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金髪美女、グリゴリーからさらなる過去を語られる


 意識が回復したグリゴリーだがまだ回復しきってないらしく、毒も抜けてないため、もう少しこのままでいる必要があった。

 

 それを聞いて嫌そうにするマーシャだったが、どこか嬉しそうでもあった。

 

 グリゴリーはこれまでのいきさつを、マーシャから聞いていた。


「ビシューンゴーンバーン。それでぼくがゴロゴロしてたらーバシャバシャキーでなってー」

「すまん……分からん……」

「ええそうー? それならードララララってあの熊さんがー」

「ああうん……そうか……」


 根本的にお前の話は何を言っているの分からない。

 

 と指摘したいところだったが、疲れるのでグリゴリーは特に文句を言わずに聞くことにした。


「それでピカーンとグリゴリーを見つけたのー」

「ええとつまり……頭痛い……」

「大丈夫? 毒のせい? 薬飲む?」

「そういうわけじゃないから平気だ……とにかく、あのマーシャが前に助けた獣の子供が、今度は逆に助けてくれたってことか?」

「そうそうー。あっ、そういえばあの子たち無事かな?」


 興奮していた様子が一転した。

 獣の子たちのことを思い出したマーシャは心配する。

 

 グリゴリーは優しく声をかける。


「大丈夫さ……あいつら――フェーヤはよっぽどのことが無ければ殺されなんてしない。いたずら好きの動物で、ともかく逃げ足が早いし、察知も凄い。それにどれだけ強く飛ばされても、あいつらは羽で飛んで落下を防いじまうからな」

「じゃあ何であの子はオオカミに傷つけられてたの?」

「まだ子供だからな。油断しているところを狙われたんだろ」

「ああーなるほどー……ねえところでさー?」

「ん。何だ?」


 マーシャは手元へ、手を伸ばした。


 グリゴリーは下腹部の一点に、違和感を覚える。

 

「この固い棒みたいなのって何ー? 袋には入ってなかったと思うんだけど。というか最初はこんなものなかったよー」

「……知らん」

「そうなのー? というかこれ邪魔で」

「力入れるな! 手どけろ!」

  

 気まずそうに眼を反らしていたグリゴリー。

 慌てて、マーシャに言う。

 

 無邪気に首を傾げるマーシャの隣で、グリゴリーは顔を真っ赤にした。


 この話題には触れないようにしながら、寝袋の中で二人は会話を続ける。


 お互いの息が何度も相手の顔にかかる。

 

 数か月、同じ屋根の下で過ごしたがこんなに近い距離でずっといるのは初めてだった。

 

 二人とも心臓をドキドキさせる。


 あえてそこにはどちらからも触れない雑談が続く。

  

 やがて、グリゴリーは謝った。

 

「どうしたの?」

「今日まで色々と迷惑かけた。ごめん」

「気にしなくていいよ。ぼくが勝手に拗ねてたところもあったし」

「……ありがとう」


 グリゴリーはマーシャが今までより大きくなったのを感じた。

 単純な体の体積のことではない。

 

 まるで幼い子供が成長して、大人になったようだ。

 

 そんな彼女の変化が嬉しくありつつも、自分の元から遠くにいってしまったようで寂しさを覚えた。

 

 今なら話してもいいかもしれない。

 

 グリゴリーは、マーシャヘ言葉をかける。  


「昼間のサンタクロースの件についてだけど……」

「うん」

「……昔、俺は本当にあの人に会ったよ」

「うん。知ってた」

「見透かされてたか」

 

 態度から察したのだと、グリゴリーは考えた。

 

 マーシャは首を横に振って、否定した。


「ううん。違うよ……言ったでしょ……君はそんなことじゃ怒らない人だって。見抜いたとかそういうんじゃなくて信じてただけ」

「だけど俺はあんたに嘘教えたぜ?」

「それも違うよ……あの時はショックで分からなかったけど、何も分からないぼくにいきなり例外を教えて、学ぶことに混乱を起こさせたくなかったんだよ君は。実際、覚える必要はなかったもの」

「……過大評価だ。そこまで考えてない」


 マーシャは、ボソリと言った、


「……嘘つき」

「信じてるんじゃなかったのか?」

「そういう嘘は吐くよ君は。信じるっていうのは言葉全部を鵜呑みにすることじゃない。顔を合わせて、話して、一緒に行動して相手を深く知ることだよ……だからぼくは君のことはいっぱい信じてる」

「……負けた。とりあえず本当のことをこれから話すよ」

 

 広い場所だったのなら、両腕を挙げて降伏しているグリゴリーだった。


 マーシャは尋ねる。


「それで会って何をもらったの? サンタクロースって子供にプレゼントくれるんでしょ?」

「両親」

「え……」


 考えてもいなかった発言に、唖然とした。


 隣で、グリゴリーは詳しい話を始めた。

 

 遠くを見つめるような瞳で、口から言葉を紡いでい。く 


「俺の両親は子供のころに死んだ。父が五歳の時で、母が六歳の時だ。父が病気で死んでからは母も元気を失って今すぐにでも死んでしまいそうだった。だけどそれでは俺が生きられないだろうと、俺に一人でも生きていける術を教えてから、跡を追うように同じ病気にかかって死んでいった」


 立派な人たちで、どちらも大好きだった。

 だから、悲しさを引きずりながら独りで生きた。


 自分の感情を語ったグリゴリーの顔は本当に寂しそうで、当時もこれと似た表情をしていたのだろうとマーシャは思った。


 淡々とした語り口が続いた。


「母が死んでから三日後、俺は泣いた。耐えようと耐えようとしても涙が出た。二人に立派な姿を見せようとしたが声だけしか抑えられなかった。家族の死は、子供の俺にとっては絶望だった。せっかく生かしてもらった命なのに、会いたいばかりに自分も死にたいと思っていた……あの人に出会えたのはその夜だった」


