第10話 牧場においでよ
うぉあ、間が空いちゃってすいません。いよいよ遠足編でっす。
「おはよー♪……あっ、ごきげよう」
「ごきげんよう、小川さん」
ほんわかと可愛らしい小川さんが、砕けた挨拶を恥ずかしそうに訂正する。くっそぉう……何その上目遣い?私を萌え殺す気なのかっ!?
すぽんと私の隣の通路側の席に座る。前から3番目の席だ。
横長のU字型をした2人掛けシートは、高級感あふれる作りで座り心地も最上級だ。「しずか」が大学生の頃に貧乏旅行で乗った深夜バスとは、別世界のラグジュアリーな空間が広がっている。……中学生の遠足に、こんなバス使っていいのか!?
本来は定員60人程度の大型バスを、ゆったりと座席を配置した定員34名のリムジンサルーンと呼ばれるラグジュアリーなバスだ。内装もしっかりしていて、バスの中というよりは、小さなサロンといった趣き。ちなみに「しずか」は出向先の一部上場企業の接待旅行でも、こんなものに乗ったことはない。
U字型のシートは、背もたれと左右側面が目の高さくらいまであって、そこそこの個室的なプライベート感を確保してはいるが、だからといって、少し顔を覗かせれば、すぐ他の席と会話できる程度なので、完全に隔絶されている訳でもない。まあ、遠足には程よい感じではある。
もちろん、シートを回転させると向かい合わせの4人掛けになったり、全員横向きすれば、全員が顔を見合わせる会議室状態にもなるらしいが、今回そういったことは学校側から禁止されている。せいぜい少し通路側に向けてクラスレクレーションに参加するか、少し窓側に向けて景色を楽しむ程度だ。
まったく、これだから金持ちは嫌だねえ……とすっかり僻み根性に塗れた私を、小川さんの微笑みが癒やしてくれる。
「うふふ、今日はとても楽しみだね」
思わず鼻血が出そうになった私は、こくこくと頷くことしかできなかった。
今日は遠足当日の朝。学校のロータリーにこのリムジンサルーンと同じ型のバスが数台ならび、生徒たちは担任からの注意を受け、バスに乗り込んでいる最中だ。
ぞろぞろと後続の生徒たちがバスに乗り込んできていて、挨拶を交わしたりしながら中央の通路を通り過ぎて行く。小川さんは人望が厚いのだろう……ひっきりなしに声をかけられている。さすがだ。
「おはよう。小川、竜堂」
「ごきげんよう」
何人か通り過ぎた後、クラス委員の川端くんが声をかけてくれた。小川さんが、いつも通りのふんわりした調子で挨拶を返した。
「……ご、きげんよう」
私は、1テンポ遅れて挨拶を返す。川端くんは、他の席の生徒にも声を掛けていく。たぶん全員に。マメだ。なんとはなしに、その姿を見送る。
みんな、遠足、遠足と呼んでいるが、正式には“新入生親睦研修”だ。
目的地は、軽井沢の悟桐財閥の保養施設「北軽井沢青桐ハーヴェスト」だ。この広大な敷地の一画に悟桐学苑「北軽井沢研修センター」という名の専用高級ホテルがある。ホテルだ。つまり、1泊2日の旅行だ。
……いや、どこが遠足だよ!?と私も思ったさ。1泊で?保護者1名同伴可で?
しかも、おやつ無制限!?バナナを除外して300円までだろ、そこは!!
