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奥底に眠った記憶を掘り起こす

 ファイナルファンタジー6は最高のゲームだ。

 名作と謳われる4とは一味違う群像劇。そして魔法と機械の融合した世界が舞台の退廃的な世界観。登場キャラクター全てが主人公、と言わんばかりの掘り下げられた人物像。更には前作5をも上回るやりこみ要素。精密で美麗なグラフィック。物語を彩る音楽が胸に突き刺さる。どれをとっても最強RPGタイトルに相応しい到達点だった。シリーズで一番好きな作品は?と聞かれたら、当たり前過ぎて6は外す。みたいな変な意識が働いたりもした。それほど記憶に残る、ゲームオブゲームズだ。

 1994年発売?30年ほども前か。中学生の頃だから、俺も齢をとったって事か。今ではこうやってスマホでアプリを購入するだけで簡単にプレイできてしまう。それでもゲーム自体は色褪せない。ほとんど内容なんて忘れていたけど、こうして進めていくと当時の感情までが蘇ってくるから不思議だ。

 今更こんな趣味の回帰をするなんて。それには理由がある。

 ある日会社帰りの駅前で、一人の女性を見た。一目でわかる他とは違う出で立ち。コスプレというやつだな。アニメか何かの登場人物の衣装を着てなりきるやつだ。印象的だったのはその佇まい。視線をどこか別の空間に彷徨わせるような感じ。その時ハッと気付いたんだ。ティナか。

 すぐにはわからなかった。あんなに好きだったゲームなのに。それでも過去と現在の自分を繋ぐものがあるという事に喜びを感じながら女性の姿を見ていた。

 それでその気持ちを確かめるために再度ゲームをプレイしようと思い立った訳だ。


 ゲームを進める内に、ストーリーを思い出してきた。

 帝国は魔道の力を使って世界を支配しようと目論んでいる。武力による侵略は各地で悲劇を生み、その支配からの解放を目指した組織、リターナーが立ち上がる。

 リターナーは帝国に対する抵抗組織と言うには戦力不足は否めず、実質的には帝国の支配が及ばない地域でのゲリラ活動が関の山である。魔導の力を持つティナは正しく救世主と呼ぶに等しい存在で、何とかしてリターナーの一員として帝国と戦って欲しいと望まれてる。

 ティナは自分が何者であるか分からない。思い出せる事と言えば、炎に包まれる建物と逃げ惑う人々。戦いというものに対し、潜在的な恐怖と嫌悪感に苛まれている。当然ながらリターナーの要求は拒否する。そんなティナを見捨てる事が出来ないロックは帝国から狙われる身となった彼女を守ると主張し、追手から逃れる旅が始まるが、様々な境遇を持つ人々との出会いがティナの心を少しずつ変えていくのだ。

 そうして彼女は再び氷漬けの幻獣と邂逅し、自らが幻獣と人間の間に生まれた子である事を自覚する。目覚めた幻獣の力に怯え、制御が出来なくなり暴走を始めるが、ロック達仲間の助けを得て自分を取り戻す事に成功する。

 帝国の持つ魔道の力は捕らえた幻獣から強制的に抽出された物である事を知ったティナは、彼らを救うために帝国と戦う事を決意する。その為には幻獣の力を借りる事が必要になる。幻獣と人間、その架け橋ができるのは自分だけだと。

 幻獣界を繋ぐ門、封魔壁を開き幻獣との接触に成功するが、仲間を捕らえられた事を知った幻獣は怒りに身を忘れ、瞬く間に帝国都市ベクタを壊滅状態に陥れる。機能を失った帝国はリターナーに敗北と休戦を申し入れ、人間界に留まったままの幻獣を幻獣界に返す為の共同作戦を提案して来た。リターナーはこれを受け入れるも、ティナの存在が幻獣との和解を導いたと思った矢先、幻獣を魔石化する秘術を用い、再び帝国は魔導の力を持つ事になる。

 皇帝ガストラと将軍ケフカは封魔壁の更に先、幻獣界の最深部まで潜入し三闘神の像を手に入れ、幻獣界を魔大陸として人間界に浮上させた。ティナ達は力を合わせ、魔大陸に潜入してケフカとの決戦に挑むがケフカが三闘神の力を得る事を阻止する事が出来ず、世界の壊滅を招いてしまう。

 数年後、崩壊した世界でセリスはシドのと別れを経て各地に散らばる仲間と出会い、荒廃した世界の神として君臨するケフカを打ち倒し、世界は滅びの運命から解放される。


 といったストーリーだが、改めてこうして物語に触れながら思い返してみると、これってバッドエンドだよな、という思いが巡り出した。

 世界を破壊に導いた巨悪ケフカを倒す事で世界を救った感じを出しているけれど、そもそもその時点で世界の平和を守れていない。世界を救った事にするならば、魔大陸でケフカをしっかり倒して三闘神をさっさと封印しておかなければいけない筈だ。第一部完、とも取れたあの印象的なイベントムービーも、演出を変えたら最後にゲームオーバーと表示されても納得がいく。

 俺はゲームを置いた。急にこの物語を進める事が居た堪れなくなってきた。同時にあの時駅で見たティナの顔を思い出す。正確にはティナのコスプレをした人だが、あの寂しそうな表情は、何を物語っていたのだろう。ゲームのエンディングでは最後に未来へ希望を見出すかの如く踏み出した一歩を象徴するように、翔び立つ飛空艇で自らの髪を切る演出があるが、全てを失った世界で果たしてティナは求めていた運命を手にする事が出来ただろうか。

 もう一度アプリを立ち上げて再プレイしようと試みるも、やはり気が進まない。

 荒野の雪原を無機質に進む魔導アーマー。テーマ曲の哀愁に吹かれ、このゲームを救いたい。俺はそんな事を考えていた。


 駅前でティナを見なくなった。

 正確にはティナのコスプレをした少女か。

 俺がゲームをプレイしなくなった時期と重なる、と思う。だから俺の中からファイナルファンタジー6が再び記憶の奥底に沈んでいくまでに時間はそうかからなかった。

 ただ。

 ファイナルファンタジー6は悲しい物語。

 それだけが上書きされた。

 同時に、ティナをロックを、セリスも皆、世界を丸ごと救いたい。

 その気持ちもまた過去の記憶に上書きされていたのだ。

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