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自由な空の下  作者: 月陽
第八章 転換期
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変わらぬ日々


 侯爵親子と面会してから翌日の事。

 リュシオルは皇帝オードリックの執務室のソファで寛いでいた。

 相変わらず表情の読めないオードリックは指でリズムをとるようにトントンと打ち付けている。



(苛立っているなぁ)



 付き合いの長いリュシオルは皇帝が苛立っているのが手に取る様に分かる。

 まぁ苛立つ気持ちは良く分かる。

 オードリックにとっては大事な娘があの侯爵親子(あほ共)の頭の悪い言動で孤立気味になっているからだ。

 皇女が何も発信しないのも拍車をかけているのだろう。

 何故皇女はそれほどリディアーヌを邪険にするのか、さっぱり分からない。



「公女の様子は?」

「リディは家族以外のこととなると無頓着だからねぇ。噂は全く気にしてないし、交流も限られた令嬢だけだからね」



 今執務室には皇帝とその側近のアルシェとラザール、そしてリュシオルだけなので言葉遣いもいつも通りだ。

 オードリックは公女の様子を聞き、一瞬口角を上げた。



「公女様にお会いしたことはありませんが、やはり育ての親であるルヴェリエ殿下に似てくるのでしょうか」

「そうだねぇ。リディの場合は()()からの性格、かな」



 元々の性格、というのは嘘ではない。

 彼女の父親は目の前にいる皇帝でリディアーヌは父親によく似ている。

 本当は彼の娘なのだと知ったら直ぐに納得しそうだ。

 アルシェはリディアーヌの事を知っているがラザールには話していないので、彼の知りうる事は大公家が公表している情報のみで、純粋に疑問に思ったようだ。

 彼に話しても問題ないが、後で驚く顔を見るのも一興。

 


「それで、ルナール侯爵(あれ)の様子は?」

「今は大人しくしています。令嬢のやらかしで今は表立って発言出来ないでしょう」

「発言すれば己の愚かさを露見するだけですからね」

「令嬢は?」

「あぁ。令嬢でしたら領地で謹慎しているようです」

「珍しくもなんともないな。娘を道具としか思ってないような奴だ」



 オードリックは不快だという事を隠しもせずに呟く。

 その気持ちは此処にいる者達全員一緒で、だからこそ、あの侯爵が貴族派筆頭として自分の娘を使って貴族の血が入っていない大公家の養女であるリディアーヌを排除しようとしている事に怒りを感じている。