★ ★ ★
巻き戻ること1週間前──。
夜も更けた頃、珍しく竜堂夫妻は寝室で口論になっていた。
「1名なのですから、しょうがないでしょ!」
「……いやだ。1名だからそこ、こればかりは譲れん」
「貴方がノコノコ着いて行っても、全生徒を恐怖のドン底に叩き落とすだけですっ!」
「父親が保護者として、娘を見守って何が悪いっ!!」
竜堂剛は、厳格で絶望的なほど冷然とした口調で妻に言い放った。気の弱い人なら、昏倒しかねない。──悟桐鳳渡がクラス全員を怯えさせた憤怒が、まるで子猫の可愛い威嚇に思える程。
だが、妻である碧衣は慣れたもので、そんなものは一向に介さず、人死が出そうな殺気を孕んで剛が1つ言うと、妻は一歩も引かず10返す有り様だった。
「いいですか?私だって貴方と同じく、あそこの卒業生です。普通のご家庭の生徒さんには、(お父様)や『お母様』が来ていらして、それは寂しく羨ましいと密かに思っていました!瀬梨華さんには、どうしても私が同伴しなくてはならないのですっ!」
あえて『お母様』を強調し、(お父様)を最小ボリュームに絞っている。
──どこまでいっても平行線、水掛け論ですな。
飲み物を届けにきた総執事の二階堂は、戸口の脇に控え、そっとタメ息をついた。二人は、瀬梨華の「遠足」に誰が同行するか?ということで、かれこれ1時間以上モメているのだ。
「それに、貴方も来週は外務大臣に同行してワシントンに出張なさるんでしょ?井吹から聞いています。大人しく首に縄をつけてでもワシントンにってお願いされましたわよ!?竜堂財閥グループのトップが、外務省との約束を反故にしてアメリカ政府のメンツを潰すなんて、無責任にも程があります!!」
碧衣は、とうとう『切り札』を使った。影武者でも立ててワシントン訪問を誤魔化しかねない、と井吹は碧衣に泣きついたのだ。
「うぐっ!?……井吹の奴め……だ、だが、わかっているのか?保護者1名ということは、『君を手伝ってくれる人は誰もいない』のだぞ?」
いよいよ追い詰められた剛も、最後の手段に出た。
「……えっ!?……あ……」
碧衣は、ふんわりとした癒し系の美人で、泰然自若と振る舞ってはいるが、元をただせば、イギリス貴族の正真正銘“箱入り”のお姫様である。瀬梨華に「料理はできない」とこぼしていたが、それどころか、自分で『ドアノブ』すら回したことがなく、一人で『庭』に出たことさえないのだ。
おそらく、バスから降りたら迷子になるだろうし、保護者用のホテルの客室に一人でたどり着けるかどうかも怪しい。誰かに介助してもらえば部屋まで行けるかもしれないが、自分のスーツケースを開けることもできないだろう。
彼女を介助する羽目になるのは、他の保護者だ。使用人を連れていけないのだから。
他の親御さんに迷惑をかけまくる事態になるのは目に見えていて、後々になって娘の瀬梨華に何らかのカタチで返ってくる。
世間知らずで一人では何もできないが、碧衣は聡明ではある。瀬梨華にも迷惑がかかるとわかれば、しょんぼりと俯いて失速してしまう。
「差し出がましいとは存じますが──この二階堂、1つ提案させて頂いても?」
それまで、空気のように控えていた総執事が、隙のない優雅な所作で一礼した。
剛と碧衣は我に返ったように二階堂の方を見た。そして、顔を見合わせた。
そもそも、学苑側にしても「保護者1名同行可」というのは長年培ったノウハウが生み出した妥協案である。
上流階級の親がゾロゾロと使用人を連れてきたら、一般家庭の親は良い感情はもたない。上流階級の親同士にしてみても、付き合いやら見栄やら縁故やら打算が先走って、子供の親睦を深める目的の研修旅行が、子供そっちのけで社交界のパーティの延長になりかねない。
逆に一般家庭の親にしてみても、両親揃って休めるとは限らない。1名にしたほうが都合がよい。上流階級の家でも「1名でよければ誰が来ても可」とすることで、親が来れる人は来ればいいし、教育係でもお世話役でも、信頼できる人を送り込んでも良い。
親同士のトラブルが起きたり、モンスターなペアレントのクレームの嵐は避けたい。主役は生徒なのだ。 つまり、学苑側としては、このイベントに当初から「親同士の交流」は期待していない。どちらかというと授業参観に近い。
結局のところ、相良が保護者代理として同行することになった。
★ ★ ★
『悟桐学苑中等部1年C組の皆様。北帝観光リムジンサルーンに御乗車いただき、誠にありがとうございます。当三号車の運転は両口是清、案内は虎屋あずきが担当させていただきます』
今、私は天国という名の楽園にいると言っても過言ではない。
『当車は、まもなく首都高環状線に入り、東京外環道から関東自動車道にまいります』
ガイドさんが、色々説明してくれているが、割とスルーだ。運転手の両口さんは、なかなかにポイントが高いが、この際、脇においておく。
「瀬梨華さんってば、そんなにおやつ食べて大丈夫なの??」
……そう、私は久々のポテチを満喫しているのだ。何人たりともポテチの邪魔はさせねえ!!
