第21話 蟻の王、群れの地下にて
暗闇。
湿った土の匂いと、無数の足音が響いていた。
《転生完了》
《種族:アリ》
《称号:蟻王》
(……またか。今度は蟻かよ)
悠は重たい身体を起こし、周囲を見渡した。
そこは巨大な地下巣。
無数の蟻たちが列をなし、食料や卵を運んでいる。
規律と秩序が、まるで一つの機械のように動いていた。
(すげぇ……これが群れの社会ってやつか)
頭の奥に響く、ざわめきのような思考。
どうやら、群れ全体と意識を共有しているらしい。
《王、覚醒を確認》
《指令を》
(……いや、指令とか出す気はねぇよ)
《了解不能。王の意志を示せ》
(うるさい! 俺はもう王なんか!!)
悠は叫びかけて、息を呑んだ。
口が……無い。
喋れない。
思考だけが群れに流れていく。
(……まさか、思ったことが全部伝わるのか?)
《王、拒絶を示す。群れ、困惑》
《王の存在、秩序維持に不可欠》
(おいおい、やめろ。俺がやらなくても動けるだろ)
《否。王の不在は群れの崩壊を招く》
その瞬間、遠くの坑道でざわめきが起きた。
数匹の兵蟻が暴走し、仲間を攻撃し始める。
(ちょ、待て! 俺のせいかよ!?)
《王の不安、兵蟻へ伝達。群れの統制率低下》
(おいおいおい! じゃあ落ち着けって言えば――)
《王の安定思考、確認。暴走停止》
(……マジか。思考で全部繋がってるのか)
気づけば、巣全体の気配が穏やかになっていた。
まるで彼の心が群れの心そのものになっているようだった。
(……王って、支配者じゃなくて“中心”なんだな)
だが、その“理解”が生まれた瞬間。
《異常反応検知》
《地表方向より侵入者接近》
(侵入者? まさか……また人間か?)
兵蟻たちが一斉に戦闘態勢を取る。
地面の上から、震動と金属音が伝わってきた。
まるで巨大な杭を打ち込むような音。
《地上部隊確認。人間による巣焼き作戦開始》
(……またか)
悠は、暗闇の中で牙を噛みしめた。
どんな姿になっても、どんな種族に生ま れ変わっても、“人間”は必ず彼を討ちに来る。
(スキル《キング》……お前、いったい何を望んでる)
巣が揺れ、熱風が吹き込む。
上から油の匂いが降りてきた。
どうやら地上で火が放たれたらしい。
《王、命令を》
(……逃げろ)
《否定。王の命令に矛盾。防衛を望む個体多》
(だから俺はもう戦いたくねぇって言ってんだ!)
だが、群れは止まらない。
兵蟻たちは炎に突っ込み、巣の入り口で命を落としていく。
彼らの意志が、全部、悠の中に流れ込む。
《王、悲哀を共有。群れ、覚悟を確認》
(……勝手に覚悟すんなよ。俺は、もう……)
地面が崩れ、炎が地下を呑み込んだ。
悠は本能で、残された卵の群れを覆い隠すように動いた。
熱が殻を焦がし、脚が焼ける。
(あぁ、また同じだ。結局、王ってのは“最後まで守る”役目なんだな)
《生命維持限界》
《転生条件、充足》
(もう、いい……好きにしろ)
炎の中で、悠は目を閉じた。
巣が崩れ、群れの意識が消えていく。
それでも最後の瞬間、どこかで声が響いた。
《王の意志、後代へ継承》
《転生先、選定中……》
(……もう、“地上”は嫌だな)
《選定完了》
《種族:ワイルドベア》
(また……かよ……)




