51 一緒に潜る!?
「でもいまちょっとスランプ中で…魔法が全然当たらないの……」
最近の出来事を一ノ瀬くんに話す。
一ノ瀬くんはフーちゃんを撫でながら私のスランプの話を黙って聞いてくれた。
「……そんなこんなで今日も全くダメダメで帰ってきたところなの」
「そうか……神楽が魔法を使うところを見てないから何とも言えないな」
「…うん」
「明日も行くのか?」
「うん、そのつもり」
「じゃあ一緒に行くか」
「……えっ?」
「今週は大和も聡も剛さんも予定があるんだ。だから俺は空いてるし、実際に魔法を使うところを見た方が早いからな」
「ほんとに⁉︎いいの⁉︎」
「ああ」
『蓮ー!おまえいいやつやなー!ありがとぉー!』
「フーちゃんに会えるしな」
「っほんとにありがとう!」
一ノ瀬くんからのありがたい提案で明日、明後日と一緒にダンジョンへ行ってアドバイスを貰えることとなった。
明日6時にダンジョン前に集合の約束をして一ノ瀬くんとは別れた。
その後ギルドで魔石を換金したあと星屑マーケットで明日、明後日の買い物をしてアイテムボックスに入れておくご飯の買い出しもした。
(フーちゃんが一ノ瀬くんと食べるという名目でケーキも買って欲しいと激推しされた…絶対にフーちゃんが食べたいやつだ)
——————
次の日、しっかりとフーちゃんに起こしてもらって寝坊することなく約束の10分前にはダンジョン前へと到着した。
早い時間なだけあってまだ周りには誰もいない。
「おはよう。悪い、待たせたか」
「おはよう!全然待ってないよ!ちょうど今着いたとこだから」
『おはよーさん!蓮!よろしくなー!』
「フーちゃん、よろしく」
『ほな張り切っていくでー!』
「「おー!」」
フーちゃんに合わせて一ノ瀬くんも合いの手を入れてくれる。意外とノリがいい。
フーちゃんがいるからかな?
さっそくダンジョンに入って奥へと進んでいく。そして一ノ瀬くんたちがどんな感じでダンジョンを攻略しているのかを聞いてみた。
さすが地下4階まで進んでいるだけあって、移動は基本走っているそう。みんな基礎体力は高いしレベルアップのおかげで徐々に速く走れるようになっているみたい。いつもズーマに乗せてもらっているからそこは気にしたことがなかった。
どうやって地下4階まで進むかの話になった時に私も一ノ瀬くんと同じように走っていくつもりだった。でも一ノ瀬くんはいつもズーマで移動してるなら神楽はそれでいいって、自分は走って着いていくと言って譲らなかった。
私だって自分だけズーマに乗って一ノ瀬くんだけ走らせるなんてできない。一緒に走るよ!と譲らなかった。
しばらく押し問答しているとフーちゃんが
『ほな二人乗りすればええやん!』
と言った言葉に一ノ瀬くんも私もポカンとした。
『ズーマ!ちょっと変形できるか?二人乗り用や!』
パァー
ズーマが黄色く光りながら形を変えていく。
1人分しかなかったサドルが後ろにもう一つ繋がって2人分のサドルが出現していた。後ろに乗った人用に足置き場もちゃんと付いていた。
「す、すごい!こんなこともできたの⁉︎」
「……!」
『最近できるようになったんやて!でも使い所がなかったからちょうどよかったわー!』
「そ、そうなんだ…」
いつも私1人だもんね。
二人乗り機能は使うことがないよね…うぅ…
「すごいな…こんなこともできるのか。神楽の自転車はほんと規格外だな」
「そうだよねっ!私もいつもびっくりしてるよ…!」
「これは俺も運転できるのか?」
「え?」
『絃と一緒に乗ってたら大丈夫やでー!』
「そうか…神楽、俺が前に乗ってもいいか?」
「っえ⁉︎…うん!大丈夫だよ」
「……じゃあ後ろに乗ってくれ」
そう言って先にズーマに跨る一ノ瀬くん。
私もその後ろにあるサドルに跨る。
(……後ろっ…近っ…!こんな近いの⁉︎)
(ズーマの爆速やで?ちゃんとくっついとかな振り落とされんで!)
(くっつ…!!!えーーー!!!)