この1ヶ月近くの間、何が辛いといえば、コレだ。瀬梨華の生活環境では、まったくジャンクな食品を口にすることができない。辛い。ツラすぎる。
何とか、入手することを試みたが、ことごとく相良やメイドの乃愛さんに阻止された。というか、瀬梨華は基本的に現金を持っていない。お小遣いもない。運転手の相良が認めてくれなければ、コンビニに寄ることもできない。そして、頑として寄ってくれないのだ。
みかっちにお願いして、プリ○グルスを買ってきてもらったこともある。しかし、ウチの場合は下校時に車に乗るときに荷物は相良に全部預ける。そして、家に着いたら、そのまま乃愛さんが受け取り、私の自室に運んでくれる。そして、不審なブツは没収されてしまう……そう、まったく持ち込む隙がないのだ!うええん!
挙句に、二階堂様に最後通牒を言い渡されてしまった。「このお屋敷に、左様なものを持ち込むことは認められません」
憧れの二階堂様に言われてしまうと、私としても断腸の思いで諦めざるをえない。学苑の方でも、お菓子の持ち込みは校則違反だし、お上品な校風もあって、私の求めるようなモノは学内購買部でも売っていない。
この遠足の「おやつ」も幾ら無制限とはいえ、ポテチ、ポッキー、柿の種、アーモンドチョコ、サラダという割にサラダ感皆無の白い煎餅、ハッピーなパウダーのまぶされたターンなやつ、さらには定番の駄菓子の数々……そんな物は、当然の如く我が家ではNGだ。
現に、銀座の超高級店のマドレーヌやマカロンのアソートやら塩キャラメルやら、何やら色々と持たされてしまった。いや、これはこれで美味しそうなんだけど……コレじゃない感が満載だ。
しかし!私の魂の渇望を満たす女神様がご降臨なされた。……まあ、小川さんなんだけども。
小川さんは最初「悪いよぉ、悪いってば」と言って遠慮してたけど……。たとえば、まる1ヶ月飲まず食わずで灼熱の砂漠を放浪した人は、たとえコップ1杯の水の為に1トンの金塊を差し出すのに何の躊躇いもないだろう。
と、いうことで、サイドテーブルにポテチの袋と高級マカロンの箱をあけて、二人でお茶をしているところなのだ。いちおう、バスガイドの虎屋さんの説明が終わり、朝食タイムと相成っているので、そんなに悪目立ちはしてない……筈だよ……たぶん。
朝7時に学苑集合なので、人によっては5時起きだ。なので、朝食は高級仕出しの朝食が配布され、お茶が全員にサーブされている。
「いいの、いいの。前から食べてみたかったんです」
ぺろりと唇を舐める。しょっぱいポテチの油に混じって青のりの味がする。もおーーー、サイコーーー!!
さすがに、豪快にバリバリ食べると周囲から白い目で見られそうなので──ただでさえ、朝食そっちのけでお菓子を食べ始めている訳だし──なるべく、上品にポリポリとは食べているが。
「乗馬、楽しみだね〜」
小川さんが、お茶を飲みながら楽しげに言った。午前中には目的地に着く。最初のイベントが全員参加の乗馬教室だ。
「瀬梨華さんは、乗馬やったことあるの?」
「いちおう……ちょっとだけ。でも、だいぶ前だからなぁ……」
お母様のイギリス実家に家族で行った時に、実は殆ど馬に乗っているか、日本語の通じる祖父に遊んでもらっていたような気がする。それ以来、馬には数度しか乗っていないが。
……「しずか」は乗ったことないし、“初めての人向け”のポニーに乗る方にいってみようかな。
非常に美味しい朝食セットを、ぺろりと頂き、更に小川さんの持ってきた某大手メーカーのチョコ菓子を2コもらって──くぅぅ!コレですよ!これ!!
