雪平の健闘 (1月7日11:40)
【お礼】
お休みありがとうございました。再開します。
今後とも特捜をどうぞよろしくお願いいたします。
――20X1年1月7日 11時40分 青少年特殊捜査本部 1課2係7班
天道はガシガシと頭をかきながら、ため息交じりに発言する。
「あー……なら、俺は帰るから、また連絡入れて?明日は18時に全員で潜入前の最後のミーティングやから、ちゃぁんと来るように。」
「はい。わかりました。――お疲れ様でした。」
渦雷が代表して返事を返し、天道を見送る。
他の班員もお疲れ様でした、と天道に声をかけた。
第二ロックドアが開き、天道が第一ドアロックまで歩いていく。
第一ドアロックを開錠し、天道は班オフィスの外に出ていった。
この後警視庁へと戻り、自分の仕事に取りかかるのだろう。
さて、これからどう動くか――そんなことを思っていると、雪平が掃除のハンドサインを出した。
「!!」
すぐに掃除にかかる。
恐らく倉木の情報だろう。
天道さんにはまだ言えないことがあるようだった。
潜入を成功させるためにも情報はたくさん欲しい。渦雷たちは天道の座っていた周辺や、近くに居た班員の服を重点的に確認した。
すれ違いざまに付けられている可能性があったためだ。
結果、1つボイスレコーダーが見つかったので止めておく。
――やっぱり天道さん、仕掛けてたか……。明日回収に来ればいいだけだから、盗聴器ではなくボイスレコーダーにしたのだろうか?
分解して、中身が盗聴器に改良されてないか確認する。――どうやらただのボイスレコーダーのようだ。
念のため東雲に頼み、通信を阻害する箱の中にしまっておいた。
渦雷たちは再度ミーティングルームの席に着き、雪平が話を切り出すのを待った。
雪平は班員を見回して口を開いた。
「――まず、皆さん掃除にご協力いただきありがとうございます。倉木との会話の中でわかったことや、見えた【色】を共有しておきたかったので……。助かります。」
雪平はそういうと、制服の内ポケットからメモと折りたたまれたプリントを取り出した。
プリントは広げるとA4サイズになるようだった。長いこと使っているのか、けっこう紙がよれていた。
メモは雪平がいつも使っているものだった。
「本来なら緊急案件の横流しはダメですが、これからに関わりますので、皆さんに聞いてほしいです。ただ、天道さんへの報告はしないでほしいです。」
「……聞いても良いか?……雪平は班に残る選択をしている。それでも言わないほうが良いか?」
「はい。僕の繋がりにも関わりますし…。それに……100%上司として信用しているわけではありませんので。」
渦雷の問いに雪平ははっきりと答えた。
スカウトの把握に関しても警戒しているのだろう。雪平は後ろの人間がばれるのは避けたいようだ。
特捜に居る以上、秘密は守らねばならない。
秘匿班の上司や、任務で親しくしている人を秘密にしておくのは普通なので、渦雷たちは誰もツッコまなかった。
「わかった。」
「倉木さんとの会話で拾えたのは主に焦りですね。」
雪平はメモを見ながら答えた。
「あ、僕は倉木さんと会話をしながらメモを取っていました。僕自身が記憶力に少々問題があることを伝えてからメモしているので、不自然ではないと思います。…多分。」
雪平は記憶力にばらつきがある。そのため、重要だと思ったことは積極的にメモを取っていたのだろう。任務だけでなく、情報共有を考えても正確な情報は助かる。
「どうやら倉木さんは警視総監に切られかけているようですね。」
「んえっ。マジか。」
真っ先に反応したのは晴野だった。
雪平は左側――3名掛けのソファ隣に座る晴野に顔を向け、軽く頷く。
「はい。少し引っかけてみたら、そんな【色】が見えました。なので、かなり焦っています。」
