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グラナート様は基本的にずっと私の傍に居てくれた。それだけでどうしようもないほどに私にとっては心強かった。信頼できる相手が傍に居てくれたら、こんなにも自信をもって行動を起こすことが出来るのだなと初めて知った。
「シアンナ、美味しいか?」
「はい。凄く美味しいです」
パーティーの最中、料理人達の準備してくれたいくつもの料理を口にする。普段食べているものもとても美味しいけれども、パーティーで食べると何だか普段とは違う感覚になるわね。
雰囲気が普段と違うからかしら。
グラナート様は私が料理を食べる様子を楽しそうに見ていた。
「グラナート様、パーティーに参加することは緊張していたのですが、いざ参加してみると楽しいですね」
こんなに楽しいと思えるパーティーに参加出来るなんて私は思ってもいなかった。
私はずっと、パーティーは楽しいとも楽しくないともそんなことを思うことはなかった。ただ参加をしているだけだった。
嫁いだら死ぬ運命だと言われていたのもあって、私は嫁いだ後に参加するパーティーに期待していることなんて全くなかった。
「それならよかった」
「グラナート様も楽しいですか?」
「ああ」
私の問いかけにグラナート様が頷いてくれる。
グラナート様が頷いてくれるだけで、なんだかすごく嬉しい。大切な人が喜んでいるという事実だけでより一層パーティーが楽しくなるんだなとそんな気持ちになった。
グラナート様と二人で話している間、不思議なことにあまり人は近づいてこなかった。どうやら私とグラナート様の邪魔をしないようにしたいとそう思っているみたい。
私とグラナート様、お似合いだと思われているのかな。そうだと嬉しいな。
私なんかはグラナート様に似合わないと言われてもおかしくないと思っていた。だって私はお姉様のように素晴らしい存在ではないから。グラナート様が目を光らせているというのもあるだろうけれど、パーティーに参加している人達は基本的に私に対しては好意的だ。
それはグラナート様が私のことを大切にしてくれていると示しているからというのも大きいのだろう。
そもそも私を気に食わないという人がいたとしても、この場でそれを口にするとグラナート様が口出しをするからというのもあるのかもしれない。
今はまだこうだけど……いずれ私も一人で社交界の場に出ることがあるのかな。大公夫人として、そんな立場に出ることがあるのならば――いつかは一人でも立ち上がれるような私になりたいとは思った。
グラナート様としばらく話していると、音楽が奏でられ始める。
楽器の美しい演奏を聞いているだけで、心が洗われるような幸せな気持ちになる。
それと同時に参加者達がダンスを踊り始める。グラナート様が私に手を伸ばしてくれる。
「シアンナ、踊ろう」
そう言ってもらえたので、私は頷いた。
義務的に踊ったことはこれまでもあった。私はお姉様のおまけのような立場だったから、ついでで誘われることしかなかった。
私自身を望まれて、踊ったことなんて全然ない。でもグラナート様は、私にだからこそ、手を伸ばしてくれている。私という個人とダンスを踊りたいとそう思ってくれている。
それが分かるからこそ、嬉しかった。
「もし足を踏んでしまったりしたらごめんなさい」
私はそこまでダンスが得意なわけじゃない。身体を動かすことは得意ではなくて、いつもなんとかついていくのでいっぱいだった。これで踊ることがとても得意だったら、嫁ぐ前だって私はもっとダンスに誘われることも多かったのかな。
何かしら秀でたところがあったら、別だったのかも。
「別にシアンナに踏まれても痛くもかゆくもないから気にするな。俺はシアンナと踊りたいから誘っているんだから」
グラナート様の言葉を聞くと、勇気が湧いてくる。大公と大公夫人。グラナート様と私の立場は、そういうもの。だからこそ私達が踊れば注目を浴びる。グラナート様以外の相手だったならば、私はこんなにも晴れやかな気持ちで踊ろうなんて出来なかっただろう。
やっぱりグラナート様は凄い。グラナート様が、私の夫で良かったとそう思った。
ダンスを始める。
グラナート様は、私が踊りやすいようにリードしてくれている。驚いた。グラナート様って踊るのも得意なのね。
身体を動かすことが得意だからこそ、ダンスもお上手なんだろうな。今まで踊った誰よりも、踊りやすい。
今まで参加してきたパーティーで踊ったダンス、向こうが私に対して思いやりも何もない人ばかりだった。それもあってこんなに踊りやすいダンスは初めてかもしれない。
グラナート様と踊った後に、他のパーティーの参加者達とも踊った。グラナート様には密着しすぎないようにとは言われた。グラナート様も女性と踊ったりしているのに、私にはそう言うのだもの。でもグラナート様に嫌な思いはしてほしくないから、なるべく密着はしないようにおどった。
驚いたことにそのダンスも踊りやすかった。大公夫人という立場の私が不快な思いをしないようにと皆が気を付けてくれているようだった。
……裏を返すと、なんだろう、嫁ぐ前の私は蔑ろにされていたのかもしれないとそこで気づいた。