「そ、そこまで喜んでもらえると嬉しいけど……」
小川さんにしてみると、私が無表情のまま目をつぶって天を仰ぎプルプルと震えているのは、もしかしてドン引きなのかもしんないけどさ……。
…………。
バスは幾つかサービスエリアで休憩など挟んだ後、3時間ちょっとで目的地の「北軽井沢青桐ハーヴェスト」に到着した。
もともと、「悟桐」は“あおぎり”とも読む。ようは「青桐」も「悟桐」も意味は同じ。学苑や悟桐家は、その字を当てて「ごとう」と読むんだけどね。
東京ドーム何個分だかの広大な敷地に、幾つもの施設をもつ「青桐ハーヴェスト」は、基本的に部外者は立入禁止だ。悟桐財閥の関連企業の研究機関や福利厚生設備なので、普通の観光客などは立ち入れない。
敷地に入ったものの、更にバスで15分程。最初の目的の施設である「畜産研究所」──まぁ、ようするに牧場だ。──に到着した。
クラスごとに、牛や豚の飼育舎などを順繰りに見学し、C組の乗馬教室の番が回ってきた。
近代的なメインの研究所兼管理棟のビルを中心に、幾つもの厩舎や飼育舎、倉庫などがある。その周囲にさらに広大な牧草地が広がり木の柵の囲いが幾つもあり、それぞれ馬やら牛やらがノンビリとしている。まあ、北海道とかで良く見られる光景だ。
クラスは乗馬経験者と初心者と見学者に別れる。なので、初心者と経験者は、それぞれ体操着+ジャージと乗馬服に管理棟にある更衣室で着替えた。
外にでると、係員に案内されゾロゾロと乗馬教室の場所に移動。制服のまま待っていた見学組に合流。厩舎脇の広くなっているところで、乗馬の心得や馬の種類や習性などのレクチャーを受ける。
てっきり、悟桐鳳渡は地の利を活かして、見学と言いつつどこかにフケるのかと思えば、経験者のところに乗馬服でカッコよく決めて並んでて、何やらキャーキャーいわれている。それなりににこやかに対応しているが、なんだか「俺は、やりたくてここにいるんじゃない」感を滲ませて憮然とした空気だ。なんでだろ??
悪い奴じゃないというのは、概ねわかっているが、何であんなキャーキャー言われるのか、わからん。
──それ、しずかさんくらいなもんですよ?