「暫くは大人しくしているだろうが、どうせすぐにそれも飽きるだろう」



 面倒だが一線を越えていないので今はどうでもいい事だ。

 そう、問題なのは皇女を害しようとする者がいて、その者の洗い出しだ。

 今回いい様に使われた男達から大した情報を得ることなく処分した。

 小物の中でも小物もいい所だ。

 そのような者を残し泳がしても得られるものは無い。



「皇女殿下のご様子は?」

「あれでも一国の皇女だ。あれぐらいの事気にしていない」



 オードリックはそう言ったがリュシオルはオードリックに視線を送る。

 その視線を受けたオードリックは、その視線の意味をちゃんと理解し大丈夫だと目を伏せた。

 リュシオルが気にしたのは皇女の心情だ。

 リュシオルは心配しての事ではなく、これ以上拗れるとリディアーヌに害になりそうで、可愛い妹を心配しての事だ。

 それはオードリックも分かっているのだろうは表情を見れば分かる。



「シオル」

「今分かっている事はそう多くありませんよ」

「構わない」



 今回使い捨てられた破落戸の口からは何も聞けなかったが、彼等に微か纏わりついていたの魔術の残滓を見つけ、リュシオルはそこから少しだけ情報を得ていた。

 記憶を消す忘却の魔術を使われていたが、その魔術の痕跡を完全に消すのは不可能だ。

 そこから得たのはその痕跡の特徴、魔術の質、そして人数だ。

 捕らえたのは四人だが、忘却の魔術を使用したのは全員同一人物なのかそうでないのかは魔術の質を見れば分かる。

 今回は一人だということが分かった。

 忘却の魔術を使用したのは一人だが、その四人と接触したのは一人とは限らない。

 小難しい魔術を使用出来るならば、あのような小物四人と対するのは一人でも容易だろう事は考えるまでもない。

 結論付けるのは早計だけど、相手の中には魔術に長ける者がいるのは分かったので、その魔術の痕跡、その質を元に捜索中というのが現状だ。



「そのまま調査続行し、有益な情報が分かれば直ぐ報告を」

「畏まりました」

「シオル、公女の警護も増やしておけ」

「既に父上が手配済みです」



 リディアーヌの護衛を増やす理由はふたつ。

 ルナール侯爵が本当の馬鹿ならリディアーヌに対して何かしら仕掛けてくるかもしれないという理由と、今回皇女に毒を盛る為に動いた連中が人身売買を行っている連中と繋がっているのではと疑っているからだ。

 その可能性がゼロではないので、リディアーヌ誘拐の件と、先の皇家直轄領で起きた件があるので少しでも可能性があるならば対策をしておくことに越したことはない。

 護衛を増やしたことに関しては本人には伝えていないけど、もしかしたら自力で気付くかもしれないし、そもそも彼女なら自分で対処してしまいそうだ。

 そこはオードリックも心配しているのか、釘を刺されたのでちゃんと伝えておこう。

 ここ最近は忙しくてリディアーヌと会えていないのか、それも相まって少し苛立っている。

 そしてそれを分かっていて話すリュシオルとベルトランの二人に密かに嫉妬してたりするが、それを面白がって揶揄っている自分達も少しばかり意地悪だったりするのは自覚している。

 ただ揶揄っているだけではなく、彼女の日常の姿を知って少しでも安心してくれればと思っているのも事実だ。

 リディアーヌの事を想えば、有無を言わさず皇室に戻す事は出来ない。

 きっと周囲と関わることをせず、ひっそりと暮らすことを選ぶだろう。

 若しくはあっさりとエクラタンから出ていくかもしれない。

 それは避けたいので今もまだ皇女の様子を見ている最中で結局何も進展せずにいた。

 皇帝として国を治める冷徹なる手腕、潔さはあるが、親として子供に向き合う事に関しては少しばかり慎重すぎるくらいだ。

 


「まぁリディもリディなんだけどなぁ」

「公女がどうかしたのか?」

「何でもないですよ」



 娘の事になると本当に敏感で地獄耳で睨まれるが笑って躱す。



「男爵令嬢の様子は?」

「体調はようやく安定してきましたので問題ないでしょう。男爵、男爵夫人と男爵家に仕える者達を調査をしましたが、怪しい点はありませんでした。彼等の処罰は予定通りでよろしいでしょうか?」



 予定通りという事は、令嬢は修道院送りに、男爵夫妻は領地にて一年間の謹慎処分だ。

 オードリックは顎に手をやり少し考える。


 

「令嬢が未成年という事、本人が代わりに毒を煽ったので多少考慮して男爵夫妻は予定通り男爵領で一年間の謹慎とする。令嬢に関しては、領地の修道院で一年間の奉仕、確か令嬢はアヴニール学園へ入学希望だったな?」