「……理由はわかる??もし知っていたら教えてクレメンス。こっちじゃ、ちょっとわからなかったんよ。」
「そこに関しては踏み込みませんでした。その、都合よく搦めとられそうで……。」
「あー……。」
晴野は死んだ瞳になった。
一度関わったら、倉木に引きずり込まれる様子がありありと浮かんだのだろう。
関わらなくて正解である。
「ただ、晴野さんが言っていた手帳が関係している可能性は高いと思います。その、内側の胸ポケットの位置に手を当てる動作が複数回見られましたので。」
「……やばいな。天道と天道の新上司には成功してもらわないと……。」
「今のところ上司の交代に気付いている様子はありませんでした。なので、その話題には僕も触れませんでした。」
「それがわかっただけでも上等だよ。…ありがとう。」
晴野は難しい顔をして悩んだ後、雪平に礼を言った。
雪平は渦雷の居る方向に再度顔を向け、班員全体に向けて話し出す。
「倉木さんが切られかけている理由はわかりませんが、警視総監はどちらでもよかったんじゃないのかと感じました。」
「……どちらでも??」
渦雷は雪平に聞き返す。
雪平は手元のメモを見ながら、渦雷の問いに答える。
「はい。確かに倉木に疑いがかかるよう、僕たちのオフィスへの侵入の件などを整えたようですが、本気で倉木を切り捨てる気は無かったようです。これは、帰り際に……会ってしまった警視総監の【色】から判断しました。」
雪平の言葉を聞いた班員の顔が引きつった。
どうやら雪平は短時間で複数のバケモノにエンカウントし、それぞれ一生懸命やりあってきたようだった。
雪平は言葉の後ろになるにつれ、元気がなくなっていった。
よっぽど疲弊したのだろう。
入室後の疲弊っぷりにもの凄く納得がいった。この後のお昼休憩では存分にゆっくりしてほしい。
「あ、えっと。交渉は晴野さんを参考にしました!」
「――へ!?私!?」
思い出したかのように言う雪平に晴野は驚き、雪平を見た。
「はい。晴野さんは僕と交渉に行く機会が多いので。その、晴野さんが上と交渉している時のやり方をメモしていたんです。それをわかりやすいようにチャート式の図にして、こつこつ見返していました……。あ、こんな感じにです。」
雪平はそう言い、プリントを広げた。
晴野主体の雪平との心理戦タッグを、どうにかして自分でもできないかと試行錯誤をしていたようだ。
晴野のやり方を場合分けして、対応を振り分けていたのだろう。
A4のプリントを見ると、雪平がパソコンを使って自作したチャート図に、手書きで複数の書き込みがされていた。
――そういうことか!!
渦雷たちは納得した。
霧島と嵐山は驚きつつも楽しそうな表情を浮かべている。雪平の大健闘が嬉しいのだろう。
「ただし、この方法は付け焼刃というか、不測の事態が出たら対処ができなくなりますので……あまり期待しないでください……。」
雪平はそう言って俯いた。
確かに、雪平を単独で交渉の場に出すのはまだ早いだろう。
だとしても、今回の一件は雪平の勝利だ。
「ゆっきー、すげぇよ。よくこの図と【色】だけで倉木と闘ったな……。しかも情報わんさか取ってきてくれてんじゃん。すげぇよ。」
「『ダメな自分だけど、努力は無駄じゃない』と思っているので、少しでもお役に立てたなら良かったです。」
「これからの交渉の同席も期待してるっす!!」
「はい!【色】は任せてください!!」
晴野の発言に雪平が元気よく返した。
「……班員が狙われている…特に嵐山が危険なのも、警視総監に切れられかけていることが関係していると思って良いか?」
「あ、はい!だからこそ結果を出して、まだまだ自分に利用価値があると言いたいみたいです。」
渦雷の問いに雪平は答える。
「利用価値……えっと。今回の任務を成功させることで、ですが。」
雪平はメモをめくった。
