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蛇眼破り第二部~おわらせるもの~  作者: 石笛 実乃里


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第二十一話 第八章「作戦決行」其の五

黒装束(くろしょうぞく)になった集団の数人は警備団と斬り合いながら退路を開き始めた。

円になるようにして応戦しながら、じりじりと撤退(てったい)を始める。

蟋蟀(こおろぎ)と泰(たい)雅(が)もその円に加わり、護衛団員と刃(やいば)を交えた。

ふたりとも奇跡的に無傷であった。

円になった襲撃団の生き残りは逃げるために投げた縄梯子(なわばしご)まで進んだ。

それも奇跡的なことにまだあった。

いや、これも警備団の策略のひとつかもしれない。

泰雅は刀を構えながら奈央姫の方を見て、どきりとした。

彼女はこちらを向いて笑っていた。

「やっちまいな!」

笑ったまま奈央姫なはずの女性が叫び、

警備団長らしき男の腕の中の男児が

「ははうえー!」

と泣き叫ぶ。

警備団長らしき男は

「静かにしてくれ、邪(じゃ)鬼(く)姫(ひめ)!」

と彼女に別の名で叫んだ。

「そういうわけにはいかないね、純史郎(じゅんしろう)!」

と彼女は叫び返した。

「奈(な)央(お)があたいを呼んだんだからね!」

このとき、襲撃団の首領が信じられない言葉を発した。

「蟋蟀(こおろぎ)!」

「はい!」

蟋蟀が刀を構えながら返事をする。

「お前がなんとしてでも泰(たい)雅(が)殿を援護しろ!彼をここで死なしてはならぬ!そしてお前も生き残れ!」

襲撃団の首領は警備団のひとりが叫びながら斬りかかって来るのに応戦しながら叫んだ。

泰雅は驚いた。

首領がここまで自分のことを思ってくれるとは。

「わしも若いときに蛇(じゃ)眼(がん)の忍団(しのびだん)に入れさせられた!」

首領は相変わらず最前線の位置で警備団に応戦しながら怒鳴るように言った。

「父上はわしを忍者団に放り込んで、あとは会いにも来てくれなかった!わしが厳しい訓練や任務で死ねばいいと思っていた!だからわしは何としてでも生き残ると決めたのだ!」

泰雅はまた驚いた。

首領にそんなことがあったとは知らなかった。

「だから蟋蟀!泰雅殿!そなたらは絶対に生き延びて、ここで死んではならぬ!」

「はい!」

蟋蟀も応戦しながら勢いよく返答した。

襲撃団の生き残りはすでに二、三人縄梯子を登って塀(へい)を超え、向こうで待ち伏せしていた警備団の別動隊と交戦状態に入るか、すぐに逃げおおせたようだった。

逃げられた者がいる分、残された者はより多勢に無勢となり、厳しい戦いを強いられることとなった。

泰雅は蟋蟀に突き飛ばされるように縄梯子の前に立たされた。

泰雅は夢中で縄梯子を駆け上がった。

続いて蟋蟀が忍者の早さで縄梯子を駆け上がってくる。

塀の屋敷側に残り、警備団と戦う襲撃団の生き残りはこれで首領を含めたったの二人となっていた。

塀のあちら側、屋敷の外側は予想と違い真っ暗闇のままだった。

待ち伏せされると思っていた泰雅はしめた、と思う。

泰雅は意を決するとえいやっ、と塀を飛び降りる。

またも飛び降りた勢いで地面に倒れてしまった。

横に蟋蟀が忍者らしくひらりと飛び降りて来た。

蟋蟀はすぐに泰雅が起き上がり、体制を立て直すのを手助けした。

「蟋蟀」

泰雅は言った。

「昼間した約束はなしだ。蟋蟀は自分にとって一番生き残れそうな道を逃げてみんなと落ち合えばいい。俺もそうするよ。必ず堅(けん)柳(りゅう)の郷(さと)に帰る」

「でも首領の命令が…」

ためらう蟋蟀に泰雅は続けた。

塀の向こう側からまだ剣と剣がぶつかり合う金属音が聴こえて来る。

泰雅は早口で言った。

「もし首領さんが生き残って再会できたら俺が感謝してたって言ってくれ。今日逃がしてくれた恩は一生忘れないと。そして蟋蟀もありがとう」

泰雅はそれだけ言うとひとり夜の闇の中へ走り出した。

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