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運命の歯車はここから動きを変え始める

 休んでいるところ申し訳ないが時は一刻を争う。俺はエドガー、バナン、ロックの三人を呼び出した。部屋の隅のテーブルを囲んで膝を突き合わせる。

「これから俺達はナルシェへ向かう訳だが一つ提案がある」

 ナルシェは中立を守りたいからリターナーと手を組む事は簡単に同意しないし、あくまで防衛が目的で帝国へ攻め込む人員に多くは割かないだろう。

 バナン達は静かに頷く。ここまでは特に反論は無い。ナルシェはそれ程当てにならない事を感じてはいたのだろう。

 そこで他に我々と手を組んでくれる所と交渉する必要があると思う。俺は一旦言葉を切り、面々の様子を伺う。バナンが表情を変えず、続けてくれと促す。

「ドマ王国と協力関係を結ぼう」

 ロックは驚きの表情を見せるがエドガーとバナンは動揺を見せない。ある程度考えの内にはあったのだろう。

「あのような田舎に臨機応変な対応ができるのかね」

 バナンは包み隠さず思った事を主張する。確かにドマは閉鎖的で独特の文化を持ち、歴史的にも他国との繋がりは持っていない。そんな国に協力を申し込んだところで足並みを合わせた行動が取れるのかを懸念しているのだ。

「ドマと同盟を組む事が出来れば単純な兵力では帝国を上回る事が出来る。それにあの国にはサムライという近接戦闘のスペシャリストがいる。彼等が前線で戦いフィガロが機械兵器で後方援護が出来れば帝国の魔導兵器にも十分対抗できるはずだ」

 なるほど。エドガーが頷く。

「わかった。異論は無い。ナルシェの前にドマへ向かうとしよう」

 エドガーの前向きな発言は有り難い。だが俺はそれを制する。

「帝国は待ってくれない」

 恐らくサウスフィガロからナルシェを目指して進軍してくるはずだ。

 馬鹿な、早すぎる。バナンが首を振る。フィガロで防衛したばかりだろう。流石の帝国も再度フィガロ領に侵攻するのは慎重になるのではないか。

 俺はその言葉に被せて首を振る。違います。奴らは急いでいる。

「氷漬けの幻獣か」

 バナンが眉を潜める。俺は首を縦に振る。

「ナルシェの幻獣は特別だ。あれが帝国の手に渡れば恐らく魔導兵器は更に進化する。それに」

 俺は思わず言葉を切る。ティナの顔が思い浮かんだ。そうなのだ。ティナが氷漬けの幻獣と共鳴する事で彼女は覚醒する。それには苦痛を伴う。幻獣である自分を受け止めきれず、暴走をするが、感情のコントロールが出来れば防ぐ事が出来るかもしれない。

「どうした。幻獣が何だと言うんだ」

 突然口を閉じた俺をエドガーが訝しがる。いや、何でもない。俺は続ける。

「帝国よりも早く幻獣に接触する必要がある。同時だ。同時にナルシェとドマに向かわなければならない」

 いいだろう。バナンは頷く。非常に合理的だ。いい作戦だと思う。

「ドマへは私が行こう。国家間の同盟となれば、フィガロを代表して行くべきだ」

 俺はエドガーの申し出を快諾する。

「じゃあナルシェは俺だ。あそこには顔見知りもいるしな。ティナの事は任せておけ」

 ロックか。人選に異論はないが、少々問題がある。本来ならロックはこの後帝国の侵攻を足止めするためサウスフィガロに潜入し、セリスと会う事になる。もしその機会がなくなるとなれば、一体どうなるのか…投獄されたセリスは助けが来なければそのまま…

 いや。俺は余計な考えは打ち消す。ここは最善の行動に従おう。

「よし、行動は早いほうがいい。今すぐ発とう」

 その場は解散し、俺はティナの部屋の扉の前に立ち、ノックする。無言のまま、扉は開かれ、扉口にティナが立っている。何処となく元気が無さそうに見える。無理もない。未だ、答えを出せずに悩んでいるのだろう。

 俺は今後の計画を伝える。ティナは無言で頷くだけだが、再びナルシェに向かう事をどう捉えているのだろうか。最初は帝国の兵士として赴き、今度は対抗するリターナーと行動を共にしている。だが目的は変わらず氷漬けの幻獣だ。やはり感じているのだろうか、運命を。ティナ、君はもうすぐ自分の出生の秘密を知る事になる。戦うか、戦わないか。君がこれから抱える問題は、そんなもんじゃないんだ。

 話は終わったのに、いつまでもそこに立ち尽くしている俺を不思議そうにティナが見ている。

「どうしたの。まだ話があるの」

 いや、何でもない。準備が整ったら出てきてくれ。出発しよう。俺はなるべく軽く言い放ち背を向ける。今じゃない、伝えるのは。じゃあいつなんだ、伝えるのは。彼女の運命は俺が握っているって?馬鹿言うな。彼女の運命は彼女が切り拓くさ。

 変な葛藤を抱えてしまった。くそ、しっかりしろ俺。何のために俺はここにいる。傍観者じゃないんだぞ。ティナや彼らは自分の信念を突き進む。俺だけだ。俺だけが彼等の運命を知っている。悲しい結末を迎えさせない。その為に俺は今ここにいるんだろうが。


 旅の準備を整えた俺達は二手に分かれてレテ河を下る。途中、流れの分岐でエドガーとマッシュはドマ側へ。俺達はナルシェに向かう。頼むぜ、フィガロの兄弟。普通ならそっちはとんでもない悲劇が訪れる。何としてもそれを阻止しなきゃあならない。マッシュだけじゃあどうにもできなかったけれど、頼れる兄貴がついているんだ。期待してるぜ。

 そして俺も。これから向かうナルシェでティナの運命は動き始める。その初動を良い方向へ導く事が出来れば。ティナを、一人で悩まさせてはいけない。

 さあ、物語の始まりはここからだ。この世界、俺が変えてやる。

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