第19話 見つからない魔導書
5年が経過した。
毎日休まず魔導書の復元をし続けたおかげで、復元室(俺が勝手に命名)にあった魔導書は全て綺麗な状態で棚に返すことが出来た。
復元室に傷付いた魔導書が1冊もなくなった瞬間、俺は【中級司書】の称号を得た。【復元】のレベルが2に上がり、1日に復元できる魔導書の数が100冊になった。
「出来ることと、それを得るための条件がおかしいだろ!!」
無駄だと思うが、つい叫んでしまった。
まぁ、どうやっても【見習い司書】以上の称号を得られなかったから、新しい要素の追加は良しとしよう。
部屋が片付いてはじめて気付いたんだけど、復元室には数日に1回くらいのペースで傷付いた魔導書が帰還することがある。魔導書が傷付くのは稀なことらしいので、大広間の方も俺が気付けていないだけで毎日何冊も本が帰って来ているんだろうな。
俺が使っていた魔導書も7冊見つけた。
でも俺の、一番の親友がいない。
そろそろ【検索】で……。
いや、まだダメだ。
アイツだって、自分を特別扱いすんなって怒りそうだし。
──***──
34年が経過した。
司書はほとんどがレベル上限になった。
大広間に散乱していた魔導書たちも数が減ってきている気がする。
……いや、それは気のせいだった。
ちなみに俺の相棒はまだ見つからない。
それから最近、なぜかリアの元気がない。
──***──
168年が経過。
1日に返却できる魔導書の数が1万冊を超えるようになった。
それでも大広間に散乱する魔導書は減っているように思えない。なんでこんなに大量の本があるのか、今更ながら気になってリアに聞いてみた。
〘この魔導図書館からはライアン様がいらした世界だけでなく、創造神様がお創りになられた他の世界へも魔導書を貸し出しています。ですからここまでの冊数が用意されているのです〙
「他の世界っていうのもあるんだ」
〘あなた、異世界から来た勇者様と共に戦っていましたよね?〙
「……確かに」
魔物の大群から街を救うために、俺が勇者様と共に戦ったという話は英雄譚として何度もリアに聞かせて来た。
──***──
245年が経過。
1日に返却できる魔導書の数は変わらず1万冊程度。
これが司書スキルの限界っぽい。
魔導書を投げるだけで本棚に返却できる【投擲収納】を使えばもっと返却数は上げられるんだろうけど、リアはそこまでしなくても良いと言ってくれた。
ほぼ意識しなくても魔導書を丁寧に返却できるようになったため、俺は作業の合間に気になった魔導書を読むようになった。これまでは返却作業に重きを置いてきたので、ここからが俺のご褒美タイムと言ってもいいだろう。
魔導書が読みたい放題。
しかも魔力放出する必要もない。
魔導書の解放率を上げる【魔導解析】のレベルが9まで上がっているので、俺は手にしたばかりの魔導書でもほぼすべてを読むことが出来る。これが最高だった。
「分かる! 分かるぞ!! 読める。俺は、この魔導書も読める!!」
魔法の知識が日を追うごとに増えていく。
楽しくて仕方なかった。
──***──
571年が経過。
床に散らばる魔導書の数が減ってきた。
気のせいじゃない。
明らかに減っている。
俺の作業の効果が見え始めた。
だというのに……。
どうしても俺の魔導書が見つからない。
俺の親友、どこにいるんだよ?
もう【検索】を使うよ?
良いよな。
俺はここまで頑張ったんだ。
御褒美だってこれが最後でいい。
だからもう一度、君に触れたい。
「RA3428の棚の魔導書を【検索】」
視界が暗くなる。
これで目当ての魔導書が見つかるはず。
「…………なんで?」
遠くで複数の魔導書が光っている。でもそれは全て、俺が既に棚へ返却した魔導書たちが出す光だった。
大広間も復元室も全て回ってみたけど、棚以外で光っている魔導書は見つからなかった。もちろん付近の棚番号でもサーチをしている。
「ねぇ、リア。魔導書が返却されないことって、あるの?」
〘珍しいことではありますが、完全に無いわけではありません〙
「それは、どういう時?」
〘魔導士が魔力を糧に召喚し続けている場合ですね。それはライアン様もやられたことがあるかと〙
「うん。でも俺が今探しているのは俺と契約してた魔導書だよ。俺は死んだけど、そんなに早く次の契約者が見つかるとかある?」
〘考えられません。残る可能性としてあるのは──魔導書が既に、完全消滅してしまっていることです〙
「か、完全消滅って?」
〘以前お伝えした通り、魔導書は危機を察知するとここへ帰還します。しかし一部の物好きが危機的状況下でも魔導士のそばに残り、傷付くことがあると。そうした物好きな魔導書の中の更におかしなものが、魔導士の死に殉じようとするのです〙
「いやぁ。さすがにそれはないよ」
〘魔導書とは基本的に不滅の存在。創造神様によって、そう創られているので。しかしそのルールを無視してでも添い遂げたい主人に出会えることこそ、魔導書にとっての幸福と言えるのではないでしょうか〙
「面白い話だね。でもないよ。ないない」
アイツが俺を想って消えたなんて。
消滅したなんて、あるわけない!!
「俺は探し出すよ。絶対に諦めない」
この日から俺は自分の中のルールを書き換えた。
親友を探し出すため、全力を尽くすと。
──***──
魔導図書館に来て875年。
ついに大広間の魔導書がなくなった。
全て本棚に返却されたんだ。
毎朝、数千冊の魔導書が新たに出現する。けどそれも【神速】と【無重書架】を使えば一瞬で返却できる。
この頃から俺は、大広間に帰還してきた魔導書を本棚に返却した後、書棚を1つ1つ確認するという作業を始めた。
完全消滅なんてしていない。
大広間で見つからなくても諦めない。
待ってて。
絶対に見つけてやるから。
──そう決意したが、時は虚しく過ぎていく。
魔導書を返却し始めた時は無限に感じた1000年という期限。
それが今は、俺の親友を探すためのタイムリミットになっていた。
そして、1000年が経過した。
経過してしまった……。