解せぬ。ほら、あそこで、ちょうど葦毛のサラブレッドを引いてるオジサマの方が、よっぽど素敵だと思うんだけどなぁ……。
木の柵に沿って皆で移動していく。奥に厩舎が幾つかあり私達は柵の出入口の外で待機。初心者は、目の前の比較的小さな囲いの中で係員が手綱を引っ張るポニーに乗ってグルグルという感じだ。経験者の方は隣のかなり広いところで、係員に曳かれたサラブレッドに乗って散策。本格的に慣れている子は、ぽくぽくと自由に馬を歩かせている。
保護者は、少し離れた管理棟のテラスから、こちらの様子を眺めている感じ。
私と小川さんは、初心者向けのポニーに乗る方で、呼ばれるのを待っている。この乗馬教室は、まだ班行動じゃないので、適当でいいみたい。みかっちが、見学組のとこから手を振っている。
手を振り返していると、後から声をかけられた。
「三枝は、高いところがダメらしい」
「ふぇ……!?」
いきなり、川端くんだ。思わずヘンな声が出ちゃったじゃないか。
私のリアクションを怪訝そうに見ていた川端くんに、「な、何でもない」と慌てて首をぶんぶん振る。
「ポニーくらいでもダメなのかー、美香ちゃん。意外だなぁ」
「揺れるのはダメだ!と力説してたよ」
小川さんがクスクス笑いながら言う。川端くんも笑いながら、みかっちの言い分を教えてくれた。そして、私の方を見ると意外そうに言った。
「竜堂も経験者じゃないのか?」
「いっ、いえ……だいぶ前になるので、忘れてそうだから」
と、ちょうど私と小川さんが呼ばれたので、川端くんに挨拶をして、ふたりで係員のところへ向かう。
栗毛のポニーの「サリーちゃん」は、とても大人しくて賢いコだ。
うん。たてがみの脇を撫でると、嬉しそうに軽く嘶く。
「お嬢さん、乗り方慣れてますね?」
サリーちゃんの手綱を曳いてる係の人が感心したように言う。
「ちょっとだけ、前に馬に乗ったことあるので」
「やっぱり、経験者は……あう……ちが、うっね……んっ」
横を並んでポクポク歩いてる小川さんは、ポニーの上下の振動を上手く相殺出来ずにカミカミで、何だかとっても可愛い。
「さすが、竜堂のお嬢様だよなぁ。向こうの経験者の方で自由に乗り回して大丈夫だと思いますよ」
乗っている様子でだいだいわかるらしい。小川さんのポニーの係の人も太鼓判を押してくれる。
「最後の方で、すこし乗ってみようかな……」
基本的に、瀬梨華は乗馬が結構好きだ。未経験の「しずか」も何だかんだ楽しいと思っている。
すると……ドドドドドドッと遠くから激しい馬蹄の音が響いてくる。それとともに見学組のいる辺りから「きゃーーーっ!♪」という歓声が聞こえてきて。
乗馬服に身を包んだ悟桐鳳渡が、私達のいる柵の向こう側を颯爽と駆け抜けていき……端の柵近くまで行くと、減速。ゆっくりと立ち乗りで流すように曲がっていく。一瞬、悟桐と目が合ったような?
──お前はG1レースの優勝者かっ!?武豊か!?
とツッコミたくなる程の王者の風格な乗馬っぷりで、見学女子の声援を受けていた。
そして、だいぶ遅れて経験者女子数名の馬群が「いやぁん♪鳳渡様ぁ、速すぎるう」「お待ちになってえ!」「あぁん、行かないでくださいませ~♪」などと甘ったるい声とともに、鳳渡を追っていく。
「瀬梨華さんの乗馬してるところ、私も見てみたいなあ」
「……あんまり、目立ちたくないんだけどねぇ」
でも、せっかくの機会だしね。初心者のポニーのほうは、みんな乗り慣れないせいか、かなり疲れたらしく、見学組に移り始めてるみたいだ。
小川さんが「うう、お尻イタイ……」というので、切り上げて柵の出入口に向かうと、ちょうどこちらに向かって川端くんのポニーがやってきた。
川端くんは、なんだかオモチャの騎兵隊のように、ものすごく機械的に上下には動くけど「何だか直立不動」という不思議な乗り方をしている。
二人で思わず笑っていると、川端くんが不思議そうに聞いてきた。
「何だ?乗り方おかしいかな?」
「間違ってないんだけど……何でだろ。真面目なんだなあ、って思ったら、つい……」
「うんうん。そうそう、乗馬にも性格でるんだねえ」
小川さんも、私の感想に笑いながら同意。
川端くんは、首をひねる。釈然としない、といった様子だ。
「竜堂は、この後はサラブレッドに乗るのか?」
「……う、うん。少しだけ」
「まあ、見学組に三枝、乗馬に悟桐という布陣だ。竜堂が馬に乗っても、そんなに目立たないと思う」
あれっ?……それって川端くんが悟桐に乗馬組の方に行けって言ったのかな?
「悟桐が見学組に行きそうだったから『お前、乗馬するんだろ?』って聞いたら、何か舌打ちしてたけどね」
川端くんがニコっと微笑む。物凄く善意あふれる笑顔だけど……なぜか、そうは見えねえよ!?
