不承不承。セルフ炒飯。
九月第一週。僕らの高校では、この一週間は毎年例外なく午前授業になる。授業が終われば、来るのは放課後、部活である。
ここで僕は、とある大失態について気付いてしまうのだった。
だからこれは、僕の、一人格闘の話。
部室に入って、誰一人来ていないことを把握した。よりによって、今日、誰もいないとは。今からでも連絡を入れれば、おそらく美稲あたりなら家からでも再登校してくれるだろうが、流石にそれは忍びない。というか、情けない。
弁当を忘れたなんて、誰に言えようか。
冷静に考えてみると、誰もいないんだから今日の活動は中止にして帰ってしまえば普通に昼食にありつけるのだが、いや、まだ誰も来ないと決まったわけではない、そして、誰かが来るかもしれないのに部長がいなくなるわけにはいくまい。覚悟を決めて、打開策を練る。非常に間の抜けたことに、こんなときに限ってこそ財布を家に忘れている僕だった。購買も学食も、これで使えなくなった。あれ? 普通に詰んでない?
実験室を一周回って、何かしら食料が無いかを物色する。と、希望がさしたのは準備室の一角でのことだった。美稲が持ってきたのか知らないが、炊飯器と米と、簡易冷蔵庫の中に味噌がある。これはしたり、僕は早速適当に米を研いで、炊飯器をセットした。米は今度補充するから、許せ美稲。
さて、後は飯の炊けるのを待つだけである。いやしかし待て、これだと、僕の昼食は味噌と白米オンリーになるのでは。
それはまずい、ていうか嫌だ。背に腹は代えられないが、同時に、腹は米と味噌では満たされないのだ。ラップなどの小道具が見つからないため、この場合純粋に、おにぎりの形にすることもできず味噌ご飯が昼食となる。くそ、打開策を見つけねば。
準備室に見切りをつけて、僕は再度実験室を回る。ここにきて一筋の光がさしたのは部室の隅、普段授業用の薬品などを保管している冷蔵庫の中だった。
生野菜が、鎮座していた。塩と共に。胡椒と共に。突っ込みどころが違うのをあえて承知の上で言わせてもらうけど、塩と胡椒は冷やすものじゃないと思う。
キャベツに人参、玉ねぎの三種を獲得。RPGの主人公にでもなった気分だった。あるよね、人の家のつぼとか棚から勝手に道具持ち出していくやつ。
僕の脳裏にレシピが浮かんだ。これで、もうこちらの勝利は決まったようなものだった。敵は空腹魔神シナプス。シナプスは眠りの神だった気がしなくもない。
ご飯が炊けるまでの間を使って、寄せ集めの工具でとある発明を完成させる。その名も、「セルフ炒飯」。名称に君、さん等をつけるのは成果を出してからだ。
出来上がった白米をぶちこんで、後から適量の材料を突っ込む。スイッチ一つで装置は稼動し、ものの三分で、胡椒の香ばしい香りが漂ってきた。成功、だ。
「ふふ、ふふふふふふ……っ」
なんだか今日は気分がいい。自分でも変態的だと知りながら、笑いが止まらなかった。出来上がった炒飯を紙皿によそい、一気にかきこむ。…………。
即席炒飯は、酷く鉄くさかった。「セルフ炒飯」は敬称もつかずにお蔵入りするようだ。
なんていうか、一気に気分が覚めるようだった。妙に水気の多い炒飯は、僕の気分に関わらずまだまだ湯気を立ち昇らせていた。
反省、猛省。こう言う日は、大人しく帰りましょう。
後日準備室から美稲の持ちこんでいた料理酒(名前だけ。中身はアルコール度数九十パーセント超のウイスキー)が見つかったのは、別の話。
ね、ネタ切れなんかじゃないんだからねっ。というのも嘘八百で、なんというか、繋ぎの回です。明音さんのデート回に繋ぐには早すぎたかなぁなんて。
このクオリティならそのままデート回にした方が些かマシだったかな……(笑)
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