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第十三話

 脳内に響き渡る警告音に驚き直人は目を覚ました。しばし混乱するもすぐさまその音が館の邸内に張った探知結界に触れた音だと気づき、自分の周りに結界を張るや否や寝室から飛び出す。誘拐犯や暗殺者でないことを祈りながら。


 探知結界の反応があった部屋まで来ると、扉越しにではあるが部屋の中から物音が聞こえて来た。直人は風魔法にて部屋の中に居る者が男1人で、魔力を感じられない事から結界魔法で全てを防げると確信して部屋に入り叫んだ。


「何をしている!?」


「っ!?」


 突然、室内に飛び込んできた直人に驚いたのか黒装束に身を包んだ男は硬直するも、机を漁っていた手を止め袋を掴むと窓に飛び込んだ。音を立ててガラスを割りながら男は下に落ちて行った。男の行動を直人は呆然と見守っていたが、すぐさま気を取り直し窓から男の姿を確認するやいなや、風魔法で男を拘束する。じたばたしているものの逃げられなくなった事を確認し、直人も窓から飛び降り男に尋問を開始する。


「盗みに入ったという事でいいかな?」


「あぁ、その通りだよっと!?」


 男は諦めたかのように見えたが、直人の問いに答える振りをして直人に向かってナイフを投擲した。投降したものだと思っていた為、直人は迫って来るナイフを避ける事はできなかったが、直人の腹に当たる前に結界によって跳ね返された。


「……ちくしょう!」


 ナイフによる攻撃で集中を切らせることで自分を拘束している魔法を解こうという目論見が、あっけなく崩れて男は憎々しげに不満の言葉を吐いた。そんな男を余所に直人は自戒する。相手が降伏しようが完全に無力化をするまで隙を見せてはならないと。その教訓を活かすべく、直人は男を押さえつけていた風魔法を強化し身動きすら取れなくした。その上で、再度尋問をしようとするが裏庭の方から人が走って来る気配を感じそちらの方に視線を向けた。


「大丈夫ですか!? 直人様!」


 直人の視線に気づいたのか、走って来た2人組の内の1人が声をかけてきた。敵の仲間の可能性も考慮していた直人は、彼らの姿を確認すると警戒を和らげる。2人の着ていた皮の鎧に見覚えがあったからだ。2人は素早く男を拘束すると、他の武器を持っていないか確認をすませ、持っていた縄で両手を後手に縛りあげた。拘束作業が一段落ついたのを見届け、直人は礼を言う。


「ありがとうございます。犯人を捕まえたもののどうしたら良いのか分からなかったので助かりました」


「いえ、自分は職務を果たしただけです。直人様がご無事でなによりです。それで、一部始終は見ていたのですが、どういった経緯でこのようなことに?」


「えーと、どこから見られていたのですか?」


 男が直人様にナイフを投げた所からですと答えるのを聞き、直人は頭の中で話す内容を整理しながらゆっくりと話始めた。


「寝ていると物音がするので風魔法で探った所、不審者が館内に入り込んでいるのを見つけまして。そして、その部屋まで行き問い詰めた所、窓を破って逃走したので風魔法で拘束しました。それで投降すると思ったんですが、ナイフを投げられまして……。幸い、風魔法ではじき返せたので怪我は無かったですが」


「なるほど。状況を理解しました。薬草園の警備中に聞いた破壊音はそれだったんですね。何かあったのかと思い駆けつけて正解でした」


「わざわざありがとうございます」


「いいえ、職務ですから気にしないでください」


 では、これにて失礼しますと言い、彼らは男を連れて詰所の方に向かって立ち去った。彼らの姿が見えなくなるまで見届けると、直人も寝なおすべく部屋に戻ろうとした所、クラリスが慌てた様子で駆け寄って来た。


