波乱の乱舞祭―準備期間編―
「ひょわぁ~………文化祭って、こんなにも盛り上がるんだね……!」
由姫が感心したように呟く。
そう、今日は由姫達が待ちに待った文化祭。
5日間かけて行われる文化祭。
『乱舞祭』の1日目である。
「こ、こんなにお客さんいるんだ……。だ、大丈夫かな、ちゃんと部室来てくれるかな……」
「大丈夫よ、由姫ちゃん。お菓子も配るし、桜についてだからみんな興味を持ってくれるわ」
「そ、そうだよね、篠音さん!うん、うん、大丈夫………」
由姫がそう言いながら人の字を手に書いていく。
篠音が透に苦笑を向けた。
透も苦笑し、
「いつものことなんで無視して大丈夫っす」
と言った。
梨奈が思い出したように透に向き直り
「透達はクラスの方に行かなくて大丈夫なの?なんか、透達のクラスはカフェやるらしいじゃん」
「大丈夫です、梨奈先輩。クラスの方々には準備期間の時にお手伝いしましたから。お茶の入れ方から、客へのおもてなし、何から何まで……」
「あ、副部長、聞き流してください。話し始めると長いっす」
「ふーん……そうなんだ…………あ、ねぇ、透」
「はいっ?」
「いい加減『副部長』とか『部長』とか止めてよ。由みたいに『先輩』でも由姫みたいに『さん』でもいいからさ」
突如言われたので透はぽかんとしていた。
その後、理解したように頷き、
「……梨奈、先輩。……篠音、さん」
それを聞いた梨奈と篠音は驚きの表情を浮かべた。
篠音は笑顔で頷き、梨奈は拗ねたように少し頬を膨らませ
「なんで篠音はさんなのに私は先輩なのかな……」
と呟いていた。
「さて、それじゃあ……そろそろ、動きましょうか」
「ですね。……そういえば、光草先輩はいらっしゃらないのですか?」
「成績が少し下がったから文化祭終わるまでは部活に参加するなだってさ」
「私……光草先輩のこと、向こうは嫌ってるみたいだけど……好きなんだけどな」
「仕方ないわ、由姫ちゃん。さ、気持ち切り替えて。張り切っていきましょ!」
「「「「はーい!」」」」
時刻は2週間程前へと遡る。
「そういえば、そろそろ文化祭だなあ……」
夜斗がぽつりと呟いた。
「そーいやそーだな。篠音。今年もまた去年と同じ事やんのか?」
「汰火?敬語はどうしたのかしら?この前のお説教、足りなかった?今日、やる?」
篠音がにこりと言った。
その言葉に汰火は固まり、
「………………部長、今年も部室で去年と同じ事やるんデスカ」
と言った。
この前のお説教はかなり効いたみたいだ。
篠音はにっこりと微笑み、咳払いをすると
「よろしい。………もちろん、やるわ。去年と同じ内容よ。ただ、展示内容は変えるけど」
と言った。
その言葉に由姫が反応し、
「文化祭!!?なにやるの、篠音さん!!!!!!!!!」
目をキラキラさせて篠音に問い詰めた。
そんな由姫に篠音はたじろぎ、「え、あ、由姫ちゃ、落ち着」と言う。
しかし、由姫の問い詰め攻撃は止まらない。
「去年文化祭来たりしなかったかな?毎年、桜部は展示を行うの。内容は、もちろん桜について。場所は……ここ、部室でね」
代わりに梨奈が答える。
「桜についてと言うことは……夜桜についても、展示をするのですか?」
「もちろん。てか、それがメインみたいなものよ。で、来てくれたお客様にはお菓子を配るの。宣伝の時には、小さい子には風船、中学生以上には文房具関係を配るの。そうやって、お客様を呼び込む形ね。BGMには三味線とかの曲を使うかな」
「毎年、何人くらい来るんすか?少ないって事は無いと思うっすけど……」
「少ないって事は無いよ。むしろ、大盛況。5日間共開店前から行列できるから」
「そんなにっ!!?」
ずっと篠音に問い詰めていた由姫が反応した。
篠音が胸をなで下ろす。
「まあね。……ただ、私、毎年最初の方だけいるからな……結果的に、何人くらい来てるんだろ……?」
「2万人くらいは来てると思うよ、梨奈さん」
「そうなの?夜斗君」
「いっつもいるんで……なんとなく、ですけど。1万人は絶対越えてますよ」