「神楽、いくぞ?」
「う、うん!」
一ノ瀬くんの一言でズーマが進み始める。
「きゃっ!」
ぎゅ——
運転している時とは違って掴むところがないからいつも以上にスピードを感じて落ちてしまいそうになる。
そして咄嗟に目の前の一ノ瀬くんの背中に捕まる。
「ちゃんと掴んでないと落ちるぞ」
「…うん…失礼します…」
なんてやりとりを経て無事に地下4階へと到着したのである。
「ズーマ…めちゃくちゃ速いな。まさかこんなに早く地下4階に着くとは」
「そうなの!ズーマ様々だよねー!」
とても恥ずかしい一ノ瀬くんとのドライブが終わってホッと一息つく。
一ノ瀬くんから、地下4階に着いたからさっそくいつも試している方法で魔法を打って欲しいと言われた。
そしてズーマにいつもの形状に戻ってもらいいつも通りズーマから魔法を魔物に向かって放っていく。そして案の定、いつも通り魔法は不発に終わっていた。その様子を一ノ瀬くんがジッと見つめている。
『蓮ー!どうやー?いつもこんな感じやねん!』
「……そうだな…神楽、一回ズーマから降りてここに立ってくれ」
「わかった!」
一ノ瀬くんの言うとおりズーマから降りて少し離れた位置に立つ。
「そこから次にきた魔物を狙ってみろ」
言われたとおり立ったまま向かってきているホーンラビットを見て魔法を発動して狙いを定める。
「火球……やっ!」
——ボンッ!
あっ!
「ったったー!!!!やったー!!!!」
『おおー!当たったー!ついに当たったでー!なんでや⁉︎』
「ふ、よかったな」
「一ノ瀬くんっ!ありがとう!っでもなんで⁉︎」
今までと特に変わったことはしていない。
火球を狙いを定めて放つのはこれまでだって何回もやってきた。
「神楽はいつもズーマに乗って動きながら狙いを定めてただろ。移動しながら敵に当てるなんていきなりは無理だ。だから止まったまま狙えば当たると思った」
「え…………!すごいっ!すごいっ!ズーマに乗るのが当たり前すぎてズーマから降りて狙うなんて全然思いつかなかったよっ!一ノ瀬くんすごいっ!」
「他のやつが見ても思いついたと思うぞ」
「そーなの⁉︎でも一ノ瀬くんのおかげだよっ!ほんとありがとう!」
『蓮ー!ワイからもありがとー!なんかお礼するでー!』
「…!フーちゃんを撫でさせてくれればそれでいい」
『お安いご用やー!プニプニボディを堪能してええんやで?』
フーちゃん…めちゃくちゃテンション上がっちゃって一ノ瀬くんの前でお尻をフリフリしている。それ見て「…かわいい…」って悶えてる一ノ瀬くん。うん、よかったよ。
それからは一ノ瀬くんのアドバイス通りズーマから降りて魔法を打つことに専念した。
今まで当たらなかったのがウソみたいに命中率は百発百中となっていた。
今までめちゃくちゃ苦労したのに…!
そして私が乗っていないズーマだけど、なんと!
この間の氷皇帝との戦いで自分の意思で動けるようになっていたことをフーちゃんも私もすっかり忘れていたのだった!