「な、なにがあったのでしょうか?」


「泥棒が入ったから捕縛してただけだよ。犯人は薬草園の警備の人達が連れて行ってくれたからもう大丈夫だから心配しなくてもいいから」


「怪我は、怪我はされてないのですか!?」


「魔法で防御していたから問題ないよ」


 心配そうに自分の身体を見てくるクラリスに、直人は微笑みながら怪我がない様子を見せる。この世界にも、自分の事を心配してくれる人がいる事を喜びながら。クラリスを宥めながら直人は思う。1人1人と少しずつでも良いから仲間を作っていこうと。そうすれば、いつかこの世界が自分の生きている世界だと言えるだろうと。その最初の1人であるクラリスと話ながらただひたすらそう思った。だが、あくまでもそれは直人の考えに過ぎず、クラリスが直人の事をどう思っているかは、また別の話だった。






 庭園中から肉の焼ける匂いが漂う中、直人とクラリスは給仕に奔走していた。給仕といっても、バーベーキュー形式を採用している為、肉や野菜を載せた皿や飲み物を各テーブルに追加するといったものだ。全てのテーブルに十分な量の食材が行き届き、手持無沙汰になった直人達も輪に加わり肉を焼き始めた。


 もっとも、普通であれば店員である以上、給仕に徹するべきであるが本日はプライベートに近い食事会であった為、直人も参加する事ができた。それもそのはず、この食事会は、泥棒捕獲に対する感謝と日々の慰労を兼ねて、薬草園の警備兵を始めとして農業関係者である商会の者や領主館の人を呼んで執り行われたものだからである。いわば、身内の食事会に近かったので、直人達だけが食事しないと逆に気を使わせてしまうと言われたこともあり直人達も食事に加わる事になったのだった。


 肉を食べながら、試行錯誤しながら作った自作の焼き肉のタレの改善点について直人がクラリスと話し合っているとブノアが声をかけて来た。


「直人殿、バーベーキューというのは面白いですな」


「え? そうですか?」


 直人は、思わず疑問を呈した。そもそも、直人にとってバーベーキューといえば日本に居た頃キャンプや花火等に行った際には必ずしていたが、面白いという感想を持った事は無かったからだ。そして、バーベーキューをすると決めた時も、中世に近いこの世界では旅行中にキャンプに近い食事をする事もあり、屋外での食事についてもおかしくないと考えていた。ゆえに、ブノアの面白いといった感想に直人はただただ戸惑うしか無かった。明らかに理解できていない様子の直人を見てブノアは笑いながら話を続ける。


「ええ、街の中に居るのにも関わらず、わざわざ室外で料理をして食べるんですから!」


「えーと、お茶会とか立食パーティとか庭園等で催す事も多いですよね? 前のお茶会も庭園で食事しましたし」


「それとは全然違います! それらは風流を楽しむ為に外でやっているんです。でも、このバーベーキューは調理する事自体楽しんでやっているんですよ。こんなの初めてです!」


 どうも納得できないといったオーラを全身から出している直人にブノアは熱弁を振るう。その話を聞いていると直人もだんだん自分の感性が間違っている気になってきたのか、隣に居たクラリスにそ

うなの?と不安げな顔をしつつ確認を取る。その様子が面白かったのか、クラリスだけではなく、周りで話を聞いていたトマ達にも笑われた。当事者である直人達は何で笑われたのか理解できない様子であったが、笑っている理由に思い至ると顔を赤くして恥ずかしがった。だが、決してその笑いは直人達を馬鹿にするものではなく、非常に温かいものであった。





 デザートも食べ終え、参加者達が帰っていく中、今日の主賓といっても良い警備兵達が直人に寄って来た。挨拶とかお礼とかはもうすませたし、何かあったんだろうかと直人が疑問に思っていると報告に来ただけと伝えられた。


「報告ですか?」


「はい。先日の泥棒に関しての判決がたった今出たらしく、伝令が来たので被害者である直人様にもお伝えしようかと」


 そういえば、さきほど会場内に新しく人が入って来たなぁっと直人は思い出した。


「ああ、なるほど。それでどうなりました?」


「犯人である男の妻子含め、計4名の奴隷階級への追放が決まりました。罪名は、高位魔法使いに対する殺人未遂であります」


 高揚していた直人の気持ちは、その報告を聞き一瞬で最悪なものに成り変った。

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