「そうなんだ……。私も、来年からは文化祭の方に参加しようかな………あー……けど、体育祭の方も極力出てくれって言われてるし……スピーチは絶対参加って言われてるし………」
梨奈がうなる。
「いいじゃない、梨奈はそのままで。私、体育祭で活躍してる梨奈も好きよ?」
「んー……篠音がそう言うなら……………けど、やっぱり参加したいよぉ………」
「じゃあ、参加競技数少なくすればいいじゃない」
「参加したら、先生達が色んな競技押してきて………結局、ほぼ参加」
「まあ……梨奈の運動神経は抜群だからね………」
梨奈と篠音が話しているところに、由姫が恐る恐る聞く。
「あ、あの………篠音さん、梨奈さん………」
「?由姫ちゃん?どうしたの?」
「あ、あの……これって、文化祭なんじゃ……?」
「?そうよ?」
「正確には、乱舞祭だけどね。由姫、それがどうかしたの?」
2人が?マークを浮かべる。
「あ、いや、文化祭の話なのに、なんで体育祭の話が出てくるのかなーと……」
「?………あっ、もしかして。1年生ズ、乱舞祭が何かわかってない?」
「文化祭のことじゃないの?」
「え、文化祭じゃねぇのか?」
「文化祭だと思っていますが……」
3人が顔を見合わせる。
「乱舞祭が何かを知らずに入ってくるとは………一体、何に惹かれてこの学校に入学したんだ?……桜部か。ま、いいや。あのね、乱舞祭って言うのは……」
梨奈が話そうとしたとき、勢いよく部室の扉が開いた。
「遅れてすみません!!!!!!!!!!!クラスのHRが長引いてしまい……!!」
入ってきたのは、中学生1年生の王祭文弥。
有名なお金持ちの家の息子である。
「うんうん、いいから。文弥君、早く荷物おきなよ」
「すみません、部長。……あっ、副部長!顔文字のレパートリー増やしたんで、あとで見てください!」
「はいはい。……あ、そだ、文弥」
「はいっ、なんでしょうか!」
荷物を整理しながら返事をする。
「乱舞祭がどういったものかは知ってるよね?」
「?はい。入学したときに一通り……」
「じゃあさ、この3人に乱舞祭が何かを教えてやってくれる?この3人、乱舞祭がどういうものかをわかってないの」
「うーん……俺も、どういう形式か、だけですし……。何度か、乱舞祭には来ましたが……」
「形式でも何でも良いの。とにかく、教えてやって」
「はいっ!自分の知っている限りの乱舞祭について、話させていただきますっ!!」
梨奈と篠音に向かって敬礼し、由姫達の方に向き直る。
「まず、久しぶりっす!!王祭文弥、家のどうでもいい面倒な行事に参加してたので休んでました!!」
「うん………それは、いいからさ、早く教えてくれるかな」
由姫が呆れたように言う。
「あっ、ご、ごめん!!」文弥は謝ると、咳払いをして話し始めた。
「この学校での文化祭って言うのは乱舞祭とイコールじゃないんだ。1年間で行う3つの行事を全てまとめた、巨大な学校の祭り。それが乱舞祭なんだ」
「3つの行事って言うのは、なんなんだ?文化祭と、あとは……」
「体育祭と合唱コンクールだね。何年かに一度は合唱コンクールが劇に変わったりするけど」
「けれど、そんな3つもの行事を同時に……しかも、5日間で行えるものでしょうか?」
「それについては心配ないよ。体育祭は選ばれた人達だけがやるんだ。いっつも、2日目にやってるよ」
「それで、梨奈はほぼ全ての競技に参加するの。梨奈の運動神経はかなりすごいんだから。今回、ちょっと見て見なさい。圧倒的だから」
どうやら、文弥はこの事は知らなかったようで、1年生4人は一斉に梨奈の方を向いた。
梨奈は恥ずかしそうに顔を伏せた。
「まあ、そういうこと。それで、合唱コンクールなんだけど……」
「あたしらのクラス、何にもやってないぞ?」
「中学1年生、高校1年生は不参加なんだ。ただ、次の年からはやるよ。どう言うものかは知っといた方がいいと思うから、2クラスぐらいは見るのをオススメするよ」
「その2学年抜いたとしたら……全学年、2クラスだけだから…………8クラス?」
「1日に8クラスもやるの!!?」
