、それと来週月曜の進捗会議の資料、

 君の担当分だけまだガントチャートが更新されてないから、それもよろしく」



『すみません、すぐにやります』


それが、たいきの口癖だった。


「仕様変更」という名の無茶振りに頭を下げ、

液晶画面から放たれるブルーライトに瞳を焼きながら、

夜遅くまでキーボードを叩く。



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