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姉の言いなりの私が幸せになるまで  作者: 池中織奈


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6/8

嫁いできた妻のこと ①~グラナートside~

 俺、グラナートは隣ですやすやと眠る妻のことをじっと見つめる。




 驚くほどに無防備で、警戒心の欠片もない。これで大丈夫なのだろうかと心配になるぐらいに彼女――シアンナはか弱い存在だ。




 元々結婚をすることになったのは、様々な思惑があった。




 一つは俺が結婚してもおかしくない年齢なのに、まだ未婚であったこと。

 もう一つは最近、力をつけてきているビルーデン伯爵家と縁続きになること。王家に反意でもあるかどうかを監視すること。




 我が大公家は、表面上は王家との関係は悪いとされている。ただ実際はそんなことはない。寧ろ秘密裏に王家に仇をなす存在を葬ってきたのが俺の家だ。

 王家と敵対関係にあると見せている大公家には、そう言う思考の連中がよくやってくる。

 もしシアンナがそんな思考を持っていたり、大公家の夫人になるからと横暴な態度をしたりしていたら彼女が心配していたように殺していたかもしれない。大公家に対して害を成す存在は妻として要らない。だからそう判断していたなら、殺さないにしても処罰を受けるぐらいはしただろう。それをしても問題ないぐらいの地位は、この家にはある。

 そして実際に殺さなかったとしても、妻の姿が見えなければ「大公家は妻を殺した」ぐらいの噂は立つ。




 そんな噂が立とうが、正直いって俺にとっては問題はないとこれまでは思っていた。

 ただ……そんな噂のせいで、シアンナに怖がられるのは嫌だなと思うぐらいには彼女のことを気に入ってしまっていた。




「グラナート様……?」



 眠っていたシアンナが目を覚ます。虚ろな瞳で周りを見渡し、俺と目が合うと花が咲くような笑みを浮かべる。



 ……俺を見て、こんなに嬉しそうに安心したような笑みを浮かべる存在なんてそうはいない。

 そもそも怯えられることの方が多い。

 それなのに彼女はまるで俺に傷つけられることはないと確信しているかのように、全てを俺に委ねる。

 こんなに小さくて、か弱いのに。





「おはよう、シアンナ」

「おはようございます」



 俺が挨拶をすると、にこにこと笑っている。

 そんなシアンナのことが俺は可愛いと思ってしまっていた。女性に対してこんな感情を抱くのは初めてだ。



 大公領は国内でも北部に存在している。このあたりの女性は背が高かったりする者が多い。

 それに比べるとシアンナは、背が低い。穏やかな顔立ちで、控えめな笑みをいつも浮かべている。



 このあたりには居ないタイプの少女だ。それにだからといって俺に怯えるわけでもなく、真っすぐに目を合わせる。

 ――好きな花に似ているんです。

 そんな風に告げるシアンナに俺が驚いたのも当然だった。だってまさか自分のことを花にたとえられるなんて思っていなかったから。




「今日は騎士達の元へ連れて行こう」

「まぁ、本当ですか? もしかしてグラナート様の訓練の様子も見れますか?」



 そう言って期待したようにこちらを見るシアンナは、本当に夫を喜ばせるのが上手い。



 こんな風に俺のことを気にして、知ろうとしている様子が愛らしい。俺に対しても怯えた様子一つ見せないシアンナは、騎士達に対しても同様かもしれない。

 ……そうなるとシアンナに興味を抱く騎士も出てくるか? それは少し嫌だ。

 こんなに小さくて可愛らしいのだから、悪い人間に攫われてしまうかもしれないとそんなことを思ってしまったりする。




「ああ。……シアンナ、騎士達には必要以上に近づかないように。いや、騎士達じゃなく、お前は俺の妻なのだから異性とはあまり仲良くするな」



 こんなことを言ってしまったのは、シアンナが俺に対して何処までも無防備だからかもしれない。それは彼女の可愛らしい点だとは思うが、俺に近づくような距離感で他の男に近づかれたら困る。

 俺の言葉を聞いて、シアンナは驚いた顔をする。だけど、次の瞬間には笑った。



「当たり前ですわ。グラナート様以外には、こんな態度はしませんもの。だってグラナート様は私の旦那様なのですから」



 出会って間もないのに少し面倒なことを言い出した俺に対して、シアンナはそう言って微笑んだ。

 その後、着替えたシアンナと共に騎士達の元へと向かう。




 手を繋いで、彼女の歩幅に合わせてゆっくりと歩く。

 歩く速さも、シアンナは俺よりもずっと遅い。シアンナは少し暗めの茶色の髪と、紫色の瞳を持つ。話していて分かったが、どうやら姉に対して、コンプレックスはありそうだった。




 よく姉のことを気にしている。それに自己肯定感が低い。……今までどういう暮らしをしてきたのだろうかと心配になったので、それは調べさせている。

 シアンナと一緒にいると心が穏やかになる。可愛くて、見ていて落ち着く。

 そんな彼女は幸福であるべきだと、俺は勝手にそう思っている。




「私、騎士達の訓練を見に行くのも初めてなので楽しみです」

「……怖くなったらすぐに言うんだぞ?」



 初めてだというのならば、武器を振り回す様子を見て怖がるのではないかと思ってそう告げる。俺のことも怖くなったりするだろうか? それは少し嫌だ。




「今の所、怖いよりも楽しみなので大丈夫かと。ただもし恐ろしくなったら言いますわ。でも騎士達は私達を守ってくださる存在なので、怖がるようなことはしたくないとは思ってますけれど……」



 シアンナはそう言うが、令嬢からすれば武器を振り回す大男なんて恐ろしくなるのが当然だ。

 ……ただシアンナはそんな風に怯えはしない気がする。そうなると騎士達も「自分を怖がらなかった」とシアンナを気に入るだろうか。

 ちょっとそれは面白くない。



 ちゃんとシアンナは俺の妻だと示しておかないと。


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