表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢物語  作者: 東雲野乃
【1】 あなたが望んだ悪役令嬢
9/33

【1-2】一度目のメロディ・バベット・プレオベール:7


 牢に来た騎士はそれなりの地位にいたらしく、そう時間を置かずに私の元には毛布と食事が届けられた。

 それらを持って来たのは兵士で、例の騎士ではなかったので、名前を聞きそびれた私は少なからず落胆した。


 だが、真面目そうな彼のことだから、再調査の結果を報告に来るはずだし、その時に名前を聞こう。

 私はそう思っていたし、その時点では絶望すらしていなかった。むしろ、潔白は必ず証明されるし、真犯人もほどなく見つかるとさえ思っていた。


 * * *


 結論から言うと、私の潔白は証明されなかった。真犯人も見つからなかった。再調査の結果も聞くことはなかった。


 騎士と話した翌日、私は国王陛下とジェラルド、ナタリアーナ、そして父が揃った広間に引きずり出され、騎士に――あの黒髪の騎士を除いた騎士達に囲まれた状態で、そして粗末な格好のまま膝を着かされた。


「メル……」

「……お父さま」


 聞いたことのない父の震える声に、私が顔を上げて父を呼ぶと、父は少しだけ安堵の表情を見せ、そして眦を吊り上げ、陛下に声を上げた。私の表情で、無実を確信したに違いない。


「陛下。私の娘が暗殺など、企むはずがありません。娘はここ最近貧民街(スラム)に広がっている病の治療法を見つけようと、時間がある限り研究に奔走しておりました。プレオベール家の過去の功績を僅かでも認めて下さっているのなら、再度の調査を……」


 父はまだ何かを言っていたが、私は硬直した。

 何故父が、ここで再調査の要望を出すのだろうか。既に再調査は始まっているはずで、それはこの場にいるジェラルドは勿論、陛下も知っているはず。


 私の証言は握り潰され、再調査などされていないのだろうか。

 それはないだろう。勘だが、あの騎士はそのようなことをするはずがない人物だと思う。

 であれば、父には全てを伏せた状態でここに呼ばれ、私は『死刑を待つ大罪人』として扱われているということだ。


 何故? と考えて、父の進言を黙って聞いている、陛下とジェラルド、そしてナタリアーナを見た。

 そして察した。

 この暗殺事件は、ナタリアーナとジェラルドが企てたものであり、陛下までもがグルだった。その目的は。


「――お父さま!!」


 私は立ち上がり、父を止めるべく歩を踏み出した。

 私の傍にいた騎士が制止の声を上げたが、聞かずに駆け出す。

 父が驚いてこちらを向き、それから私に向かって手を伸ばすのが見え、それを何故だろうと思う暇もなく、背後から胸の中心を貫かれた。

 剣で。


「あっ……」


 何が起きたのか分からないまま足を止めて、膝を着く。片手を胸元にやると、掌は赤い液体で真っ赤になった。

 それを見てから顔を上げると、その場にいた全員が私を見ている。呆然とした表情で。


 真っ先に我に返ったのは父で、発狂したような声を上げると懐からナイフを取り出し、陛下に躍り掛かる。そして、次の瞬間には陛下を護衛する騎士に首を飛ばされた。


「お父……」


 最後まで言えずに冷たい床に倒れ込むと、扉が開く音がして、私に駆け寄る足音、そして怒りの混じった声が聞こえた。

 あの騎士だ。


「……なんて事を……ジェラルド、貴様……!」


 最後に思ったのは、えらくジェラルドを気安く呼ぶのね、という益体のない疑問だった。


 * * *


 雪の中、冬にしか咲かない花を摘んでいると、鉄門の格子の向こうに子供が佇んでいるのを発見する。

 ボロボロの服だが、大層可愛らしい顔立ちの女の子で、白い肌に頬の赤みは、化粧を施された頬紅のように綺麗だ。


 私をじっと見つめている彼女に、私はゆっくりと歩み寄って微笑む。


「私はメロディ。あなたは?」

「……ナタリアーナ。母さまは『ニナ』って呼ぶわ」


 歯の根が合わない震える声で、白い吐息と共にナタリアーナは答える。


「そう。……こちらにいらっしゃい、ニナ。そこは寒いでしょう」


 私がそう言うと、ナタリアーナはただ頷いた。

 その様にまた微笑んで、私は声にならない声でナタリアーナに語り掛ける。



 許さない。

 あなたもジェラルドも、国王すら許さない。


 幸せな記憶だけ抱いて逝けたなら、どれだけ良かっただろう。

 だがあなたのせいで、私の死は苦痛と屈辱、怨嗟に塗れたものになった。

 呪いのようなそれらを抱えたままこの世に戻り、安穏と生きられる訳がない。


 だから私は、あなたが描いた『悪』そのものになってあげる。

 御伽噺の主人公のように、幸福が約束された令嬢があなたなら、私はその対極に位置する悪役。


 私は、あなたが望んだ悪役令嬢。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