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グラナート様に愛していると言われた。
そのことを思い浮かべると、顔が赤くなる。私は、グラナート様に愛しているなんて言われて嬉しかった。
ただ私自身は愛というものが分からない。……そんな状況で私がグラナート様の妻として過ごしていていいだろうかとそう思うこともなくはない。
だってグラナート様へ、愛情を向けている人は本当に多いみたいだから。
とはいえ、グラナート様は私が妻でいることを求めてくれている。……恋や愛という感情を私は知りたいな。
グラナート様のことをもっと知ろうとしたら、私は彼のことを愛せるのだろうか。
でも愛するってきっと強制出来ることでは全くないよね。そう考えると私はグラナート様をそういう意味で愛せなかったらどうしようかなどと考えてしまった。
……私はグラナート様を悲しませることはしたくなかった。出来たら、グラナート様のことを愛したいなって思った。
でも好きになろうと思ってすることでもないだろうし、ままならないこともありそう。
そう思うとやっぱりよく分からない。だけれども結局焦ったところで私に愛が分かるかどうか考えてみると、結論からすると分からない。
なら、いつか分かればいいとそう思って一先ず置いておこう。……一生分からなくたって、その時はその時でずっと傍に居るだけだ。
「沢山、お手紙が来ているわ」
さて、パーティーを開いたからというのもあるだろうけれど私には沢山の手紙が届いている。こんなに沢山の手紙をもらうなんて初めてのことだった。
嫁ぐ前も伯爵令嬢という立場だったから、少なからず手紙は届いていた。だけどそれはお姉様のおまけとして誘われていることばかりだった。私自身に来てほしいと望んでいるものではなかった。
……なんだろう、パーティーの時に私は自分が蔑ろにされ、雑に扱われているのだと気づいた。手紙の事に関しても私がそういう扱いをされていたと分かる。
だって普通は、二人いるうちの令嬢で片方だけを誘い続けるなんて状況はあり得ないはずだから。
私だってこれから誰かに手紙を書こうとして、その家に二人令嬢が居たら、同じようなお誘いの手紙を書くだろう。少なくとも私的な手紙ではなく、社交界に関するものだったらそうだ。
でも実家では、家だけではなく外でも私の価値は著しく低かった。初対面の人も、私のことを蔑ろにしていたように思える。その環境に陥っていたのは、お姉様も関係しているのかもしれない。
私はお姉様のことが嫌いじゃなかった。寧ろ眩しくて、憧れていた。優しくて、思いやりがあって、誰にでも好かれていてカリスマ性がある。それでいて未来を見通すように――沢山のことを知っている。
これまでそう思っていた。
でも大公家で過ごしていると、本当に優しい人ならば妹が殺される方が自分が亡くなるよりもいいなんていって嫁がせようとしたりはしないだろうと思い至った。
お姉様が、私がグラナート様に嫁いだら死ぬ運命なんて言ったのには何かしらの理由でもあるのだろうか。
グラナート様にとって処分しなければならないということを、行うと思われていたということ? それともお姉様が嫁いでいたならば死んでいた可能性がある? それってどういうことなんだろうか。
……まさか、大公家相手に何か思惑をもってよからぬことをしようとしていたとか? 私のことを何も出来ない人間だと思っている家族からすれば、そんな思惑を伝えることも必要ないと思われていたのかもしれない。
私は……実家の家族達のことを一緒に暮らしていたはずなのに全くといいほど理解していない。
血は繋がっているけれど、特に私は家族から疎外されていたように思える。目に見えた何かがあったわけじゃない。外から見たら私は普通に面倒を見てもらっていたのだとは思う。
だけれども実際は……最低限のものを与えられていただけだった。お兄様やお姉様はもっと良いものを沢山与えられていたと思う。私には、最低限のものでいいのだと……そう家族からも思われていた。
それってなんだか、凄くもやもやしてしまった。今まで当たり前だと思っていたのに凄く不思議だ。
両親やお兄様、お姉様たちに対して複雑な感情は芽生えてしまった。けれどもそれ以外の感情が芽生えないのは……私にとっても実家の家族を大切な人と認識出来ていないのかもしれない。
関係性が希薄だったというべきなのか……。こうして嫁いできたからこそ、私にとっての家族がこのお城人達という認識だからなのかな。
……冷たいって周りからすると思われるかもしれないけれど、私にとっては自分を蔑ろにしていたと気づいた血の繋がった家族よりも、グラナート様の方が大切だと思った。
私はそんなことをつらつらと考えながら、手紙の返事を書く。
私と仲良くなりたいと思って送ってくださっている方ばかり。私宛のものだと思うと、こういった手紙一つでも嬉しい。
――もっと、私は外とのつながりを頑張って作ろう。
この場所に閉じこもってばかりではなくて、大公夫人として頑張りたいとそう思えたのだ。




