襲撃と発覚
「能力の寿命がなくなると死ぬって……どういうことですか…?」
沙夜裡は表情を変えず、ただ事実を述べた。
「どういうも、何も……。そのままの意味。能力には寿命があって、それが尽きれば私たちは死ぬ。ただ、それだけ。変わらない事実よ。今まで生まれてきた能力者はもちろん、これから生まれてくる能力者全員が背負っていく事実。呪いのようなものよ」
由姫は信じられない、と言った表情で首を振った。
「ありえない………ありえないよ……そんなの、嘘だよ……。…そしたら、皆、死んじゃうよ………!!」
「由姫。あたしらは死ぬ運命にあんだよ。絶対変わらない事実なんだ。変えられるなら………」
透は沙夜裡をじっと見た。
「沙夜裡先輩が、とっくに解決の糸口を見つけてる」
「信用してくれてるのかな?ありがと。………理由はわからない。そもそも、能力が現れるのだって理由がわかんないんだから」
由姫は溢れそうな涙をこらえ、
「…………っ、そういえば、さっき、篠音さん、能力が現れるのに、みんな共通のものがあるって言ってなかった……?」
「ん、あ、うん。……あのさ、由姫ちゃん。今まで………小学校の時とか。透ちゃんの手に触れた後、走るの速くなったり……痛みをそこまで感じない……そういうこと、あった?」
由姫はしばらく考え、首を振った。
「……ううん。無かった。………あ、けど、中学校に入ってから……2回くらいあった気がする」
篠音はお茶を飲み、
「……やっぱりね。それが、共通のものよ。私たちは全員…………中学生になってから、能力が現れたの。唐突に、ね」
「……中学生になってから?」
「ええ。……いったい、何でなのかは分からないけれどね。……………由姫ちゃん、混乱してるね。無理もないか。こんな話、ねぇ……」
篠音はふぅ、とため息をつく。
「……うん………わかんない………もう、何がなんだか……」
篠音は立ち上がった。全員を見下ろし、
「しょうがないわね。………お開きにしましょうか。明日は休みだから、ゆっくり休んで。明後日は部活有りよ。夜斗君、汰火に伝えといて。由姫ちゃんたちは由ちゃんに伝えておいて。いい?」
3人とも頷いた。
「さ、じゃあ帰りましょ!!遅くなっちゃったしね……」
全員が帰宅の準備を始めた。
由姫はこの場で見聞きした事が信じられなくて、その場に座ったままだった。
そんな由姫に篠音は近づき、ある物を渡した。
「由姫ちゃん、これ。持ってて」
「……?ペンダント?」
月の形をしたペンダントだった。
「皆には内緒にしていて。けれども、必ず身に付けておいて。お風呂の時も、よ。濡れても大丈夫な物だから」
「う、うん………」
「必ず。必ず、あなたの力になる。あなたに真実を与えてくれる。あなたの………目を覚まさせてくれる。………じゃあね!」
篠音は走っていった。
その後、全員無事家に辿り着いた。
由姫はお風呂に入りながら、篠音からもらったペンダントを眺めていた。
水色で、美しい銀の光を放っている。
「…………う~ん、これ……。……なーんか、どっかで見たような気がするんだけど……どこだっけ………?」
しかし、考えても思い出せなかった。
――翌週、部室にて――
「やっほー、みんな。………っと、あら、珍しく全員揃ってるじゃない」
「あ、先輩!そうなんですよ、今日は珍しく汰火も来ていて……」
篠音が汰火を指す。
「あれ、生徒会は良いのかい?」
「行こうとはしたんですが……中からなんかめっちゃモメてる声聞こえたんで逃げてきたんです。あの声、たぶん書記のやつだから……苦手なんです」
汰火が困ったように言った。
元々は行く予定だったらしい。
「生徒会長が逃げてどうするんだか……」
汰火は由姫の言葉をスルーした。
「どうするの、部長。最近全員で集まれてること無かったし……何かやったら?」
篠音は考え込んだが、諦めたようで
「んー………無理っ、私そーゆーの考えられない!!!と、いうわけで副会長にパス」
梨奈は迷惑そうな顔をし、
「ええっ………梨奈が考えるの……?うーん………」
梨奈は先程の篠音と同じように考え込んだ。
由は紅茶を飲み、透は補習で出された課題をやり、由姫は音楽を聴きながらゲームをしている。
文弥は分厚い本を読み、夜斗は何かの計算をしている。
汰火は、生徒会長らしく書類に目を通している。
篠音は部室で育てている植物に水をやり、沙夜裡は編み物をしている。
そんな、桜部部員の変わらぬ日常。
―――は、ここまでだった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!誰か助け………っ!!!やめてえええええ!!!!!!」
女子生徒の叫び声と共に、大きな爆発音が聞こえた。
篠音は立ち上がり、
「何の音っーーー!!!?」
再び大きな爆発音が聞こえた。
