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萌ゆる。純異性交遊。

研究部の面々は皆一様に変人揃いだと思っていたのだが、いや、事実全員中々にぶっ飛んだ思考行動の持ち主なのだが、僕のその認識は少しだけ間違っていたようだ。少なくとも、現在デート中、こうして普通にウィンドウショッピングを楽しんでいる様子の緑は、どの角度から見ても正常な、どこにでもいる女の子にしか見えなかった。まあ、どこにもいないような異常な女の子とデートなんてしたくないけど。ていうか出会いたくもない。触覚とか生やしてたりしてね。

面白みのないジョークはそのくらいにして、年不相応に、小さな子みたいにはしゃぎまわる緑に目を移す。商店街をただひたすらに練り歩いているだけなのに、その姿はとても楽しそうに見えた。僕なんかと歩いているだけで楽しんでもらえるってのなら、光栄だ。

「顕正くん顕正くんっ」

弾んだ声に呼ばれて、僕は先を行く彼女に歩み寄った。ペットショップのガラス越しに、こちらを向く犬がいた。半目で、眠そうというか、気だるそうだ。

「なんかこの子、三笠先輩に似てますよね」

「あー、なるほど、分かるかも」

緑の言葉に僕も同調する。同調して、思わず噴き出した。気だるそうに、道行く人間を見つめている犬は、なんだか、明音さんに似た雰囲気を持っていた。だるそうに僕に暴言を吐くとき、彼女はこんな目をしているのだ。「失礼ね、剥ぐわよ」とか何とか言いだしそうで、余計に笑いがこみ上げる。

まあ、本人に「犬に似てる」なんてことを言ったら、本当に剥がれそうだけど。皮膚とか。

「顕正くん、あれ」

いつの間にやら移動していた緑の指差す方向に目を向けると、今度は、なんだろう、妙に洒落た木箱が並ぶ店があった。看板を探して、把握する。オルゴール店らしい。

「へぇ。洒落たものもあったものだね」

単に僕が疎いだけかもしれないが、オルゴールというともっと角ばった形をしているものを思い浮かべるのだけど、その店に並んでいるものは角の丸い立方体や土台に乗った球体等で、中々珍しい光景を広げていた。うん、面白いかもしれない。

「緑、折角だから買ってこうか?」

僕が提案すると、緑は「えっ」と跳ねるような声を出し、

「いいの?」

意外そうに眼を丸くして言った。失礼な、僕にだって芸術を好む心くらいはある。

「あ、いや、そういう意味じゃなくって……。ええと、うん、買いたいです」

「おっけー。どんなのがいいかな」

色よい返事に僕が店内を物色しだすと、緑がたたっ、と僕の隣に並んできて、店の入り口をすぐ右に曲がったところにあった、球体の底を潰した形の、手のひらサイズのオルゴールを指して言った。

「これ、これにしよ、顕正くん」

やたら弾んだ声音で言う緑の選択を拒む理由は何処にも無く、彼女が「おそろいにしましょう、ほら、デート記念っ」というのを聞き入れ、同形の物を二つ、レジに持っていった。

「はい、緑」

買ったばかりのそれを、緑に手渡す。財布を取り出そうとしていた彼女は首を傾げて、また「いいの?」と問うてきた。全く、僕はどれだけ狭量な男だと思われてるんだかね。

「いいんだよ、デート記念なんだろ?」

「……うんっ」

一瞬、今度は逆側に首を傾げた緑だったが、僕の言葉を理解したのか嬉しそうに頬を染めて、大きくうなずいた。喜んでもらえたようで何より。



気付けば昼時を過ぎていて、僕たちは適当なカフェに入ると軽く昼食をとった。ウィンドウショッピングにもそろそろ飽きたころだし、結局僕の頭は今後の計画を立てることに失敗していたし、芸がなくてあまり気は進まなかったが、ゲームセンターに立ち寄ることを提案してみた。

てっきり怒られるかと思ったが緑は「やっぱ計画立てて無かったんじゃん」と少し笑っただけで、すんなり僕の提案を飲んでくれた。結構に上機嫌なようで、僕としても重畳だ。

向かった先は、やっぱり以前美稲と訪れたショッピングモールのゲームセンターだった。適当に中を歩き回り、これも以前、改造したUFOキャッチャーで、適当に見つくろったぬいぐるみを獲って彼女にプレゼントしてみたりして、時間をつぶす。

「あ、顕正くん、あれやろうよ」

「ん?」

緑の視線を追って先を見遣ると、そこにはどこのゲームセンターにも必ずと言っていいほど鎮座しているあれ、エアーホッケー。隣で顕正くんには負けようが無いよねなんてほざいている彼女に悟られないように僕はにやりと笑い、筺体に向かう。硬貨を二枚投入し、どうやら先手は緑の方らしかった。

僕を嘗めたことを後悔させてやる。

「そりゃっ」

緑が打った打球が壁を経由して僕の所にたどり着くまでのほんの数瞬で、僕は打球の道筋と角度、そして彼女の視線を計算する。そこっ!

