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異性交遊。あ、かっぷ、おぶ、こーひー。

待ち合わせ、なんて大層なことはしていないけど、放課とほぼ同時に神速で隣のクラスたる明音さんを迎えに行って、どうしても着替えると言い張る彼女の要望を断れるわけが全くなく、用意周到、着替えを準備してきていた明音さんを連れて、僕の着替えがてら萩野家に移動の次第である。

なんて、途中緑や美稲の追求なんかがあったのを端折っての解説だけど。取りあえず、今は我が家の、僕は自室にいる。着替えはとうに済んでいて、今では来訪者がまず確実に使用するようになった以前すぅちゃんに割り振られていた部屋にて、明音さんが着替え中である。女性の支度には往々にして時間がかかるものであるという。あの明音さんとて、その例には漏れないようだった。

さて、と。頭の中で、僕は今日のためにたてた予定を反芻する。我ながら明音さんに合わせた最高のルートに思えて、彼女の喜ぶ顔なんてものを、たまには見てみたいなぁとか考えてみる。照れたり笑ったりの顔は見たことあるけど、喜怒哀楽、喜の表情を明確にみたことは無かった。哀は、みたくも無い。明音さんが哀しげな表情なんてしたら、きっとそれは僕の死期だ。

暫くして、控えめに僕の部屋のドアがノックされた。この謙虚さは明音さんらしくない……なんてことは思っても声にはせずに、僕は応じてドアを開ける。ふわりと、鼻孔をつくなんだか良い香りがして、直後に僕の視界に信じられないものが映って、僕は文字通り、硬直した。目を見開いた。茫然自失。


普段何もいじっていない長髪にはふわりと緩くパーマがかかっていて、それだけで全体の雰囲気が柔らかく見える。(歪んだ)ファンシー思想を持つ彼女からは考え付かないような、リボンのワンポイントがついた清楚な白いワンピースに身を包んでいて、普段全くしていない化粧を薄く施してあり、それだけでぐっと、なんていうか、綺麗さが増している。元が元だけに、この変化は絶大な威力を誇っていると言えた。

ああ、もう、何だこれ、あれか、筆舌に尽くしがたいっていうのはこういうのを言うのか。なるほど、言葉ってのは、表せないものですら曖昧に表現してくれる。それほどまでに、彼女の私服姿は凄まじかった。合宿の時に着ていたものとはまるで雰囲気が違う。駄目だ、動悸がおさまらない。まさか明音さん相手に、恐怖以外の理由で動悸を覚えるとは予想外だった。

「何よ、言うべきことはないの?」

ふん、とそっぽ向いて、明音さんが呟く。「あ、ああ、うん」と曖昧に言を濁して、僕は深呼吸して、もう一度明音さんに目をやった。

「……っ」

うわぁ駄目だ、直視できない。他の研究部メンバーも相当レベルの容姿を持っているのだけど、なんていうか、ちょっとお洒落っ気を出しただけでこうも違うのか。明音さんの場合は他のメンバーより圧倒的に雰囲気があるから、余計に引き立っている。

「ちょっと、聞いてるの? 顕正」

自身もちょっと恥ずかしいのか、こころなしうつ向き気味に上目づかいで責めの言葉を紡いでくる。今の状態だとそれすらも萌えポイント(この僕がこんな言葉を使うことになろうとは!)にしか見えなくて、やばい、こんな状態でまともに一日を過ごしきれるのか僕は。

さらに不審げに僕を覗き込んでくる明音さんに根負けして、僕はなんとか、途切れそうになる言葉を無理やり繋ぎ合わせて声を絞り出した。

「可愛い、よ、うん。すごく」

本当はもっと絶賛したいのだけど、いかんせん、舌が回らない。それに僕の場合あんまり言葉を使い過ぎると嘘くさいんだよね。この感動を、そんなことでおじゃんにしたくは無かった。

「そう、……嬉しいわ」

ぼそっと、小さく呟くようにして明音さんが言った。うつむき加減の頬にわずかに朱みが挿しているのが見えて、僕の脳は余計にゆだつ。一々天然でつぼを心得ている人だった。普段からこうならもっともてるだろうに、勿体ないの一言に尽きる。

すう、と深呼吸、僕は出来るだけ意識を外に向けて彼女の顔を見ない風にして、「行こうか」とその細い手を取る。抵抗なくすんなりと明音さんの身体が僕につき従ってきて、並んだ瞬間に漂ってきた香りは無理矢理にスルーした。

少しでも落ち着けとばかりに歩行速度を上げかけて、隣を歩く明音さんのことを思い出して躊躇って、最初の行き先に決めてある昼食用のカフェでちゃんと向かい合ってられるのだろうかと、僕の思考はめまぐるしく動いて定まらない。

気恥かし過ぎる沈黙の末にようやく目的のカフェに到達する。まだ数十分と経っていないのに早くも僕の疲労は積み上げられていて、握った手が汗ばんでいないのかと、心配でならない。緊張を悟られていないか、ああいや、明音さんもかなり緊張しているみたいだ、緊張してくれてるのか、うわまた恥ずかしい。なんて、堂々巡りの思考を断ち切るようにドアを開き、来客を迎える心地よいベルが響いて、店員が応対に来る。ネットで調べた通り、中々雰囲気の良い店だった。良かった、これで明音さんの気を削いでしまったら今の僕には対処できない。気が気でないままにコーヒーとランチセットを注文し、わざとらしさもここに極まれり、如何ともしがたいタイミングで僕は「お手洗いに」と席を立った。


ここまで非常によろしくない態度である。さて、冷静にならなくては。

なんてというベタ甘回。顕正がここまで狼狽するのは作中初めてなのではと思います作者でした。

はい、ご察しの通り、何話かにわけてお送りいたします。昨日は都合により更新できませんでした故、楽しみにしてくれていた方がおられましたら、全力で謝罪させていただきたい所存にあります。

敬語が無茶苦茶ですね(汗


それでは、感想評価等頂ければ幸いです。

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