表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛇眼破り第二部~おわらせるもの~  作者: 石笛 実乃里


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/30

第二十話 第八章「作戦決行」其の四

そして夜になった。

(けん)(りゅう)(たい)()以外の忍者たちはいかにも忍者風な黒装束(くろしょうぞく)に着替えたが、泰雅だけは昼の恰好のままだった。

泰雅だけが目立ってしまうことになった。

やはりそうだ。泰雅は思った。

この作戦を命じた人間は自分を(おとしい)れようとしている。

川の上の丸太(まるたん)(ぼう)の橋の上に自分を追い込んで、勝手に落ちるのを待っているのだ。

よし、こうなったら。

泰雅は決心した。

なにがなんでも生き残ろう。

なにかあったら仕方ない風を(よそお)って早めに逃げ出すことにしよう。


満月だった。

奈央姫は近くの武家屋敷にいるはずだった。

屋敷はこの地域を()べる北部の武家のものだった。

北方王国連合の要請で奈央姫たちに自らの屋敷を貸し出しているのだった。

屋敷は大人の身長の倍ほどもある、漆喰(しっくい)を壁面に塗って上に(かわら)を敷いた立派な高い(へい)に囲まれている。

泰雅を含めて八人ほどの襲撃団(しゅうげきだん)のひとりが、端に鉄の(かぎ)(つめ)の付いた細い縄梯子(なわばしご)をそんな堀に向かって投げた。

縄梯子はうまく堀のてっぺんから垂れ下がったようになり、襲撃団はひとりまたひとりとそれを登り始めた。

最後から二人目に蟋蟀(こおろぎ)が登り、泰雅におまえも登って来いというように堀の上から手招きする。

泰雅も縄梯子に足をかけ、登り始める。

塀のてっぺんに達する頃には蟋蟀はすでに堀の向こう側、屋敷側に飛び降りていた。

泰雅も覚悟を決め、えいやっと飛び降りる。

飛び降りた周りには忍者の黒装束を着た襲撃団の仲間たちがいた。

あたりに奈央姫の護衛団が見えないことを確認し、こちら側からも縄梯子を投げて逃走経路を確保する。

あとはこの十人ほどの面々で屋敷内に向かい、奈央姫の寝込みを襲うという算段だった。

首領はどうも誘拐、つまり生け捕りにするなどは考えていないらしく、こんな大人数で女性一人を殺しにいくことを想像すると泰雅は身の毛がよだつ思いだった。

だからといって首領に抗議するわけにもいかず、仕方なく蟋蟀のような蛇眼の忍団の若手について行くほかなかった。

彼ら蛇眼の忍団は奈央姫の護衛団の待ち伏せなどに()った場合、すぐに逃げる方針らしく常に逃げ道を確保し、それを気にしている印象があった。

心配なのはその方針が泰雅に全く説明されなかったことだった。

これでは素人の泰雅に斬られるか捕まえられろと言っているようなものだった。

実際そういうことなのだろう、と泰雅は思った。

密かにそう期待し、蛇眼の忍団にそう命じさせられるように仕向けた人物がいるのだ。

襲撃団は物音を立てないようにして屋敷の外廊下に上がった。

そのまま障子(しょうじ)を開ければ屋敷で一番広い部屋、つまり奈央姫が休んでいるであろう部屋に侵入できる。

おかしい。

泰雅でなくともそう思うのは当然だった。

護衛の人間がいないのだ。

彼女ほどの重要人物ならば、寝室の外にも護衛をつけるのは当然と言えた。

それがひとりもいない。

首領は黒頭巾をしたまま不審そうに周囲を見渡し、身構えながら障子を開けた。

部屋の中は真っ暗なままだった。

首領たちが忍び足で部屋に入ろうとしたときだった。

「わたしのからだ、

わたしのこころ、

それはわたしのもの。

どんな(じゃ)(がん)

わたしを(あやつ)りはできない…」

唄うような声が部屋中に響いた。

同時にいくつもの提灯(ちょうちん)に誰かが火を()けた。

襲撃団の目に飛び込んできたのは彼らにとって最悪な光景だった。

奈央姫は昼用の着物をまとって立っている。

不敵な表情でこちらを(にら)み付け、こちらに片手を差し伸べている。

その周りを幾重にもとり囲むようにして護衛団(ごえいだん)がいた。

あきらかに襲撃団より人数が多い。

そのうちのひとり、護衛団の首領らしき男は幼子の男児をひとり抱きかかえている。

彼女の息子だろう。

一緒に護衛していたのだろう。

護衛団はみな長刀(ちょうとう)を抜き、すでに臨戦態勢であった。

「侵入者たち!」

集団の真ん中にいる女性はこちらに右手を差し出したまま鋭く叫んだ。

忍者団の後ろでその声を聴いた泰雅は意外に感じた。

日中山の斜面の森から(うかが)った奈央姫はどこか屈託のない、無邪気な雰囲気すらする女性だった。

それがいまは、非常事態ということもあるのだろうが、まるで別人のようだった。

何と言うか、魔女的なものを泰雅は感じた。

「あんたたちに逃げ道はないよ!斬られる前におとなしく降参しな!」

いつもの奈央と違う、と感じたのは純史郎(じゅんしろう)もだった。

奈央を見て、すぐに彼女に別人格が()りついているのに気付く。

純史郎の知っている、ある人格が。

(じゃ)()(ひめ)!」

純史郎は息子の純太郎を抱いたまま叫んだ。

邪鬼姫は奈央姫の別人格だった。かつて大変な困難を経て人格の統合に成功し、それ以来邪鬼姫は少なくとも純史郎の前に現れることは無かった。

「おまえ、まだ奈央のなかにいたのか!」

「ああ、いつまでもいるさ!」

邪鬼姫と化した奈央姫は怒鳴るように返した。

「奈央に危機が及ぶとなっちゃあ、隠れてるわけにもいかないだろうしね!」


「では奈央をたのむ!」

純史郎は叫ぶと息子を抱いたまま、間髪を置かず周りの部下に叫んだ。

「ものども、かかれっ!蛇眼にはかかるなよ!斬っても構わん!」

護衛団に二人ほど弓矢を構えた者がいた。

その者たちが矢を放つ。

襲撃団のひとり、先頭にいた蛇眼の忍団のひとりが矢を受けて血を噴き出しながら倒れる。

その直後、長刀を構えていた護衛団員が襲撃団に襲いかかった。

襲撃団も背中に負っていた刀をすぐ抜いて応戦する。

辺りはすぐに刀を斬り合う、金属がぶつかり合う鋭い音に支配された。

「逃げろ!」

襲撃団の首領の声が響く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