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「シアンナ、手紙の返事を書くのもいいがあまり無理はするな」
一生懸命手紙の返事を書いていたら、グラナート様がいつの間にか近くにいた。近づいてくる気配に全く気付いていなかった。どれだけ私は夢中になってしまっていたんだろうか。
「まぁ、もうこんなに時間が経っていたんですね。びっくりです」
時計を見ると、かなりの時間が経過していて驚いた。
グラナート様はじっと私のことを見ている。何だかそれだけでドキドキした。だってグラナート様は私に愛しているとおっしゃってくださっていたんだもの!!
「手紙の返事は無理して全てシアンナがする必要はないぞ? 大変なら執事などに任せろ」
「でも……何だか私宛の手紙がこれだけ来ているのかと思うと、嬉しくて……!!」
そう、嬉しくて仕方がなかった。こんなにも私に手紙を書いてくれる人が沢山いることが。こうして嫁いでくるまで経験することの出来なかったことだったから。
「そうか。……ただこれからシアンナには今以上に手紙が届く。全て対応しようとすればもたないだろう」
「え、これ以上に?」
今でさえも私にとっては信じられないほどの手紙量をいただいている。こんなにもらえているだけでも驚きなのに、これ以上増えるの? とそう思いながら手紙に視線を落とす。
数え切れないほどの量を受け取っている。確かにこれ以上もらったら、私一人では手紙の返事は書けなくなってしまうかもしれない。全てに返事をしようとしたら、それこそずっとそのことしか出来なくなる。
大公夫人としてやりたいことは沢山あるのだから、手紙の返事だけにかまけているわけにもいかない。
「ああ。もっと沢山来るだろう。シアンナと関わりたい奴らは沢山いる」
「それなら、確かに私一人で全て対応することは出来ませんね。……周りの助けを借りなければならないけれど、どれを自分で返事するかなど判断するのが大変そうです」
周りの助けをそんなに借りてもいいのだろうかとそんな思考になった。それに多くの手紙が届くのならば分別するのも大変そうだ。私に出来るだろうかと少し心配になる。
そんな私にグラナート様は笑いかける。そして頭を撫でてくれる。
グラナート様は、私に触れるのが好きみたい。愛しているって言われてから余計にその頻度が多くなった気がする。
グラナート様は私が嫌がったら触れなくなるだろう。でも私は撫でられることも好きだ。というかグラナート様に触れられるのは、ぽかぽかした気持ちになって嬉しいことなのだ。
だから嫌がるなんてするはずがない。そもそも私が拒絶して、グラナート様が悲しまれるのだけは絶対に嫌だった。
「大丈夫だ。信頼できるものに全て任せればいい。俺はシアンナが大変な方が嫌だ」
「ふふっ、ありがとうございます。なら、もっと増えてきたらそうしますね。でもこの位の手紙の量なら、お返事出来るので書いてしまいます!」
グラナート様は優しい。私に対して凄く思いやりをもって接してくれている。こういう態度は私にだけらしいって、侍女達が言っていた。
グラナート様が、私のことを愛しているからこそ私にだけ特別な対応をしてくれているんだって。
そのことが何だかとっても嬉しい。
私はこんな風に、誰かに特別扱いをされたことがこれまでなかった。でもグラナート様は他でもない私を、誰よりも大切にしてくださっている。
私はグラナート様を愛しているかどうか分からない。でもグラナート様の言動がただ嬉しくて仕方がなかった。
また手紙を書きだそうと、私は羽ペンを手に取る。
そうしたらグラナート様に手を掴まれる。とはいっても乱暴な感じではない。あくまで優しい手つきである。
「グラナート様?」
「俺が目の前にいるのだから、手紙を書くのは中断だ」
そしてそんなことを言われて、驚いてしまう。
「でも……早めに終わらせた方が後から楽じゃないですか?」
「それでもだ。俺よりも手紙を優先するな」
そう言ったグラナート様は、何だか子供みたいだった。可愛いなんて男性を称する言葉じゃないかもしれないけれど、そう思ってしまった。
「はい。なら、グラナート様とお喋りします。私は他の何よりもあなたを優先するつもりなので、これからも寂しいなら言ってくださいね」
「……寂しいとは言ってないだろう」
「でも私が手紙の方を優先するのが嫌だったんですよね?」
私がこんなことを誰かに言うなんて想像もしていなかった。夫であるグラナート様を揶揄うだなんて。
私がこういう言い回しをしてもグラナート様は、許してくださる。
私はそれが分かっているから、言える言葉なのだ。グラナート様は少し照れた様子だった。
グラナート様の新たな一面を見られて、私は楽しくなった。
「……ああ。だから他のことばかり優先するな」
「はい!」
グラナート様の言葉に私は大きく頷くのだった。