しばらく魔法を打つのに夢中でズーマを置き去りにしていたことに気づいて振り返ると後ろからピッタリと付いてきてくれていたのだ。
あれにはフーちゃんも私もびっくりした。
一ノ瀬くんは「?そんなものなのかと思ってた」とズーマが付いてきていることは知っていたけどそれが当たり前なのかと思ってたみたい。
そんなこんながありながら、それならズーマ単独でも戦闘に参加できるんじゃないかということでフーちゃんが定位置のハンドルにスタンバイしてズーマに指示を出すことにした。
そして見事にフーちゃんとズーマだけでも魔物を倒すことができたのだ。
フーちゃんとズーマが魔物を轢いていって、私が魔法で援護するという新しいパターンの攻撃が生まれた瞬間だった。
その日はセポでお昼を食べつつすぐに戦闘へ戻り、フーちゃんとズーマとの連携の練習もバッチリできた。
そして一ノ瀬くんの見事な刀捌きはさらに磨きがかかっていた。
一ノ瀬くんも順調にレベルアップしているみたいで技も新たに習得したみたい。
でもオーバーキルになっちゃうからしばらく【一閃】しか使ってないみたい。
(一ノ瀬くんの【一閃】かっこいいもんな〜)
あっという間に日が沈んできたので、近くのセポへ向かうことにした。
今日はめちゃくちゃ充実した1日だった。
ここ最近は魔法が上手く使えなくて、ずっと落ち込んでいたのだ。今日無事に使えるようになったことで今まで沈んでいた気持ちが一気に戻ってきた。
「一ノ瀬くん、付き合ってくれて本当にありがとう!」
ズーマに二人乗りしてセポへ向かいながら前で運転してくれている一ノ瀬くんへと話しかける。
「いや、俺も楽しかった」
(楽しかった…一ノ瀬くんにそう言ってもらえるなんて想像してなかった…)
なんだかむず痒い気持ちになりながらその後の2人はセポへ到着するまでずっと無言だった。
無言の時間なのになぜか暖かい空気が周りに漂っているようだった。
——————
無事にセポへと到着してテントを建てる。
最初にLLのテントを買ったから4人用の2ルームテントなんだよね。
だからかなりの広さがある。
てことで昨日フーちゃんが一ノ瀬くんはテントを持ってこなくていいと言って、同じテントに泊まることにしたのだ。
ちなみにアイテムボックスの話をする時にフーちゃんは私に説明した時と同じ説明をしていた。
一ノ瀬くんはそろそろアイテムボックスを覚えようとしていたからフーちゃんの話を聞いて迷っているみたいだった。
無事にテントを建てたあとテーブルを広げてご飯の準備をする。
テーブルに並べられたのは和食セット。
焼き鮭、サラダ、ご飯、お味噌汁、卵焼き、ほうれん草のおひたしだ。
なぜ和食セットなのかというと……
「一ノ瀬くん!好きな食べ物ってなに?」
「和食だな」
昨日別れる前に一ノ瀬くんに好きな食べ物を聞いていた。わざわざ付き合ってくれた一ノ瀬くんに少しでもお礼がしたくて昨日の帰りに準備したのだ。
『やったー!ご飯やでー蓮っ!はよこっちきてここ座りー!』
「和食…わざわざ用意してくれたのか?」
「今日はほんとにありがとう!せめてものお礼の気持ちです!」
「ありがとう」
『「「いただきます(ー!!!)」」』
食べながら一ノ瀬くんの方をチラ…と窺うと少し笑みを浮かべて美味しそうに食べてくれていた。
その表情を見て自分の頬も上がるのがわかる。
最初に会った時は、全く喋らなかったし、何を考えているのかわからないところもあったけどよく見れば表情が豊かなことが分かる。
そんな小さな変化に気づけたことがなんだか嬉しくて、一緒に食べるご飯がすごく美味しく感じた。
「一ノ瀬くんはどうして冒険者になろうと思ったの?」
ふと気になったことをそのまま聞いてみる。
「どうしてか……レールの上を走るのが嫌だったから」
「え?」
自分の手元を見ていた一ノ瀬くんが顔を上げてこちらを見つめる。
その視線があまりにも真っ直ぐで目を逸らせない。
「俺の実家は居合道をやっている。弟が1人いるが今のところ俺が跡取り予定だ」
そんな話をダンジョンツアーの時に大和くんたちが言っていたような気がする…居合道の名門だっけ?
「すでに敷かれているレールの上を歩いているようなものだ。それが時々……ひどく窮屈に思う時がある」
「…そうなんだ…」
「大和が冒険者になりたいと言い出した時、これだと思った。冒険者になれば自由を手に入れられるような気がした」
「…うん、冒険者になってどうだった?」
「楽しい。ダンジョンにいる時は自由でいられる。ほんとはもっとダンジョンに潜りたい……ただ大和も聡も剛さんもそんなに暇じゃない。今日1日神楽といて俺も1人でダンジョンに潜ってもいいんじゃないかと思ったよ」
「そっか…それなら…っ…」
(私と一緒に行かない?)
その言葉が出そうになったけど、言えなかった。
私の事情に一ノ瀬くんを巻き込んじゃだめ。
少しでも早く地下10階を目指して治癒スキルを手に入れないといけない。それには危険が伴う。
だからフーちゃんとズーマと頑張っていくって決めたんだ。
そんな風に心の中で葛藤している私を心配そうな顔で見つめているフーちゃんには気が付かなかった。