「なので、倉木は注意深く多方面から情報を仕入れていました。天道さんを警戒しての事でしょう。それでこちらが情報を一部止めているのがバレて、班内スパイの交渉ついでに問い詰められました!僕が会いに行った方は関わってはいませんが、公安調査庁か調査部か…どこかに味方はいるようです。」
「……そうか。」
――倉木のパイプが厄介だな。
潜入が本当にバレないかどうか、心配になってきた。
「あ、情報を止めたのは天道さんのせいにしてみました!面倒だったので、ついでに渦雷リーダーと嵐山さんは改心して天道さんに従っているから、引き込んでも2重スパイされる結果になるのではないかという事も言ってみました。これで受験と仕事の邪魔はされないはずです!!」
「ん?僕は言わなくて良かったのか?……まぁ、わざわざ情報を与えてやる必要もないが。」
霧島はさらっと雪平に問うた。
一番2重スパイになりそうなのが霧島なので、気になったようだ。
「霧島サブリーダーは天道さんにかなり近いって知られていますから。引き込めない、もしくは2重スパイに変貌すると判断したようです。また、晴野さんと雨宮さんは、どこかからか牽制が入ったようです。東雲くんはそもそも引きこもっているうえに、辛辣な言葉を言いまくっていたため、避けるしかないようですね。あと、サイバー系の人たちが牽制しているのでしょう。なので、今のところは無事かと。…まぁ、一般的に公開できる大まかな理由は、天道さんが居る時に言った通りなのですが。」
「牽制…誰だーww助かったわwwww」
「それはわかりませんでした。えっと、ゆえに、手出しできる班員は僕くらいですね。……ただ、手を広げるとなると嵐山さんや渦雷リーダーが候補に入ってくるものと思われます。特に嵐山さんはフルタイム勤務ですから、気を付けてください。」
「わかったわ。ありがとう。今後は天道と仲良しムーブかましておくわね。」
「はい!お手数ですが、よろしくお願いします。」
雪平は嵐山に向き直り、頭を下げた。
「えっと…他、言わないといけないこと……。」
元の姿勢に戻った雪平はメモをめくり、他に報告が無いかを確認する。
「あ、任務!!……僕が本当に教団と接触するかはわかりませんが、任務的には『簡単に探って来い』なので、公安に近くの分室でも借りて、遠くから【色】で判断した分を送ろうと思います。えっと、僕が…その、発達障害を持っているのは倉木にバレていましたので、晴野さんたちみたいに難しい内容にはならなかったようです。だからこそ、嵐山さんも欲しかったようですが。」
雪平は緊急案件の内容を簡単に開示し、やり方を共有した。
調査部――基礎調査と同じやり方をするらしい。
…聞いてみるか。
「……その調査、俺らも関われるだろうか。」
渦雷は雪平に切り出した。
雪平はメモから顔を上げ、渦雷を見る。
「と、言いますと…???」
「実は、あまりに倉木に上げられる情報が少ないから、信者や教団関係者を雪平の【色】で判断してもらえないか考えていたんだ。」
渦雷は雪平が居なかったミーティングで出た結論の1つを雪平に言い、協力を願う。
雪平は即座に承諾した。
「わかりました。あ、では、その調査の一部制限と流用を許可していただきたいです。倉木にあくまでも手駒の班内スパイと思われていたいので。」
「助かる。大変だと思うが、よろしく頼む。……ありがとう。」
雪平は倉木と通じて班の動向を報告することで、嵐山を始めとした班員を守る算段らしい。
渦雷たちはありがたく従うことにした。
「他は何かありそうか?」
「いえ、これだけですね。」
「なら、ミーティング終了だな。――昼食にしよう。雨宮は学校だよな?」
「ええ。昼食を取ったら登校いたしますわ。」
「わかった。午後は残りのメンバーで詳細を詰めよう。――では、解散。」
渦雷はそう言い、午前中のミーティングを終えた。




