第20話 獣王討伐令、そして火の夜
人間の王都。
石造りの大広間には、甲冑をまとった兵たちが整列していた。
壇上の王は蒼ざめた顔で、震える声を張り上げる。
「第六森域に現れた“獣王”を、討て」
その言葉が落ちた瞬間、広間を重苦しい沈黙が包んだ。
兵たちは互いに顔を見合わせ、誰も動けない。
噂はすでに城下にも広がっていた。
森に棲む魔獣たちが、一匹の猪に率いられ、
狩人を十人以上も殺したという。
「……ただの野生動物ではありません」
「“知恵”があります。罠を避け、戦術を使うのです」
報告を聞いた王の表情が強張る。
“獣が王を名乗る”それは、この世界の秩序を嘲る最大の冒涜だった。
ゆえに、討伐令は下された。
《討伐目標:ワイルドボア・キング=悠》
《危険度:S級》
その夜、第六森域。
悠の支配する森。
空を裂いて、赤い光が走った。
火の矢が降り注ぎ、木々が次々と燃え上がる。
遠くから、角笛の音が響いた。
(……来たか)
悠は炎の向こうを睨む。
群れの猪たちが怯え、混乱して逃げ惑っていた。
(退け)
その一言で、群れは静かに散っていく。
炎に包まれた森の中、悠だけがその場に残った。
《スキル《キング》:支配解除中》
(今回は……守るつもりはない)
鎧の音、詠唱の声、獣避けの煙。
人間たちが森を“理”で侵していく。
(俺も、もとはあっち側の存在だったんだよな)
燃える木々の影から、ひとりの若い騎士が現れた。
顔には恐怖が浮かんでいるが、それでも剣を構え声を張る。
「獣風情が言葉を理解するとは……」
(……元人間だからな)
悠は低く答えた。
(人間を倒すたびに、“討伐理由”が増えるからな)
地面が震えた。灰が舞い、空気が焦げる。
悠が一歩、前へ踏み出すだけで、森が唸るように鳴った。
騎士たちが一斉に槍を構える。
その瞬間、悠は地を蹴った。
爆発のような衝撃。
一撃の角で数人が吹き飛び、炎と煙が渦を巻く。
血の匂いが夜を染めた。
《敵対存在:人間王国軍》
《均衡維持プログラム、作動率73%》
(俺が“王”である限り、世界が殺しに来る)
悠は空を見上げた。
そこには、鯉のときの湖も、カニのときの海もない。
ただ、燃え落ちる夜空と無数の星があった。
(……転生を繰り返すたび、少しずつ分かってきた)
“スキル《キング》”
それは支配の力などではない。
世界が均衡を保つために、“王を創り、壊す”ための輪廻装置。
(つまり、俺は……)
悠は笑った。
焦げた牙から血が流れ、煙がその身を包む。
(最初から、討たれるために生まれた王か)
その呟きに呼応するように、空が裂けた。
巨大な火球が降り注ぐ。王国の魔導師たちが放った、討伐の最終魔法。
《火炎魔法:インフェルノ・ランス》
(あぁ……また“次”か)
光が世界を塗り潰す。
森が燃え、肉体が溶け、意識が反転する。
最後の瞬間、悠は静かに思った。
(もう……王なんて、なりたくねぇ)
《転生先、選定中》
《次の王、分類:虫類》
《種族:アリ・キング》