カンッと音が響き、僕の打ち返した打球は緑の手に阻まれること無くあっさりゴールに吸い込まれていった。今度は彼女に見せつけるように、口元を歪める。

「残念だったね、緑。僕を嘗めた君が悪い。後悔を抱いて朽ち果てるがいい!」

「くっ……」

なんだか安いバトル漫画的なノリになってきたが気にせずゲーム続行。呆気ないもので、僕のちょっとしたミスがあったものの、試合展開はこちらに一方的なものになって、七点マッチの六対二。後一打決めれば僕の勝利である。

「うー、顕正くん、ちょっとは手加減してよ……」

眉をひそめて不機嫌そうに不平をこぼす緑。なんだか嗜虐心を煽られて、僕は凄絶な笑みを浮かべた。いいだろう、完膚なきまでにイジメ倒してやる。

「ほっ」

緑が打った打球は、しかし今までのように僕の手に弾かれることはなく、あっさりとこちら側のゴールに吸い込まれていった。緑があれっ? と声を出す。

「あはは、ラッキー。何やってんの顕正くん」

少し笑顔を取り戻した彼女の顔がまた不快に歪むまで、数秒とかからなかった。

「ねぇ、わざとでしょ?」

「なんのことかなー?」

見え見えの白を切る。スコアは簡単に詰まり、六対六。途中僕の(滅茶苦茶わざとらしい)オウンゴールがあったりで、このスコアだ。相手にされてないことに怒りを感じてか目にうっすらと涙さえ浮かべる彼女を見て、僕はなんとも可笑しな気分になる。なんていうか、この子の拗ね顔は見てると嗜虐心を煽られる。

「さて、あと一点で終わりだよ」

とぼけた声を出しながら適当な所作でパックを打った。むぅ、と眉をひそめたままの緑がそれを打ち返してくる。このままわざと空振りでもして負けてもよかったのだが、そうは問屋が卸さない。一度返ってきたパックを受け止め、僕は宣言した。

「さて、わざと負けるのにも飽きてきたし、そろそろ勝とうかな」

「なっ!」

かぁ、と顔を赤くする緑。うん、怒ってる怒ってる。そりゃあそうだが。客観的に見てみると、僕はかなり大人げない奴だった。

「ほら、止めてみなっと」

小気味良い音がして、僕の打った打球は完璧なルートで緑の死角を突いた。はずだった。吸い込まれていくはずのパックが消えた瞬間、僕の眼が捕えたのはにやりと笑う、僕じゃない、緑。

「え?」

カコン、と。情けない音とともにゲーム終了の陳腐なメロディが鳴った。結果は、六対七で。

緑の勝ち? は?

呆然と対角にいる彼女を見ると、緑は笑いを噛み殺したような表情で僕を眺めていた。

「あははっ、言ったでしょ、顕正くんには負けようがないってっ」

とっとっと、と三歩でこちら側に駆け寄ってきて、緑は僕の眼の前にピースサインを突き出した。

「あたしの勝ちだねっ」

「……くぅ」

遊ばれていたのはこっちだったってことか。くそ、緑、やっぱり研究部メンバーだよ。

悔しげな僕の顔を見て満足したのか、緑はにんまりと悪そうな笑みを浮かべていた。

「ちょっとジュースでも買ってくるよ。敗者は敗者らしくね」

自虐気味にそう言って、僕はゲームセンターの入り口まで出て行った。行き際に緑が笑顔で手を振っていたのが妙に腹正しかった。


そして、それより、ここで彼女を一人にした僕は、後々考えてみると本当に愚かで、腹正しかった。

一度起こったことが二度起こらないなんて、誰が決めたよ?

いうまでも無くデート中の描写です、はい。特に注釈も無いのでこの辺で。


それでは、感想評価等頂けると幸いです。

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