表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/163

怒号。再雷。

なんだか今回もR15くさいです。申し訳ありませんが、その類の描写が苦手な方はバックを押してください。


一応弁解しておきますと、個人差はあれど、きっとそんな大した描写力じゃないと思います。

よく晴れた夏の日だというのに、路地裏はいやに暗い。背の高いビルの間の細い道なのだから薄暗いのは当然だが、だからこそ、そこには滅多に人通りがなく、そして、恫喝等の犯罪に使われることが多いのだ。人目の無い場所というのは、どんな場合でも、人々に危なげな印象を与える。

危なげな印象があるということは、当然、その危なげなこと……犯罪を行う影もあるわけで。

「離してってばっ、やだ、触んなっ!」

「るっせぇ、抵抗すんなっ」

力ずくで右腕を掴んでくる三人の内の一人を、緑は空いた左手を振り回すようにして殴りつける。適当に振った手の甲が運よく男の頬を打って、一瞬だが殴られた男の手が緩む。隙をついて、彼女は転がるようにして路地裏の出口を目指す。しかし、相手は三人。すぐさま違う一人に髪を引かれ、緑は痛みに呻いた。

「いっ」

「ふん、余計なことしてっと怪我するぜ。俺たちは別に怪我させるのが目的なんじゃあねぇんだからよぉ」

「そうそう、汚すだけだって」

「違いねぇ」

ぎゃはは、と下卑た笑いを上げる男たちを、緑は嫌悪感丸出しに睨みつける。劣勢の少女の視線如き彼らに通じるはずもなく、男たちは心底楽しそうに緑に歩み寄る。

「はん、にしてもよぉ、アイツ、毎度質の良い女連れてるよな」

髪を掴まれて身動きの取れない緑の顎を掴んで、男の一人が品定めするような無遠慮な目で緑の顔を覗き込んだ。無抵抗に、しかし目だけは強く相手を睨みつつ、緑は逃げる手段を考えるべく思考を巡らせた。目の前の、腰のチェーンをじゃらじゃらと鳴らす男の言う「アイツ」とは、おそらくだが顕正の事だろう。とすれば、顕正は少なくともこの三人組と以前に遭遇していることになるのだが、普段なら嫉妬した風におどけて見せる緑も、現状では無反応を決め込むことにした。何かしら反応を返しても、このタイプの連中を余計に喜ばせるだけだ。相手を睨んだまま表情を変えないように努め、ついでに一言たりとも喋ってやるかと、口を結ぶ。その様子すら楽しむように、男たちはまた笑った。

ここに連れてこられてから、もう十分は経つだろう。顕正がいなくなった時を見計らうように現れて、彼らは緑を叫ぶ暇すら与えずに連れ去った。その周到さから、わざわざ顕正の連れたる自分を狙っての行動であることを悟る。

(とすれば、こいつらの狙いは顕正くん……?)

これは安易に携帯を使うこともできないな、と、緑は唇をかんだ。成す術なし、これでは男たちの好き放題に弄ばれるだけである。

「安心しろよ。ぐっちゃぐちゃに汚して壊す予定だが、殺しはしないからよ。最後にはアイツんとこに返してやらぁ。俺らの目的は復讐だからな」

言って、ついに連中の一人、金髪に黒っぽい石のピアスをしている男が、緑の胸元に手を伸ばしてきた。反射的に身が竦むが、避けることもままならない。わずかに身じろぎしただけで、狙いが逸れることも無く緑の胸部は男の無骨な手に包まれる。不快さに眉をひそめ、こらえきれずに緑は悪態をついた。

「馬鹿っ、触んな気持ち悪いっ!!」

揉むようにして動く手から逃れようと必死に上半身を捩るが、抵抗むなしく、だらしなく髪を伸ばしたロングヘアーの男に肩を思い切り押さえられて動けなくなる。畜生、と、緑は音に乗せずにつぶやいた。悔しい。こんな奴らに好き勝手いじりまわされているのが悔しい。そろそろ心配し始めているであろう顕正に迷惑をかけていることが悔しい。きっと彼は自分を探すだろう。そして、顕正の事だ、何らかの方法で、あっさりとこの場所を割り出すだろう。そしたら、自分は彼を殴るための人質にされる。それも、悔しい。表情を変えてはいけないと分かっているのに、悔しくて、怖くて、気持ち悪くて、涙が浮かぶのを止めることが出来なかった。ぽろぽろと頬を伝う涙を見て、男たちの唇の端が嫌みにつりあがったのが分かる。

