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グラナート様から魔法のような言葉をかけられたからこそ、私は頑張ろうと思えた。私に向かって話しかけてくる人はそれはもう多かった。
――これまでグラナート様は、誰かと結婚することがなかった。
私が初めての奥さんだからこそ、余計に関心を持っているのだと思う。それにグラナート様が私のことを大切にしてくれているから。
「大公夫人様は中央におられたのでしょう? 向こうはどうでしたか?」
「お幸せそうで何よりですわ」
基本的に私に対して好意的な人達が多いのは、隣にグラナート様が居るからだろう。
夫が目を光らせているからこそ、私への敵対の意思を示すことはない。凄いな、本当に私はグラナート様に守られている。
彼が傍に居てくださっているだけで、こんなにも生きやすい。
グラナート様は凄いなと、そんな気持ちでいっぱいだ。
「お恥ずかしながら、こちらに来る前はあまり社交界の場には出ておりませんでしたの。ですから至らない点もあるかもしれませんが、ご容赦いただけると助かりますわ」
敢えて社交界に慣れていると示す必要はないと思った。そんな風に強がって、知ったふりをしていても何も良いことはないだろう。
グラナート様に相談をするわけでもなく、自分の意思で決めたので問題ないだろうかと少しだけドキドキしている。
「まぁ、そうなのですね」
「なんて慎み深い方かしら……! 大公様はそういったところを気に入っていらっしゃるのね」
なんて言って微笑まれる。
基本的に年配の……それこそ私の母親ぐらいの年齢の人達は穏やかな表情で私のことを見ている人が多い。
私は実の母親に、こんな視線を向けられたことはなかった。いつだって不出来な私に対してお母様は怒ってばかりだった。
だから凄く不思議だなとそう感じてしまう。
「ああ。シアンナは俺の自慢の妻だ。だからよろしく頼む」
グラナート様は不敵な笑顔を浮かべて、そう言った。ああ、なんだかこんな風に私という存在を自慢してくださっている様子に嬉しくなる。
グラナート様は私のことを認めてくださっている。私は今みたいに誰かから誇らしげに紹介されたことなんて今まで一度もなかった。生きてきて初めての経験を、グラナート様はいつだって私に与えてくれる。
「まぁまぁまぁ、大公様と大公夫人様は仲睦まじいのですね。よろしくてよ」
「なんて素敵なのかしら! 大公夫人様、大公様がこのように女性に言われるのは初めてなのですよ」
私に話しかけていた年配の二人の女性は、何だか楽しそうに笑っている。
グラナート様は、私の自慢。私に沢山のものを与えてくださる旦那様。
「私にとってもグラナート様は自慢の旦那様ですわ。縁を繋いでくださった方に感謝しかございません。グラナート様がいらっしゃっているからこそ、私は幸せなのですわ」
グラナート様のことが褒められて嬉しい。良く思われてて胸が暖かくなる。もっとグラナート様のことを皆が好きになってくれたらいいのに。でもグラナート様が取られるのだけは少し嫌だなとは思うけれど。
私はお姉様の代わりにこちらに嫁いだ。お姉様は花嫁は死ぬ運命、自分が死ぬよりは私が死んだ方がいいと言っていた。
お姉様の言葉は絶対だったはずなのに、私は今、こんなにも幸せで仕方がない。
「まぁ、お熱いことですわ。それにしても大公夫人様は見た目もそうですけれど、中身もとても愛らしいですわね」
「このようにまっすぐに愛情を口にされている姿を見ると若い頃を思い出しますわ」
にこにこしながらそう言われて、顔が赤くなるのが分かる。私はグラナート様の言葉が嬉しくて、私がこうして大公夫人としてこの場に居られることに胸が暖かくなって……その勢いのままにこう口にしてしまった。
だけれども恥ずかしいことを沢山口にしてしまったのではないかしら!!
いえ、もちろん、グラナート様は私達が仲を示すことは良いことだとおっしゃってくださっていたからというのもあるけれど……!!
「俺の妻は可愛いだろう?」
グラナート様はそう言って、また自慢するような笑みを浮かべている。
グラナート様が私の言葉を喜んでくださっていることが嬉しい。恥ずかしいのはそうだけれども、夫から可愛いと言ってもらえるのがただただ嬉しい。
グラナート様も、凄くかっこいい。
私はこんな風に配偶者のことを褒める貴族とはあんまり話したことはなかった。私の両親は仲が悪いわけではなかったし、どちらかというと王侯貴族の夫婦の中では仲が良い方だったと思う。あんまり喧嘩もしていなかったし。
ただ互いを誰かに自慢するとか、誇らしく話すとかそういうことはあまりなかった気がする。
私がこれまで参加していたパーティーでは、お姉様が主役で……私はあまり人と喋ることはなかった。私が目立つことを周りは良しとしていなかったからというのもある。だから私はそこまで人と話してこなかった。
そういう参加の仕方しかしていなかったから、こうなのかな。実は世の中には配偶者を常に自慢しているような人も多いのかしら?
そんなことを考えながら、パーティーの参加者達と沢山話した。その中でグラナート様のように配偶者を自慢する人はそこまで多くなかった。
グラナート様が珍しいのかな。でも私は嬉しかったからいいかと思った。