今度は、もっと大きく、その分生徒の叫び声も大きくなった。
「ぎゃあああああああ!!!!!!助けっ………!!」「わああああああああ!!!!!!!?やめろおおお……っ!!?」「誰だお前………うわああああああやめてくれええええ殺さないでくれええええ!!!!!!」
さっきよりも酷くなった。
「一体………校舎で何が……!?」
梨奈は信じられない、と言うように立ち上がった。
篠音は相手に心当たりがあったようだ。
「っ…………あいつらか、まさか。……汰火、夜斗。1年生連れて、逃げて。地下のシェルターなら大丈夫だから」
「わかった。………部長、死ぬなよ」
汰火は篠音を見ずに、声をかける。
篠音はそれに頷き、
「当たり前よ。私を誰だと思ってるの。…………部長よ!!!」
9人は二手に別れて走り出した。
「由姫たち、急ぐぞ。俺らもあいつに加勢しなきゃならないんだ」
由姫はそんな見たことのない生徒会長に困惑した声を出す。
「ちょ、ちょ、ちょっと。なんなんですか!?シェルターって……」
夜斗が答えた。
「あんまり詳しく説明してる暇はないんだけど……恐らく、この前文化祭でテロを起こそうとした奴らの部隊だと思う。……戦闘部隊、ね。君たちには危険すぎるから……絶対安心なところ、つまり地下のシェルターに行ってもらう」
「篠音さんたちは!!!?」
「一般生徒に被害が出てる。恐らく、能力者がいる。最悪の場合、部隊全員が……。……だから、能力者には能力者。一般生徒の被害を最小限に抑えるためにも………僕らが行かなきゃ」
「そんな………!!」
先を走っていく夜斗に、後ろを守っていた汰火は声を上げた。
「夜斗、止まれ!!!!!!火薬の匂いっ……!!!」
「えっ……………っ!!!!」
あと一歩踏み込んでいたら死んでいた、というところで夜斗は止まった。
「っ、これじゃ、先に進めない……!シェルターにいけない…!!!」
「…いや、夜斗、ある。……能力、使ってくれ。頼む。部長たちの方に行かなきゃなんないが………それ以外に、方法がない」
「……っ、わかった。その場その場で合わせるように設定する!!…………よし、行こう!!!!!」
由姫たちは篠音たちが走った方へと走り出した。
「はっ、はっ、はぁ………」
由はさっきから何も言わず走ってきたが、そろそろ疲れてきたようだ。
「由ちゃん、大丈夫……!?」
「え、えぇ、だ、いじょ、うぶ、ですわ……。生き、残りたい、で、すものね…っ!!」
しばらく走っていくと、敵らしき人物がいた。
「て、敵っ……!!!」
「おい、いいか。静かにしてろよ。そしたら、気づかれない」
「僕が能力を使っているから………お願い」
「は、はい………」
静かにして走ると、敵は気づかなかった。
「す、すごい……。………熱っ!?」
「どうした、由姫…………っ、炎っ!!?あいつら、何使いやがった!?」
向かっていた先には、火の海が広がっていた。
中には、動かない人の姿もあった。
「汰火、こっち行こう!!まだ、こっちなら間に合う!!!」
「わかった!!行くぞ!!!」
汰火が後ろから由姫たちを押す。
しかし、全員疲れが出始めていて、思うように足が動かなかった。
「っ………くそっ……何だよ、これ………」
「はあっ、はあっ……」
「う、うう、っ、はっ………」
透は思い出したように叫んだ。
「みんな、あたしに触れて!!!!」
「なん…………そうか!!」
「あたしの、サポートでみんなの色んな部分………回復できるはず!!!」
「けど、とーちゃん……!!!」
「由姫、話は後だ!!!今は、生き残らなきゃならないんだ!!!」
「っ…………とーちゃん、ごめんねっ……!!」
全員が透に触れた。
その瞬間、全員を光が包んだ。
「っ……おお!!なんか、回復した気がする!!」
「……いつまで、もつかわかんないし……早く、いこ…!」
透が少しふらついているのに気づいたので、また走り出した。
「ねぇっ……まだ、なの……?」
「さっきの、道が一番の近道だった、んだよ……!」
「こっちの、道………とお、まわり………なんだよね……」
「はあっ…………透!!?」
透が、膝をついた。
「とーちゃん!!?大丈夫!!!?」
「っ………はっ……わっ、わり、いな………くそっ………!」
透は立ち上がったが、足が震えている。
この状態で走り出したら、すぐにダメになってしまうだろう。
「………あった!!あそこだ、シェルター!!!!」
汰火が指したのは小さなホールだった。
文化祭で、合唱コンクールをやったところだった。
「行くぞ!!!!あの地下にいれば、地上がどうなっても無事だ!!!!」
「とーちゃん、いける…!?」
透は、ニカッと笑い
「ああ……!!行くぞ!!!!」
そう言った瞬間。
目の前で、そのホールは爆発した。
その中から、人が現れた。