「はい」

「アヴニール学園への入学は禁ずる。もし学びたいのならば、エガリテ学園への入学は許可する」

「ではそのように男爵に通達いたします」



 翌日、呼び出された男爵夫妻に皇帝からの言葉を伝えると、極刑にされなかったことに対し感謝を述べ即日男爵領に向けて出発を約束した。

 その際、今回の事を令嬢と共に話し合い、もし不測の事態に陥った時、一人で抱え込ませないよう、同じことを繰り返す事のないよう話し合う事を勧めた。

 黒幕は捕まっていないが、これで一先ず落ち着きを見せた。


 その日の夜、久々にオードリックがリディアーヌの元を訪れていた。

 久しぶりだからか、リディアーヌを膝の上に乗せて離そうとしない姿にベルトランは呆れていた。

 その内リディアーヌに愛想を突かされるのではないかと思っていたが、彼女の様子は迷惑そうにしながらどことなく嬉しそうなので、その心配もいらないかもしれない。



「そろそろ下ろしてください」

「もう少しいいだろう?」

「私ももう十歳になりましたから」

「まだまだ子供だ。……嫌ならそうする」



 しょんぼり言われてリディアーヌがはいそうですかと言うわけがない。

 諦めたように結局膝の上に座り続けている。



「エレン、勉強は順調かな?」

「はい。大叔父様から学ぶ事が楽しくて、それに、メリュー先生に教えていただくのが面白くて毎日楽しいです」

「あぁ、エレンの家庭教師は()()ガエル・メリューだったな」

「最初は少々言葉がよろしくなかったので解雇しようと思ったのですけれど、あれから何も問題ない様なのでそのままにしておりますわ。それに、エレンが彼を気に入っているようなので学園入学するまでの間はそのままでよいかと」

「報告は受けているので、エレンが望むままに」

「畏まりました」



 話を続けながらオードリックはエレオノールの頭を撫で続ける。

 流石にそろそろやめてほしい彼女はオードリックを見上げ、目で訴え続けるが、にこやかな顔をして素知らぬふりを続けている。

 それを目の前で見ているベルトランとフェリシエンヌは仲良く心の中でため息を付くのだった。



 暫くは何事もなく穏やかな日々が続いている。

 リディアーヌは勉学に励み、訓練を積み、あっと言う間に一年が過ぎ十一歳になっていた。

 この一年で更に背が伸びて同年代の子達と同じくらいに成長し、更にオードリックに似てきていた。

 姿を変えているのは髪と瞳の色だけなので顔つきが似てくると流石に勘の鋭い者なら何か勘ぐるかもしれない。

 ただ相変わらず皇女の態度は一貫してリディアーヌを嫌っている。

 言葉を交わすも必要最低限で、お茶会も挨拶のみだ。

 こうなったら皇女と公女の仲が悪いと噂する者も増えてきた。

 そうなるとリディアーヌの交流も明らかに少なくなる。

 元々交流は少ないという事もあるが、お茶会へ呼ばれない事も増え、皇女に嫌われているなら近づかないでおこうと距離を取られることもしばしば。

 それが公女の出自を噂する事もまた増えてくる。

 それでも変わらずリディアーヌと友人として接しているのがフロランス、エミリア、アマリアの三人で学園が忙しいだろうに手紙のやり取りが続いている。

 夏季休暇に一度お茶会へ呼ばれて参加すると、噂を聞いているだろうに変わらず接してくれてリディアーヌもこれには安堵した。

 本当に優しい友人を得てリディアーヌは嬉しかった。

 それからまた一年と年が過ぎ、リディアーヌは十二歳の誕生日を迎えた。

 エルネストは今年から学園へ通うので、リディアーヌと会えない事が増えると嘆いていたが、学園の様子を教えてくれると約束した。

 学園は寮もあり、自宅から通う事が難しい者達、希望する者は寮へと入り、それ以外の者は通う事もできるので、エルネストは通いにするようだ。

 かくいうリディアーヌも通いにするようにとベルトランから言われている。

 それよりも先ずは学園へ入学するための試験を突破する必要があるので、決めるのはそれからだ。

 メリューはリディアーヌの学園の入試試験に関しては何ら心配をしていないようで、授業はいつも通り行っていくと話していた。

 特に入試試験対策をする必要はないだろうとの事だったので特に勉学の内容を変更することはなかった。

 先生がそう言うならとリディアーヌも特に気にすることはなかったが、彼の授業も後一年と言う事に少し寂しく思う。

 それでも学園へ入るとまた違った景色が見られるのではないかとリディアーヌは来年入学する学園生活へと思いを馳せた。


ご覧いただきありがとうございます。


第八章終わりです。

次章更新まで少しお時間いただきます。

また楽しみにお待ちいただけると幸いです。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m


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