「いや、4日にわけるよ。2日目は体育祭だから、やらないけどその他の4日間は2クラスずつ歌っていくよ。もちろん、不公平が生じないように乱舞祭当日になったら、クラスからCDだったり、キーボードだったり、練習できるものを回収しておく。帰りにどこかで練習するかもしれないから、学校を出たら親に連絡を入れたり……親にも協力してもらってるんだよ」
「なら、大丈夫ね。文化祭は?」
「文化祭は5日間共だよ!合唱コンクールは、午前と午後だからそのクラスは午前か午後だけできないって感じかな」
「中高1年生とは公平じゃなくないか?」
「それは、俺も思ったんだ。だから、聞いてみたんだよ。そしたら……」
文弥が他の4人の方に向いた。
まず、篠音が口を開いた。
「それくらいないと中高1年生が勝てる要素もない。それに……」
そして、4人が同時に口を開き、
「「「「私たちが負けるわけがない」」」」
かなりはっきりと言った。
それに、文弥を除く3人は口を開いたままだった。
「………まあ、そういうわけで。不公平じゃないってさ」
「す、すごい自信………」
「あたしらも、来年こんな事言ってんのか……」
「い、言える気がしません……」
3人がおろおろしていると、夜斗が助け船をだした。
「言っておくけど、ここまで言うのはそんな多く………多いかもしれないけど、本気に思ってるのは僕たちみたいなお祭り好きだけだからね。他の皆は、ノリで言ってくれてる感じかな」
夜斗の言葉に、3人は胸をなで下ろした。
「てか、梨奈先輩達ってお祭り好きだったんすか」
「まあねー。私は、体動かすことが好きだし」
「うふふっ。意外だった?私、去年とか一昨年は率先して準備してたのよ」
「あー、すごかったもんねぇ。ここの学校って、5日前から準備始めるんだけどね。その前から篠音の怒鳴り声が毎日聞こえるくらいにはお祭り好きなのよ、篠音は。たしか、賞とってたよね、1年生の時」
「あれは梨奈もそうでしょ?梨奈のクラスだって賞とってたじゃない」
「とってたけど、銀賞だったし……。篠音たちは金賞でしょ?負けたなー」
「あっ、僕それ知ってます。たしか、下剋上時代って言われてましたよね?」
「そうそう。私たち1年生が金と銀をとっちゃったもんだから。2年生の時も、金銀とったのよ」
「2年生は梨奈たちの勝ちだったからね。一勝一敗、今年こそ決着つけたげる」
「面白いじゃない。今年のうちのクラス、前までとは比べ物にならないわよ?」
「ふんっ、団結力では梨奈たちが勝ってるわよ。事実、もうできあがっているもの。楽しみにしてなさい」
「ええ、もちろん。そっちこそ、楽しみにしてなさいね」
「「ふふふふふふ……………」」
2人の会話についていけない、1年生は?マークを数え切れないほど浮かべていた。
「僕は去年見ただけだけど……あの2人は同じクラスにならないんだよ。何に関しても、提出率に関して、お祭り事に関して、試験に関して………と、争うんだよ。特にすごいのはこの乱舞祭だよ。中学生ができるものなのかな?って思うぐらい」
「そんなに……?」
「かなりすげーんだぞ、こいつらの………………先輩達の戦いは。クラスのやつらも1年の時は戸惑ったみたいだが、今じゃその熱に当てられて3年生は全員争い好きのお祭り好きになってんだ」
「そうですか、時橋先輩には聞いていませんが」
「………由姫……お前、それはひどくないか………」
「じゃあ、はっきり言います。私は、先輩なんか嫌いなんです。2年生で必要なのは夜斗先輩だけですから」
「おい、由姫、言い過ぎだろ」
「そうですよ、由姫。取り消しな……」
「いや、いいよ、透、由」
汰火が2人を止めた。
そして、悲しそうな顔をして立ち上がった。
「部長、俺帰ります。家帰って、あの作業でもやってますわ」
「……汰火、辛かったらやめても良いんだよ?あれは、汰火だけがやらなきゃいけない事じゃない」
篠音が優しく言った言葉に汰火は首を振った。
「俺がやらなきゃいけないんだ。あの時、間に合ってればああなることはなかった。あいつを死なすことさえしなければ………あいつを、こんな目に遭わすはずがなかった。………だから、俺がやるんです」
