第54話 砂の王国
砂が焼けていた。風が肌を削るように吹きつける。
悠。いや、今の彼は《砂蝎王》として、漆黒の外殻に太陽を反射させながら、砂丘の頂に立っていた。
《スキル:キング》
《効果:この地で“支配を宣言”した者は、王の資格を得る》
(……砂だらけの世界か。水も、森も、愛も……全部、遠いな)
だが、砂の下では蠢くものがいた。
巨大なサソリ、砂蛇、虫の群れ。
彼の気配に引き寄せられるように姿を現す。
悠はその中心で、ゆっくりと尾を掲げた。
(俺が王だ)
その瞬間、砂漠が震えた。
全ての砂生物が跪き、音もなく命令を待つ。
《支配成功:砂の民 統率率97%》
(……いい子たちだ)
悠は低く笑う。
声は風に溶け、黒い影だけが残った。だが、静寂はすぐに破られた。
遠く、地平の向こうに砂煙を上げて進む影があった。
(……人間か?)
盗賊団だった。
黒布で顔を覆い、砂馬に乗った荒くれども。
旗には骸骨の印。槍と銃を構え、血の匂いを纏っていた。
「見ろ! 化け物だ!」
「サソリの王か? 売れば金になる!」
砂を蹴り上げ、銃弾が飛ぶ。
悠の外殻を貫けず、弾丸は砕けた。
次の瞬間。
《スキル:毒針王撃》
紫の閃光が砂漠を裂いた。
空気が毒に変わり、数十の盗賊が倒れ伏す。
(……俺に向かって、武器を向けたか)
悠はゆっくりと歩み寄る。
生き残った数名の盗賊が震え、片膝をついて叫んだ。
「た、助けてくれ! 命だけは!」
悠は冷たい瞳で見下ろし、やがて尾を静かに下ろした。念話を飛ばす。
『なら、働け。砂を耕し、水を探し、国を作るんだ』
盗賊たちは互いに顔を見合わせ、そして頷いた。
その日から、彼らは“砂の王”に仕えることになった。
数年後。
砂丘の谷間に、巨大な砦が築かれていた。
水脈を掘り、緑を植え、砂漠の王国が誕生する。
「王よ……この地、やっと人が住めるように」
元盗賊の女首領が跪いた。
悠は遠くを見つめながら、低く念話を呟く。
『……俺は、もう奪うだけの王じゃない。
ここで、生かす王になる』
彼の背に、黒いサソリの影が浮かぶ。
砂の太陽が燃え上がり、王の影を伸ばした。
だがその影の向こうには、また新たな気配があった。
異国の旗を掲げた“人間の軍”。
(……また、来るのか)
悠は尾を立て、毒を滲ませた。