「…………誰だ?」
「………………くくっ。あははっ。まさか、こんなに速く見つけるとはな……!」
「誰だと聞いてる!!!」
その人はフードを取った。
男の顔が、中から出てきた。
「俺は、ブリンキン。………ま、この騒動を起こしたわけだが………」
由姫をじっと見つめ、ニヤリと笑った。
「こんなにも早くタイムマシンが見つかるとは……!はっ、ついてるぜ……」
汰火と夜斗は気づいたように声を上げた。
「誰が、渡すかよ…!!!!」
「絶対に、渡さない…!」
しかし、ブリンキンは2人をどけるように右手を出した。
「退けよ。爆発したいってんなら退かなくていいけど」
しかし、2人は退こうとしなかった。
ブリンキンは声を上げて笑い
「はははっ!!!そんなに死にたいのか!?じゃあ…………苦しませず、殺ってやるよ!!!!!」
ブリンキンが右手を振り上げる。
夜斗と汰火は目をつぶる。
―――もう、ダメだ。
しかし、いつまで経っても自分が死んでいるという感じは、全くしなかった。
恐る恐る、目を開けると。
―――目の前には、黒髪の女神が立っていた。
「………私の許可なく、由姫を奪おうとしないでくれるかしら」
由姫はその女神に、見覚えがあった。
――どれくらい前だろう。あの、謎の言葉を放った少女だ。
汰火と夜斗は驚いたように少女を見つめた。
少女の後ろにいるはずの、ブリンキンは跡形無く消え去っていた。
「君は………一体………」
少女は髪を撫でながら答えた。
「………神城、咲。能力……未知数」
「能力、未知数………だって?んなこと………あるのか……?」
咲は表情を変えずに
「失礼ね。たしかにここに存在してるわよ」
「神城………さん………なんで、私の名前………」
「咲で良いわ。ま、その話は後にして………全員、こっちに来て。早く」
由姫たちは大人しく従った。
「ん。………回復」
咲がそう呟くと、全員をまばゆい光が包んだ。
さっきの透よりもまぶしかった。
「っ、なんだこれ………さっきの疲れが嘘みたいに……」
「消えちゃった……」
由姫たちは体を少し動かした。
異常は無さそうだ。
「ちょっと………ここに、座っていてもさっきと同じ事になるよ。さっさと移動するわよ」
咲がそう言った時、後ろから馴染みのある声が聞こえた。
「そこにいるの………夜斗君!?汰火!?由姫ちゃんたちも……!!?」
篠音が走ってやってきた。
「な、何やってるの!!!?シェルターは!!!?」
「目の前で爆破されたよ……。死ぬかと思ったとき、その人が……」
篠音は汰火が指した方を見た。
咲は「ただ、私の目的のためだったんだって……」と呟いていた。
篠音は咲の方に行き
「……ありがとうございます。ええと……」
「自己紹介は後だよ、長谷川篠音。今はとりあえずこの子たちを助けなきゃ……」
そう言って、咲は逃げれる場所を探すために見渡した。
「んー……とは言っても……敵には爆破能力が4人。ほぼ施設が壊滅してるのよね……」
考えているとき、後ろから2つの人影を由姫は見た。
「篠音さん、咲ちゃん、後ろーーーっ!!!!」
篠音と咲が振り向くのと、ほぼ同時だった。
敵と思われる、2つの人影は篠音と咲の体を剣で貫いた。
2人の体から、血が飛び出た。
その血は、目の前にいた由姫に全て降りかかった。
―――何、これ?赤い………水……?
―――ああ、篠音さんと咲ちゃんから出たのか。
―――篠音さんと咲ちゃんから?
「う…………あ………あああ………あああ………!!!!」
由姫は頭を抱えて、叫んだ。
―――篠音さんと咲ちゃんが、刺された。意味なく。なんで。なんで。なんで。なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
由姫の中で、なにかが壊れた。
由姫の周りを激しい光が包む。
「ゆ、由姫!!!!!駄目……!!」
咲は必死に由姫に呼びかけるが、由姫には聞こえていない。
「あああ………あああああ…………いやだあああああああ!!!!!!!!!!」
その場の全員の目は、まぶしい光によって閉ざされた。
「……………ん…………。…………えっ?」
由姫が目覚めたのは、自分のベッドの上だった。
「私…………どうしたんだっけ…………っ、そうだ、篠音さんたちと………!!」
由姫はベッドから跳ね起き、急いで部屋を出ようとしたとき、信じられない物を目にした。
机の上にある時計は、信じられない事実を示していた。
「嘘……………過去に、戻ってる……!?」
時刻は、学校が襲撃される1週間前。
文化祭後、初めての部活日だ。
「なんで…………なんで………なんで、どうして、どういうこと…………!!?」
由姫の運命は、少しずつ形を変えていく。
少しずつ、少しずつ。
しかし、確実に。
最終的には180°。
END