篠音はそれを聞き、ため息をひとつついた。
「………わかったわ。けれど、無茶はしないでね」
「……………ハイ」
そう言うと、汰火は部室から出ていった。
扉がしまった後、
「おい由姫、さすがにさっきのは言い過ぎだろ」
「いつも、あそこまで感情をむき出しにする事なんてないのに……いったい、なにがあるんですか?」
透と由が聞く。
しかし、由姫は
「………自分でもわかってないよ。なんで、あんなにイライラ?苦しい?わかんない。なんか、汰火先輩見てると…………なんかが、頭の中で引っかかって………けど、わかんない。なんだか、申し訳ない気持ちになったり………当たり前だと思ったり………なんなんだろう、これ。普通に、汰火先輩って呼びたい。仲良くしたい。……なのに、わからない。汰火先輩を許せるような………けど、それで本当にいいの?って感じが……………ごめん、私にもわからないや………」
困った顔で言う。
自分でも、汰火に対しての気持ちはなんなのかがわかっていない。
「別に、恋愛ってわけじゃないんだろ?」
「うん。それは違うんだ。けど、嫌いなんじゃない………」
「では、なんでしょうか……?恋愛でも、嫌悪でもない気持ちって……」
3人が困っている様子を見て、篠音がぽつりと呟いた。
「………記憶って、残らなくても感情として残るのね」
「篠音」
梨奈が篠音を声で制止し、篠音はハッと口を押さえた。
しかし、由姫と由には聞こえていなかったようだ。
ただ、透には聞こえていた。
それを聞いた透は、何かを理解したような顔になり、篠音に尋ねる。
「梨奈先輩、篠音さん、これってもしかして、前言ってた………」
梨奈は無言で頷き、篠音は口に指を当て、「言わないでね」と、声には出さず、口を動かして伝えた。
透は、頷いて由姫達の方に向き直った。
「………あ、俺もそろそろ帰らないと」
「あら、文弥君もう帰るの?」
「ええ、まあ。……今週、忙しいんで………部活、来れないと思うんですが………」
「ああ、いいよ。来週来てくれればいいから」
「すみません………」
文弥は荷物をまとめて、立ち上がった。
「それじゃ、お先に失礼します。…………由姫さん、由さん、透さん、また、来週」
「ああ、また来週、文弥」
「王祭君、お気をつけて」
透と由が声をかける。
由姫はじっと文弥を見つめると、いつもの笑顔になり
「うん、ばいばいっ、文弥君!」
と言った。
文弥はそれを聞いて、うれしそうな顔をして部室を出ていった。
「さて、と………」
夜斗が席を立つ。
「あれ?夜斗君、何か今日あるの?」
「あ、ううん、自室に籠もって夜桜について調べようかと……」
「そう。じゃ、帰るときに声かける」
「うん、よろしく、梨奈さん」
夜斗は、夜斗専用の自室に入っていった。
「さて、と。それで、話を戻すと……」
「文化祭に何をやるか、ね」
「先に言わないでよ、梨奈……」
篠音はわざとらしく頬を膨らませ、すぐにしぼめ、真剣な顔になる。
「とは言っても、やることは去年と変えないことにするわ」
「あれ?いいの、篠音さん。変えなくて」
由姫が首を傾げながら聞く。
「ええ。さっき、考えていたのだけれど………私と梨奈はクラスの方に行くし、あまりこっちに顔を出せないと思うの。で、夜斗君は、その………ずっと、部室にいるけれど人前には出れないから人数集計だったり、サポート役でしょ?汰火は、ああ見えても生徒会長だし忙しいのよね。合間を縫って来てはくれるけど。文弥君はこの学校の看板みたいな扱いだから当日は挨拶まわり。沙夜裡さんは………来れるのか、わからないわ。ま、聞いてはみるけれどね」
篠音が話を切り、由の淹れた紅茶を飲む。
「で、そうなると当日フリーなのは」
「由姫達だけなの」
由姫はビックリしたように
「え、え、私たちだけ!!?」
「うん。それに、その前の準備期間とかも辛くなるのよね。私たちはお祭り好きの争い好きだから、あんまりこっちに来れないのよね」
「それに、合唱コンクールもあるし」