さっき、乗馬服着た彼が何となく憮然としてた理由が、わかった気がする。
「それじゃ、ちょっと乗馬服借りて着替えてくる」
近くの係員に「乗馬をしたい」と告げて案内してもらう。
管理棟に連れてかれて、乗馬服一式を受け取り更衣室で着替える。
ナップザックに入っているお弁当やら高級菓子やら大きい荷物は出してロッカーにしまう。タオルとか、ペットボトルのお茶とか……まぁ最低限必要なものは残す。
ナップザックを背負って、こそこそーっと外にでる。乗馬組の柵の方に回りこみ、担当の人と話をする。脇のところに何頭か鞍を載せた馬が残っていて、好きに選べるっぽい。
小柄な栗毛のサラブレッドと目が合う。こういう時は、第一印象とインスピレーションが大事だ。栗毛が、ブルルルッといななく。たぶん、こんなニュアンスだ。
『(屮゜Д゜)屮』
──かもーーん!ばっちこーい!!
ホントのところは知らないけど、そんな気がしたので、あの子にしよう。
あの子にします、と告げて係の人と近寄ると、尻尾を2~3回振ってブヒヒンッと少し高い声で鳴いた。
『キタ──ヽ('∀')ノ──!!』
と、いう感じ?……喜んでるなら、イイっか。
そんな感じで、私は若い牝馬「ハナコちゃん」に乗ることになった。
係の人に説明を受けて、一通り簡単な動き──歩く、止まる、軽く走る、曲がる──の確認。
『+(o゜・∀・)+ ワクワクテカテカ +』
ハナコちゃんは、早く行きたくてしょうがない様子。可愛いなぁ、もお。
「さすが、慣れてらっしゃいますね。フリーで大丈夫でしょう。あまり、ムリしないでくださいね」
ハナコも機嫌良さそうだし、と言って、送り出してくれた。
「ほんじゃ、久しぶりなので!ノンビリ行きますかぁ」
『d(´ω`o)ォヶ』
ぽっくらぽっくら、と長閑な歩調で放牧地を進んでいく。他の乗馬組もだだっ広いので、会話するほど近寄ることもない。
私の乗馬スタイルは割と馬任せだ。イギリスで見に染みて体で学んだ。
馬は賢い。多少、気難しいコでも「しゃーねーなー。こっち行ったるぜ」って感じで、何となく察してくれる。まあ、馬術競技とか目指してないし、趣味のお気楽乗馬だからね。
ハナコちゃんは、私のことを気に入ってくれたみたいで。
『ラン((o(*´∀`*)o))ラン』
と、言う感じでリズムよく軽快に、他の乗馬組に近寄らず見学組から遠い方へ、カポカポ歩いてくれている。そのくらい察してくれるから助かる。
「ハナコちゃんは、偉いねえ。いい子だ」
そう呟くと『ヾ(*'∀`*)ノ』という感じで、軽くひと鳴き返事をしてくれた。
抜けるような青い空を見上げる。遠くまで草原が続き、雑木林が広がっている。白い柵も、ずーっと林の中へと伸びているのが見える。
「気持ちいーねー!」
『♪~(´ε` )うんっ!』
かぽっかぽっと小気味よい蹄の音をたてて、ハナコちゃんは歩いていく。
いやぁ……これは楽しいなあ。
──ハナコちゃんに乗れただけでも来た甲斐があるね!