 今ではどんな顔なのかも覚えていない。

 と、グリゴリーは言った。


「でも、あの人は俺にとって念願のプレゼントをくれた……両親と一日だけいる時間。母と父と出会い、最後に励ましてもらった」


 幻なのかと思えるような出来事。

 

 朝になると、家にいる両親。

 普通ならば考えられない光景なのに、グリゴリーはあの二人が自分の両親だと疑わなかった。

 今でも、あれは本当の父と母だと思っている。


 三人で過ごす日常。

 朝から父と畑仕事をして、休憩時間に格闘技を教えてもらう。昼に母が見守りに来てそれから頑張るとすぐに夜になって、三人で一緒に手を繋いで帰る。母が事前に用意していた夕飯を食べて、眠くなるまで会話をしてから、三人で並んで同じベッドに寝た。


「たった一日だったが、二度と味わえないと思っていたものが起こった。そのおかげで俺は生きる気力がわいた。二人が守ろうとしてくれたこの命を無駄には散らせはしないと、あの日から変わらず心に留め続けている」


 右手を胸に置いた。

 そこにその思いがまだあるということなのだろう。

 マーシャはその上に自分の手を重ねた。


「ん」

「あっ、ごめんつい。離すね」

「いや。いい」


 マーシャが手を戻す前に、グリゴリーは引き留める。


 その状態のまま、彼は語る。


「サンタクロースは俺の恩人だ。声さえ忘れてしまった薄情者だけど、誰が否定しても俺だけはあの人の存在を信じ続ける」

「そう……」

「思えば、マーシャを助けたのはサンタクロースに似ていたからかもな」

「え?」

「姿形も何もかも覚えてない。でも何故か、似ている気がする」

「……今こうしているのも、ぼくがサンタクロースに似ているから?」

「違うかな。多分……明確に言葉には出来ないけど、今マーシャに抱いてる気持ちとサンタクロースへの気持ちは違う」

「それならよかった」


 マーシャは手を動かす。

 乗っているグリゴリーの手をどかしたと思えば、指を絡めとる。

 お互いが相手を握り合っている状態になっている。

 

 グリゴリーが力を込めると、マーシャも込める。

 離しそうになると、くっついてくる。

 相手の反応を面白がって、二人とも色々な動かし方をする。

 

 そうしている内に、マーシャは口を開く。


「ねえグリゴリー」

「ん?」

「ぼくと、家族になろうよ」

「……どういう意味で言ってる? その言葉」

「え? 体が治って記憶が戻っても、前みたいに一緒に二人で暮らしたいなってことだけど」

「それだけ?」

「うん。それ以外に何かあるの? お互い天涯孤独の身だし、ちょうどいいんじゃないかなって。この前、誰かに君のことどう思っているか聞かれてぼくなりに考えてみたんだけど……ぼくにとってグリゴリーは唯一無二の家族かなって。でも一方的に決めつけるのもまた違うから、こうして許可をもらおうと思ったんだけど?」

「ああ。そういうことか……まあマーシャは家族がいるかもしれないんだし、そういうのは記憶喪失が治ってからだな」

「……そうだね」

  

 欠伸するマーシャ。

 

 布のわずかな隙間から、外が明るくなっているのが分かる。

 

 それから数秒後に、眠りにつくマーシャ。

 

 ガ―ガ―。

  

 大きないびきをたてる。

  

「やっぱりまだ子供だな……」

  

 寝てる横顔を、兄が妹を見つめるように愛しく思うグリゴリー。

 

 森から音が聞こえる。

 大きな足音だ。

 

 グリゴリーは寝袋を開いた。

 

「さて次は俺の番か」


 寝袋から出ると、服を着て、リュックを拾いにいった。






 朝日が山を照らしていた。

 なだらかな平原は白く輝き、森は色を鮮やかにする。

 葉に露が溜まり、風でそっと落ちていく。


 その雄大な風景が震えた。


 力強い音が鳴ると同時に地面が揺れて、振動が全体に伝わる。

 落ちた木々の欠片が潰されて、地面に亀裂も作られていく。


 木々の間から、魔獣が現れた。


 殺気溢れる姿で首を回す。

 遠くまで獲物の匂いを嗅いだ。


 いた。あの女の匂いだ

 

 マーシャの位置が分かると、魔獣は疾走した。

 飢えと怒りが、昨日よりもさらに限界の力を引き出させていた。

 

 走る魔獣の前に、男が現れた。


 一度倒した相手だ。

 邪魔にもならん。


 魔獣は突進し、男の肩を爪で刺し貫いた。

 やはり昨日のダメージが抜けておらず、男はふらふらと揺れてまともに立つことさえ不可能だった。そんな弱った相手を狙うことは、魔獣にとって造作もないことだった。

 また毒が全身にすぐ回る。

 もはや案山子になった邪魔者を完全に排除するため、噛み砕こうと牙を落とした。


 魔獣の腕に、男の腕が回る。

 逃げられないようにしてから、拳を放つ。


 ドス!


 魔獣の眉間に、獣殺しの矢が刺さった。

 

 カウンターを急所へまともにもらって昏倒する魔獣。


 全体重を預けてくる魔獣を、グリゴリーは地面へ降ろした。

 

「今度は油断しないからな」


 毒は確かに効いていた。

 だけど死地から回復したことで、グリゴリーは魔獣の毒に対する抗体を得ていたのだ。


 腰にかけていたロープを手に取ると、眠っている魔獣を締め上げていく。

 終了する前に一度起きたが、また重鋼弓で気絶させた。


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