「そう。それで、汰火はなんだかんだの生徒会長だから、仕事山積みだし。沙夜裡さんはわからない。夜斗君と文弥君は準備期間中は大丈夫だけど。ま、でも人数が少ないわけ。そんなんでさ、去年と全く違う内容に変えられる?私たちのチェックもあるし」
由姫たちは顔を見合わせて、透が答える。
「そりゃ、まあ……無理っす」
心底面倒そうな顔をする。
「でしょ?だから、内容は変えない。新しい情報を少し付け加えるくらい。模造紙は去年のが残ってるから再利用ね。あとは、桜について、かな」
「ああ、そっか………それも、あるんだっけ」
「それ、なんて言わないの」
「うう……1学期から変わった気がしないよ……」
由姫が唸る。
「あ、いいのよ、変わってなくて。というか、たかが1学期で変わるわけないじゃない。何かイベントでも起こらない限り」
篠音が当たり前のように言った。
「え、変わっていなくていいのですか?」
「うん。だって発表するのはこの場だけよ?変える必要ないじゃない」
「ま、梨奈達は去年一昨年とやってるから変えないといけないけどね。だから、面倒なのよ、これ………」
「まあまあ。正直言っちゃうと、これと夜桜くらいしか桜部は取り得がないんだから」
「言っちゃだめじゃん、部長」
「あはは、ごめんね、副部長」篠音と梨奈は談笑する。
由姫はそんな2人をみつめて、思う。
この2人の関係は、単純のようで、かなり複雑な気がする。
ただ一言、『仲が良い2人』だけじゃ済ませられない何かが、あるきがしてならない。
いったい何なんだろう?
由姫が首を傾げていると透が
「由姫ー、大丈夫か?」
「ん、あ、うん、大丈夫だよ、とーちゃん」
「ところで部長、準備期間何をやれば良いかはわかったのですが………当日は何をやればいいでしょうか?」
由が不安げに聞く。
初めての文化祭だから、不安を取り除けないみたいだ。
「んーとね、説明って言っても特別な人達が来たときだけだしなぁ……」
「特別な人達?」
透は振り向き、
「特別な人達って、誰っすか?」
「ん、あー……」
篠音は口では答えず、苦笑を向けた。
「……あ、す、すみません」
「ううん。わかったなら、良いの。………ああ、えっと、誰かわかんないよね。腕に、赤いリングつけてる人達よ」
「赤いリング……?でも篠音さん、それって文化祭実行委員のリングと同じなんじゃ……」
「いや、たしか、文化祭実行委員のリングは青だったと思うが」
透が訂正を入れる。
由姫は安心したように笑顔になり、
「なぁんだ、じゃ、わかりやすいね!その人達が来たら説明すれば良いの??」
「ええ。他の時は……1人は部室にいれば、なんでもいいよ。宣伝しながら遊ぶってのも良いし。ただ、夜斗はいるけれども、それでも1人は残ること。わかった?」
「はーい!」
「わかりました」
由姫は笑顔で、由はお辞儀をして、透は頷いて答えた。
「よしっ!なら、もう準備に取りかかりましょうか」
「おーーーっ!!」
「みんなの桜については………できれば部員全員でやりたいけれど、みんな忙しいしね……。私が聞いておくわ。それを、書きましょう」
「わかりました」
「梨奈ー、去年のやつどこにしまってたっけ?」
「んー、たしかこの辺の物置に突っ込んどいた……」
「え、ちょ、折れたり破れたりしてないわよね!?」
「あー、たぶん大丈夫ー」
「あ、あのねぇ、あれを書くの、どれだけ大変だったと思って……」
「あ、なんか紙はっけーん。ん、破れてないように見えるよ」
「な、なら、大丈夫か……」
篠音と由が去年の模造紙を取り出す。
そのやりとりを見ていた由姫の腕を透がつつき、
「由姫」
「ん?なに、とーちゃん」
「……ちゃんと汰火先輩に謝っとけよ」
「……でも、話なんかできないよ」
「携帯でも何でも良いから。謝っとけよ。じゃないと、この後部室で顔合わせる時とか……こっちも気まずくなる」
「…………ん」
由姫はポケットから携帯を取り出し、ただ一言のメールを送る。
『さっきはすみませんでした』
送った2分後、汰火から返事が返ってきた。
『気にするな』
その文面を見た由姫はため息をつき、携帯をポケットの中へとしまった。
END




