第11話 チョウチョの王、森の国家を築く
(危なかったー!!)
悠はカマキリから逃げ切り森を優雅に飛んでいた。
森は眩しかった。
無数の葉の間から光が差し、風が羽を撫でるたびに、虹色の粉が舞った。
(……空、風、匂い。全部軽い)
悠は木の枝に止まり、羽をたたんだ。
カニだった頃の重い体も、深海の圧力もない。
ただ、軽い。
どこまでも飛べそうな自由があった。
《転生種:チョウチョ族》
《称号:蝶の王》
《固有スキル:花蜜統治/群翔制御》
(今回は……ギリ悪くないかもな)
足元の花から甘い香りが漂う。
羽を震わせると、蜜の粒が自然に吸い上げられた。
体の内側に、温かな力が満ちていく。
《花蜜吸収により魔力回復+5%》
(へぇ……食べながら回復するタイプか。
これなら生き延びるのも楽そうだ)
だが、そんな平穏も長くは続かない。
バサバサッ!
風が乱れ、影が差した。
上空を、大きなトンボが通り過ぎた。
鋭い複眼、長い尾、獲物を探す動き。
《捕食者:トンボ族 監視中》
(うわ、今度は上位種が狙ってくるのか……!)
悠は枝を蹴り、素早く飛び上がる。
空気を切るように滑空しながら、森の奥へ潜り込んだ。
木漏れ日の下、数匹のチョウたちが逃げ惑っている。
彼らの羽はボロボロで、葉陰からトンボ族が次々と姿を現していた。
(やめろ!)
悠は反射的に羽を広げた。
その瞬間。
《スキル《群翔制御》発動》
空気が震えた。
周囲のチョウたちの動きが一斉に揃う。
まるで指揮官の命令を受けたかのように、彼らは滑らかに旋回し、光の群れを描いた。
無数の羽が太陽光を反射し、眩い閃光を放つ。
トンボたちは目を眩まされ、体勢を崩した。
《幻光効果:敵の視覚混乱 発生》
(今だ、逃げろ!)
チョウたちは一斉に飛び去った。
悠は最後まで残り、光を散らしながら上空へと舞う。
森全体が、金色に輝いた。
《群翔制御レベルアップ!》
《チョウ族の士気+30%》
(……ふぅ。戦わずして守る。
それが、この種族のやり方か)
枝に戻ると、仲間のチョウたちが集まってきた。
羽を震わせ、悠の周囲に円を描くように舞う。
【……王よ】
【どうか、この森をお守りください】
悠は少し照れくさそうに羽をたたんだ。
(王よ、ね。結局また王様になってるじゃねぇか)
だが、今回は違った。
誰かを支配するためではなく、
守るための“王”としての始まりだった。
(……いいさ。今度こそ、平和な国を作ってやる)
《新スキル《花蜜連邦》を獲得しました》
《効果:花のある範囲にチョウ族の生活圏を構築可能》
悠は森を見渡し、羽を広げた。
(さぁ、チョウの王国を作ろう)
その瞬間、森の風が優しく吹いた。
無数の花々が揺れ、
蝶たちが一斉に空へと舞い上がった。
まるで、新しい世界が始まる合図のように。