「泣いてんなよ、どうせ逃げれねぇんだ。諦めてキモチヨクなろうぜ、ははっ」

「や、めてっ、てば!」

シャツをまくりあげられているのが分かって、緑はさらに身を固くした。素肌に男の手が触れて、身震いする。駄目だな、と、滲む視界の中で思った。



僕は褒められるべきだと、心の底からそう思う。すぅちゃんから得た情報通りの場所で、最悪の予想通りに襲われている緑を見つけ、それでも、「すったぁんがん」を片手に無策に飛び出していくのを自制したのだ。今出て行っても彼女を人質にとられるだけだ。そのくらいは、熱くなった脳でも考えられる。

状況を観察すると、どうやら犯人は以前完璧にぶっ倒した三人組だということが分かった。なるほど、復讐かと得心する。


くだらねぇ。そんな理由のために、僕の大切な仲間を怖い目に、嫌な目に合わせてるってのか?


路地裏に入って、ばれないように遠くの角から目を向けているのに、男たちに好き勝手触れられている緑の眼に涙が光っているのを確認できた。頭に血が上る。駄目だ、落ち着け。まだ出て行っちゃだめだ、策が無い。

「すったぁんがん」ではまず駄目だ。距離があるし、人質がいるので近づく前に気付かれて一巻の終わりだろう。手持ちの防犯グッズを思い浮かべる。常々こんな事態に備えているはずが勿論無く、結局僕は、ある意味最悪の判断をするに至ってしまった。「すったぁんがん」を左手に、相手が僕を発見できるよう、角から出る。

緑の肩を押さえているロンゲ野郎が、最初にこちらに気付いて他の二人に声をかけたようだった。緑を汚す手を止め、嫌らしい笑みを浮かべて僕に彼女の姿が視認できるよう、金髪ピアスがその細い身体を抱える。服装がはだけ、どこか朦朧とした目つきで、緑はぐったりと野郎に身を預けている。

彼女の眼がゆっくりと僕に向き、急に沈痛な色を帯びた。きっと、僕に迷惑をかけていることを悔いているのだろう。自分が人質になっているせいで僕が無抵抗に殴られることになるだろうことを、悲しんでいるのだろう。君の優しさだ、分かるよ、緑。ありがとう。

だから。僕は躊躇うことを捨てた。

「おい、この女、分かんだろ? 表歩けねぇような姿にされたくなかったら、大人しくそれを捨てろ」

チェーンの男が僕の左手を指して言った。当然、そう来ることは分かっていたのであっさりと、僕は「すったぁんがん」を男たちの側に放る。さて、ここからは若干賭けの要素が入るが、どうだ?

「前はこれでひでぇ目にあわされてっからな。てめぇもこれで――――」

チェーンの男が僕の放った「すったぁんがん」に手を伸ばし、触れ、その瞬間。

「ぐぁっ!?」

「すったぁんがん」は音を立てて爆発した。爆発とは言え火を放つものではなくただの漏電なので、気絶しこそすれ、まあ、傷はつかないだろう。僕の最後の恩情だ、ありがたく思えよ。

「なっ!?」

「てっめぇ!」

残った二人がそれぞれ反応し、しかし、それだけ隙があれば僕には十分だった。ポケットから「キーエア・ガン」くんを取り出して、その発射口を緑を抱える金髪ピアスに向けた。躊躇なく、撃つ。

乾いた音がして、男が倒れる音がした。緑の身体が、男から離れた地面に落ちる。慌てたロンゲ野郎がこの期に及んで緑を人質にしようと動きかけ、

「動くんじゃないよ」

低く作った僕の声に制され、その動きを止めた。ゴメン、ここは『動いたら撃つ』が相場なんだろうけど、死なないからいいよね。

パンッと、先刻と全く同じ音。そして、人間が倒れる音が後に続く。

自宅の鍵でもある「キーエア・ガン」くんを右ポケットにしまいなおして、僕はアスファルトに転がった緑に歩み寄った。安堵からか、後を引く恐怖からかは分からないがしゃくりあげ、動かない彼女を抱き起こしてやった僕の首に彼女の腕が回される。

声を押し殺して無く彼女の髪を、幼子をあやすように僕は撫でた。

この作品を書きはじめて初の三人称が出てきました。ううむ、未熟ですね。一人称が上手いとも言いきれませんが(笑)

毎度の危機も乗り越え、緑とのデート編は次回で終わりになる予定です。


顕正、実はチート並に強いですよね……。


それでは、感想評価等頂けると幸いです。……内容が内容だったので、今回は特に批判も甘んじて受け入れます(汗

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