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「まぁ……」
私はグラナート様に連れられて、騎士達の訓練所にやってきている。こんなに多くの屈強な騎士達を見るのは初めてのことだ。
実家にいた頃の私は、家族から人前に立つことを望まれていなかった。私のような者が目立たない方がいいとそんな風にも言われていたから。
伯爵家に仕える騎士達に声をかけるのはいつもお姉様の役割だったなと思う。
お姉様は凄い方で、騎士達もお姉様のことを大切にしていたと思う。私がお出かけをすることは中々なかった。でも家族でどうしても外に出なければならない時には私の護衛を望む人っていなかった。
……そう考えると、グラナート様は優しいけれどあまり外に出ようとしない方が良かったりするんだろうか。
……私は大公家の夫人という立場を手に入れてしまった。私の身に何かあったら、大公家は大変になるだろう。私を大切になんかはしないとは思うけれど、それでもその立場になる人に何かあれば慌ただしくなる。それに私の護衛をしたいなんて人もいないと思う。
グラナート様が優しいから、つい自分の気持ちを軽く口にしてしまうけれど……私があまりにも我儘なことばかり言っていたらグラナート様に嫌われてしまうかもしれない。
それは嫌だから、ちゃんと自分の立場は弁えたい。
「グラナート様だ」
「横におられるのが奥方?」
私がじっと騎士達を見ていると、彼らはこちらを見た。こんな風に視線を向けられることもなかなかなかったから、ついグラナート様の後ろに隠れてしまった。
「シアンナ?」
「はっ、ご、ごめんなさい。あんまりこんなに視線を向けられることなかったから、びっくりしちゃって……」
大公夫人としてはこんなことで、グラナート様の後ろに隠れてしまうなんて駄目では?? と口にした後に思った。
なんというか、とても私は情けないと思ってしまう。だって私の知る貴族夫人はもっと堂々としていて、旦那様を支えるものなはずだから。……私って情けないかもしれない。
そう考えると少し落ち込んでしまう。
「おい、お前達。妻を見るな。減る」
グラナート様は何だかよく分からないことを口にしていた。減るって何を言っているんだろうか。
グラナート様にも情けないとか、期待外れだとかそんな風に思われないだろうかと不安を感じてしまった。
「シアンナ、大丈夫か? すまない。急にあんな大男たちに見られて怖かっただろ」
「え、いえ……。な、情けなくてごめんなさい。私、人前に立つことが少なかったのでちょっとだけびっくりしただけです。私はグラナート様のお、奥さんなんですからちゃんと挨拶します!」
「そうか。……やっぱり可愛いな」
「ん? どうしました?」
「可愛いなと思っただけだ。あいつらにそこまで気を遣う必要はない」
「そういうわけにはいきません。この土地を守ってくださっている方達にはちゃんと敬意は示したいですから」
また可愛いなんて言われてしまった。私は可愛くなんてないと思うのに、グラナート様は何度もそんなことを言う。
実家にいた頃はそんな言葉を一度も向けられた記憶がない。どうして、グラナート様はその言葉を私に向けるんだろう?
「そうか。なら、挨拶に行こう。怖いならゆっくりでいい」
「はい。ありがとうございます」
グラナート様は私に気を遣わなくていいなんていうけれど、向こうは気を遣ってばかりだと思う。
私が此処で過ごしやすいようにってそればかり考えてくださっているのかもしれない。
初めて会う人に挨拶するのはとても緊張する。だけれどもグラナート様が一緒に行ってくれるなら、そんな緊張なくていいんだって不思議とそんな気持ちになる。
グラナート様が優しくて、とても安心出来るからかも。
「奥様、グラナート様の後ろに隠れていて可愛いな」
「小さくないか?」
「なんかグラナート様、優しくないか? 奥様のことを気に入ったのか?」
「あんな優しい声、出せたのか??」
緊張して仕方がない私は周りの騎士達が何を言っているのかさっぱり聞こえてきていなかった。
だけどグラナート様が騎士達に視線を向けたら、その囁き声はなくなった。どうしてだろう? グラナート様が訓練をしていた騎士達のことを集めてくれた。
私はドキドキしながらも、グラナート様の隣に立つ。グラナート様が堂々としていて、かっこいいな、凄いなとそんな気持ちでいっぱいだ。
「……わ、私はこの度、こちらに嫁いできたシアンナと申しますわ。こ、これから色々とお世話になると思いますけれど、よろしくお願いします」
そう言って貴族としての礼をする。こんなあいさつで大丈夫だろうか。
騎士達の前で声を上げるなんてこれまでなかったから、よく分からない。不自然な静寂があったから余計に心配になった。
「お前達、シアンナが可愛いのは分かるが返事はしろ」
だけどグラナート様がそう言うと、騎士達は返事をしてくれた。




