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エピローグ

 

 住処にしている獣もいなく、旅人でさえ滅多に訪れない雪原。

 

 そんなところにポツンと寂しげに建てられている木の小屋と近くにあるカブ畑。グリゴリーはそこで雪を被りながら、片腕で土をいじっていた。


「寒っ」


 あれから月日が経ち、氷国は冬になった。


 景色は雪ばかりで全く分からないが、気温に関してはさすがにいっそう低くなっていた。


 頭上で山になっている雪を払う。


 邪魔だったものをどかし、グリゴリーは作業に集中する。


 半日が過ぎると、今日の分の作業が終わった。以前と変わらない仕事速度。すっかりグリゴ

リーは隻腕に慣れていた。


 落ちかけていた夕日が、完全に向かいの空へ消えた。


 夜に染まっていく空を見上げながら、グリゴリーは考え事をする。


(今頃、頑張っているんだろうな――マーシャ)


 氷神との対決後、マーシャは機器から運び出され、神たちによって治療された。無事、元の健康な状態に戻った彼女はグリゴリーとの再会を嬉しがっていたはずだった。


 それからマーシャは何も言い残すことなく去った。


(マーシャはサンタクロースなんだ。火国も氷国も関係なく、子供たちを幸せにしたいから戦争にも手を貸さなかったんだ。氷国が強くなれば、敵国の子供たちが犠牲になるから)


 そんな筋金入りの思いを抱いている女だから、俺は惚れたのかもしれないな。


 だからグリゴリーはマーシャを探さなかった。


 あのたった一度の再開から、半年以上は経っていた。


(今日はクリスマス。もう大人になった俺には関係ない日だ――頑張れマーシャ。昔の俺のように困っている子供たちを助けてあげてくれ)


 会いたい。


 うっすらと浮かんでしまったその感情を消すために、グリゴリーは強く別のことを思った。嘘ではないが、真っ先に浮かんだ言葉でもなかった。


 粉雪の下で、春には空にあった鍵座の位置へ目を向けた。


「えっ?」


 小さな光が見えた。


 冬にはそこに星がないはずだ。あるとしてももっと細かい。


 意識を向けると、音が鳴っていた。


「……リゴリー……グリゴリー!」

「マーシャ! あと熊!?」


 マーシャが乗ったビリヴォスカーを空に浮かぶ魔獣が引いていた。


 落ちてきた魔獣は、近くの地面に着地した。


 同時に降下したビリヴォスカーから、マーシャが出てきた。


「えーと……」

「…… マーシャ。久しぶり」

「うん! こんばんはグリゴリー!」


 不安そうに口ごもっていたが。マーシャの名前を呼ばれた彼女は、満面の笑みとなった。


 それを見て、先程までの鬱々とした気持ちがグリゴリーの中から消失した。


 二人は笑って、お互いの目を合わせる。


「ちゃんとご飯食べてた? 料理、面倒くさがってない?」

「面倒くさがってたよ。カブも生で食ってた」

「やっぱり」

「しょうがないだろ。一人だと別にする必要ないんだから」

「じゃあ今日からするってことだね」

「え?」


 戸惑うグリゴリー。


 うふふ。

 マーシャはちょっと口元を崩してから、嬉しそうに言った。


「ぼく。これからまたここに住んでもいい?」

「……いいけど……いやよくないというか、サンタクロースの仕事はいいのか? あんなにも拘っていたのに」

「それは昨日、頑張ってきたよ。ちゃんと子供たちにプレゼントを届けた……ねえクリスマスって何の日か知ってる?」

 

 グリゴリーが答える前に、マーシャ自身が説明した。


「家族、友達――そして恋人と一年の終わりを祝う日。最初ぐらいはぼくグリゴリーと過ごしてみたかった」

「…マーシャと俺は何なんだ? 友達? 恋人?」


 キョロキョロ。


 周囲に何もないのにマーシャは左右へ目を向ける。俯いた後に顔を上げて、グリゴリーと目を合わせる。その顔は真っ赤だった。


「……恋人」

「……」

「だ、駄目だった? ごめん。そうだよねぼくみたいな女なんて好きじゃないよね……ぼく君に迷惑ばかりかけちゃったし、年齢もずっと上だしね……君から好きって言われて、ぼくも好きだからそうじゃないかなと思ったんだけど……そうだよね、一時的な気の迷いだよね……グリゴリーにはこんなおかしな女より、エヴァさんみたいなもっと若くて綺麗な人が……」

「ありがとう」

「うわっ!」


 哀しさのあまりマーシャを、グリゴリーは片腕で抱きしめた。


 戸惑っているマーシャヘ話しかける。


「マーシャ。嬉しいよ。俺、今すごい嬉しい」

「そうなんだ……よかった……」


 二人とも目の端に涙を浮かべる。


「俺、本当はこうしたかった! だけど自分からは言えなくて……男のくせに情けないよ。でもお前のことに関しては、ついこうなっちまう」

「うん。ならよかった」

 

 あまりの歓喜につい本音を暴露してしまうグリゴリー。

 

 残った片腕に抱かれながら、マーシャは無くなった腕の跡へ振れた。


「ねえグリゴリー」

「何だ?」

「君にクリスマスプレゼントがあるの。受け取ってくれるかな?」

「貰う。お前から貰えるなら何でも嬉しい」

「もう……ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」

 

 数秒、暗転するグリゴリーの視界。

 

 気付くと、言い知れぬ違和感があった。

 

 マーシャの視線を辿る。

 

 するとそこには、失われたはずの右腕があった。


「どういうことだ? 神でも治せなかったはずなのに」


 困惑するグリゴリーの前で、マーシャはほっと安堵の息を吐いた。


「良かった。これをするために今日までずっと頑張ってきてから」

「じゃあマーシャがいなくなったのって」

「うん。だってあんなにグリゴリーが頑張ったのに、当の本人は失うだけっていうのはおかしいじゃない。だからせめて取り返しのつかないものくらい取り戻してあげたかった」

「もしかしてプレゼントしたかったものってこれ?」

「違うよー。だってあの時は腕あったでしょー」

 マーシャは否定してから、答える。

「本当は、ぼくをあげるとかいたい告白しようかと思ってたけど、グリゴリーに先に言われちゃったから――」

「うぉおおおおお!」


 もう一度、マーシャを抱きしめるグリゴリー。


 片腕だとどこかへ抜けていってしまいそうだったが、今度は両腕にすっぽりとマーシャが収まる。


「勝手に消えやがって! もう二度と離さないからな馬鹿!」

「あはは。もう痛いよ」

「旦那。いきなり騒いでどうしたんですか? うわ! 実家に帰ってたはずの姉御がいる!」

「あはは。ただいま」

「姉御がいるのか! よし。なら今夜はパーティーだ!」

「再会に乾杯!」


 家の中から出てきた三人組が、マーシャを発見した。


 歓迎され、喜び合う二人の声が、雪原の片隅に響き渡る。




 この次の年からからクリスマスの当日は家族や大事な人と過ごすようになり、プレゼントは前日に渡されるようになった。氷国ではその日を、クリスマスイブと呼んだ。


完結まで読んでくださり、ありがとうございました。

本来ならばとっくの昔に終わってるはずなのに加筆を行い、さらにはそれも何度も挫けるという体たらくを行ってしまいました。

次の連載では、このようなことなく定期的に読者の方を楽しませていきたいです。


最後に、このような拙作を読んでくださってくれた方へ心より感謝します。

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