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悪役令嬢物語  作者: 東雲野乃
【3:後半】囚われの悪女を、王子様が攫ってくれました。(中編)
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【3-20】黒と白と赤:4

 予想していたことだけれど、エドゥアルト様は声を上げた。

 当然だろう。「あなたが受けた被害は虚言だ」と言ったも同然なのだから。

 ただし、エドゥアルト様は激昂するというよりは、私を諭す方向で言葉を紡ぐ。


「アマリア、何を言ってるんだ。自分が何を言っているのか、分かっているのか?」

「ええ、分かっています」

 私が平然と返すと、エドゥアルト様の方が戸惑いを見せる。

 怒りを見せても許される場だろうに、不自然なことだ。


 その不自然さが意味することに苦笑し、私は窓の外に視線をやった。

 春を前にしても未だ冷えた空気が支配する外の世界。それを俯瞰して、冷静さを保つ為に。


 そんな私のふざけた態度を目の当たりにしても尚、エドゥアルト様は優しく言い募る。やわらかな笑みさえ浮かべて。

「アマリア。君に罪悪感を抱かせたい訳じゃない。けれど、君の中にある正義と慈悲に問いたい。君は、私が受けた虐待とも言える扱いを、カルツが国をあげてついた嘘だと言うのかい?」

「ええ」

 頷く。

 間髪入れないその速さに、エドゥアルト様が一瞬言葉を詰まらせた。

 それでも、続けた。


「私の父であるカルツの王が目の当たりにした惨状は、でっち上げだと?」

「ええ」

「カルツがドゥンテルに攻め入った原因が、実際はなかったと?」

「ええ」

「君のお父上も認めた所業が、偽りだったと?」


 父に言及されると、私はエドゥアルト様に視線を戻して、返した。

「――認めるしかないでしょう」

「なに?」

「認める以外に、何が出来たと言うのです? 私の父がどういう状況だったかは、お伝えしましたよね」


 私はゆっくりと言い、エドゥアルト様に思い出させる。

 のみならず、繰り返す。

「母が亡くなってから徐々に体調を崩し、最終的にはベッドで寝ていることしか出来なくなり、政は全て宰相に一任するしかなくなった。もうお忘れになりましたか」

「………………」


 私の硬い声に押されたように、エドゥアルト様は口を閉じた。

 一国の王として相応しいことかどうかはさておき、全ては私(・)の(・)父(・)の(・)目(・)の(・)届(・)か(・)な(・)い(・)場(・)所(・)で(・)起(・)き(・)た(・)。――これが事実だ。


 エドゥアルト様がドゥンテルにいた間、父に会ったとは思えない。

 同盟を結んだばかりで、信頼を築く段階である相手国の王族に、弱味を見せることは出来なかっただろう。

 しかし父の性格上、エドゥアルト様について無頓着だったはずがない。


 だが、自身の目で確かめられない以上、誰かに問うしかない。

 ――「カルツの王子は丁重に扱われている」と言われたら、それでお終いだ。

 エドゥアルト様がカルツに帰ってから、カルツから「王子は虐待を受けていた」と言われれば、認めるしかない。

 ――自分の配慮が足りなかったと思うだろう、父なら。


「よもや、同(・)盟(・)国(・)の(・)王(・)が(・)嘘(・)を(・)つ(・)く(・)と(・)は(・)思(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。ましてや、信(・)頼(・)し(・)て(・)い(・)た(・)家(・)臣(・)ま(・)で(・)も(・)が(・)嘘(・)を(・)つ(・)く(・)とは」

「家臣?」

 エドゥアルト様が眉を顰めたので、頷いた。

「ええ。父が全信頼を置いていた宰相です。……そういえば」


 今初めて思い出した、という風情で私が小首を傾げると、何かを察したらしいエドゥアルト様が、一瞬だけ肩をびくりと動かした。

「宰相の娘はどうなったんでしょう? 私の身代わりにカルツへ行き、私のふりをして贅の限りを尽くしたという、宰相の娘です」

「そ、それは……」


 私が悪女と言われている所以は、宰相の娘のカルツでの振る舞いも原因だ。

 しかしカルツに彼女がいた頃、私がドゥンテルにいたことはエドゥアルト様が誰よりも知っており、これ以上ない強固な証人でもある。

 であれば、カルツにとって宰相の娘は、国を欺いた詐欺師であり、同盟国による裏切りの象徴である。


 私がブレネントルカと共にカルツの城を去ってから、かなりの期間が経っている。

 その間に、宰相と宰相の娘を放置しておくなど、余程の事情がない限り有り得ない。

 最低でも、かの親子を拘束して牢に入れるくらいはするだろう。国の威信の問題だから、甘い対応をするはずがない。


 しかし、エドゥアルト様は私の疑問に対して口ごもり、ちらりと私の背後に視線をやった。

 ブレネントルカが佇んでいる辺りに。


 私にならどうとでも言える。だが、ブレネントルカは違う。

 ドゥンテルに攻め入り、私の父を連れ去ったブレネントルカがどこまで知っているか。

 それが分からないからこそ、下手なことは言えないのだ。


 エドゥアルト様が言葉を詰まらせている隙に、私は声を差し込んだ。

「もう一つありましたね」

「……?」

 瞬きをするエドゥアルト様に、私は微笑んだ。

 あまりの馬鹿々々しさに、笑うしかないのだ。


「カルツでの滞在中、私の名を名乗る娘が好き放題に振舞ったという話。これも、私の父自らが確認出来なかった『事実』です。――エドゥアルト様が受けた仕打ち同様に」


 

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