「しずか」も乗馬初体験でご機嫌だ。
少しスピード出してみる?とハナコちゃんに聞くと『(〃'▽'〃)いいよー♪』と返って来た感じがしたので、少し手綱を緩める。
蹄の音のテンポが上がり、景色の流れる速度が少し早くなる。顔にかかる風が気持ちいい。
日差しも高くなってきたので、雑木林の辺りまで行って一休みしたら戻るかなあ。
「あっちの林まで行けるかな?」
『まかせて♪(*'ω'*)』
あの辺に行きたいなーって方に、手綱を軽く向けると、ハナコちゃんから色よい返事。見学組のいる柵からは結構離れたので、少しペースアップ。
と、いっても、ゆるーーく走る程度なので、割と私もハナコちゃんもお気楽だ。
放牧スペース内に雑木林があるという……どんだけ広いんだ!?とツッコミ入れつつ。1周2000mのトラックがすっぽり入りそうだ。
雑木林に入ると、木々の合間に浅瀬の小川が流れているのが見える。ちょうど、茂みの脇に良いスペースがあるので、ハナコちゃんを停める。
「この辺で、休憩しまーす」
『(*≧∀≦)ゞ了解!!』
よいしょっと!ハナコちゃんから降りると、いちおう、近くの幹に手綱を留める。係の人に見つかると叱られちゃうしね。ハナコちゃんの首を撫でると、私の肩のあたりにじゃれついてくる。
『(*´Д`*)気にすんなよ♪』
って、感じだ。
茂みのお陰で、見学組とか厩舎とかからは殆ど見えない。林といっても、短い下草が生えていて雰囲気は森林公園とか、人の手の入った感じの場所だ。鬱蒼とした原生林とかではない。
ナップザックを下ろして、ペットボトルのお茶を手にして、地面から頭を少し覗かせているツルンとした岩に腰掛ける。
サービスエリアの休憩時間に相良にお願いして、一応熱中症対策ということでお願いして買ってきてもらったのだ。
「──ふぅ」
とりま、一口飲む。涼しい風が林を抜けていく。さわわ、さわわと葉の音が幾重にも
重なって、小川の流れる水音と混ざって消えていく。
ハナコちゃんも、一息ついて、地面の草の匂いとか嗅いだりしてる。
…………。
ぼんやりと、木々の葉の間からキラキラ零れる陽の光とか、小川の水面とかをは眺めていたら、ふと、気になる事を思い出す。まぁ……そんなに大した問題じゃないんだけど。
最近、みかっちと仲良くなって、その関係で同じクラス委員の川端くんとも良く話すようになったんだけど……。このごろ、気がつくと……そう、何だか彼と話してると、よくわからない内に緊張してたりする。
……うーんむ、別に苦手とか嫌いとか……そういうんでもないと思う。それだったら、最初に話した時から、緊張してると思うし。
お兄様に近いのかなあ……。ぱっと見や態度は全然違うけど。こう……何て言うか……何もかも見透かされているような?
でも、お兄様に感じるような、黒いモヤモヤとしたストレスとは違うんだよね。ネガティブな感じじゃあないんだけど……。何かざわつくような感じがして、緊張する。
……っていうか、何でこんな景色も良くて気分も良い時に、お兄様を思い出さねばならんのだ。まったくもう。とりあえず、お兄様は軽くもげとけ。
なんだか良くわからないから、悩んだところで、どうしようもないしねえ。
まぁ、いいやぁ……と、半ば諦め気分で、もう1口お茶飲む。
と、ハナコちゃんの耳がピクンと反応して、耳がキョロキョロっとした後に、顔を上げてこっちを見る。
「ん?……ハナコちゃん、どしたの?」
『あっちから来るよん♪』
……まあ、悟桐の敷地内で、変な人は来ないだろうけど。
乗馬組の誰か、かな──って…………
ガサガサッ──にょき
目の前の茂みが揺れたと思うと黒毛の馬がぬうっと姿を現した。
──うげ!?悟桐の馬じゃなかったけ??
カポカポと黒毛の馬が茂みから出てくると、その上に乗っている悟桐鳳渡が私を見下ろして口を開いた。
「よう、竜堂」
──これは、どうしたもんだろうか??
お読みくださって、ありがとうございました。
いろいろと、遠足のスケジュールとか発生イベントとかあれこれ考えてたら、結構な時間をくってました(ノ∀`;)
ちょっとずつ、色々な人たちが動き始める予感!……予感だけで動かないかもしれませんが……( ;´-`)
引き続き、ぼちぼち頑張って書いてきますので、よろしくお願いします。ぺこ。




