おかえりなさい・おやすみなさい
『英国大使館の悪魔事件 前編』はここで完と成ります。
次回からは一旦、現代編の章と成ります。
『英国大使館の悪魔事件 後編』はその後と成りますが、引き続きお楽しみください。
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よろしくお願いします。
結局あの後、他の部屋の調査のお手伝いや、昨日の調書の様なものを取られたりもしたけれど、今日は何とか夕方にはお屋敷に帰ることが出来た。
お陰で、この三が日で初めて、家族そろって夕食で御節を食べたり、お雑煮を頂いたりできたわ。
その後は、道彦を膝に置いて家族で、かるたとか、双六とかお正月らしい遊びをして、お部屋に戻ってきた。
勿論、お嬢様モードはOFF。
「もう九時か……遅いけれど、少しでもお札を補充しないとね」
2200枚あったお札は、梨咲ちゃんの救出と、公使とのバトルであと200枚。
厳密には、除夜の鐘を聴きながら描いた一枚もあるから201枚だけど、これでは、いざという時足りないわね。
一応、千匹猫の術は、お札が千枚無くても使えるけれど、お札の枚数分の猫しか召喚出来ないわ。
200匹程度だと、辛うじて小さな魔法陣の形を維持できるくらいで、とてもまともには戦えないわ。
あの術は基本的に贄に成る猫も必要だから、魔法陣の形を維持するだけでは魔法を放てないもの。
上村さんの話だと、大使や英国側は今回の事件は、全て公使がやった事と云う事で幕引きしたがっていると云う話よ。
上村さん曰く「只でも痛い腹を、これ以上探られたく無いのでしょう」とのこと。
それでも、今回の事件を非公表にすることを条件に、調査の継続と協力を取り付けたのは、さすが上村さんだわ。
とにかく、捜査が進展して、何時どんな風に事態が動くか分からない以上、少しでも準備は進めておかないと。
白紙のお札と羽ペンを取り出して、魔法陣を書き書き。
それにしても……、正月に呼び出されて、遅くまでお仕事して、命を懸けたバトルまでして、家でもこうしてお仕事……全く、何処のブラック企業よ!
ふーう、何枚ぐらい書いたのかしら?
ひい、ふう、みい……十九枚だわ。
と言う事は、全部で220枚ね。
まあ、今日は疲れたし、このぐらいにしておくとしましょう。
ヒューーと隙間風。
あれ?寒いわ。
屋敷は隙間風が入ってくる程、建付けが悪い訳じゃ無いハズだけど……。
ああ、そう言えば昨日は色々有り過ぎて気付かなかったけど、一昨日の夜、ウルタールが入って来れる様に窓を少し開けていたのを思い出したわ。
窓に近づいて閉めようとしたその時、何か黒い影がスッと入ってきたわ!
「えっ何かしら!?ウ、ウルタール!!」
「にゃー!」と私の胸に甘える様に飛び込んでくる。
間違いないわウルタールよ!
「おかえりなさい、ウルタール♪」
本当に良かったわ。
「それにしても、今まで何処にいたの?探したのよ」
「にゃー」と甘える声を上げて、私の額に自分の額を合わせてくる。
一瞬その額同士が触れた瞬間、ウルタールの見た物、感じたものが私の頭に流れ込む。
私は二つの世界の狭間に居る。
一つは、林が見えるわ。
多分、明治神宮の林の有る現世の世界。
もう一つは、光に溢れた空間が見えるわ。
確信は無いけれど、多分、神域でもある明治神宮と繋がる、幽世の世界かしら。
ウルタールは、何とかこの狭間の空間に留まることが出来たのだわ。
そして、明治神宮の神域として持つエネルギーと、幽世の世界から漏れる僅かなエネルギーを体内に吸収して、手繰る様に現世の世界に戻ってこれたのね。
使い魔が狭間の世界に留まって、現世に戻ってきたなんて話は聞いたこと無いわ……。
ウルタールに何でそのんな事が出来たのかは分からないけれど……本当に良かったわ。
「ウルタール帰ってきてくれてありがとう♪」
「にゃー♪」
ウルタールを抱きしめてベットへダイブ。
「今日はお札に戻っちゃだめよ!一緒に寝るんだからね♪」
「にゃー♪」
あっそうだ、寝る前にもう一つ確認しとかなくちゃ。
「ウルタール、もう一つ見せて欲しい物が有るの。書庫で、公使の身に何が起こったのか見せて頂戴」
「にゃー」
もう一度、額を合わせる。
感覚が同化していく。
ぼんやり見えてきた。
公使の後ろ姿だわ。
公使は人気が無いかを確認している素振で、書庫に入っていく。
公使の足元をすり抜ける様に忍び込む。
「全く!面倒な事を!ここは昨日調べられた後だから安全なハズだった!あいつめ余計な事を!」
公使は独り言をぼやきながら奥へ進む。
「しかし、どうする。またあれを俺の部屋に戻すのか……。仕方あるまい……もしもの時はあいつに返すしかあるまい。全く癪に障る話だ!」
そして、一番奥の書棚の前に立つ。
その書棚はの下部は引き戸に成っていて、その引き戸を開ける。
何か色々物が詰まっている様に見えるわ。
「くそ!暗くて良く見えん!」
外は昼間だけど、その書棚は奥まった所に在って、日当たりも悪く薄暗い。
公使は懐から何かを取り出した。
チンッ!シュボ!
ジッポライターだわ……なんか悪い予感しかし無いわ……。
「おかしい、このあたりに隠したはずだ!どこだ!ん!?この布だ、有った!」
何か布に包まれた物を手に取ったわ。
あの布には見覚えがある!
手に取ったものから、あの見覚えのある魔力があふれ出し、公使の掴んだ右腕に絡みつく。
「なっ!なっ!何だ!」
右手の血管が太く浮き上がり変形していく。
「ばっ、馬鹿な!この布越しなら大丈夫なハズじゃ無かったのか!グ、グワァーーーー!」
公使は叫び声を上げながら、暴れまわる。
書棚の一つが倒れ、その上にジッポライターが……。
やっぱりこうなったか……まあ、分かってたけどね。
そしてそのまま、公使の体は変異していき、見覚えのある姿に。
成るほど、やはりあの木像が、公使をあの姿に変えた原因なのは間違いないわね。
それと、一つ分かった事は、公使は誰かに嵌められた可能性が高いと云う事。
あの時、上村さんから受け取った、あの木像を包んでいた布は只の布だったわ。
恐らくだけど、本来はあの木像の力を封印する様な力を持つ布が、巻かれていたんじゃないかしら。
それと、公使は気になることを言っていたわ。
書庫に入ってぼやきながら「あいつ」という言葉を二度言ってたけれど、前者のあいつは参事官の事ね。
余計な事を私たちにチクった事のボヤキ。
でも、後者のあいつとは誰かしら?
「もしもの時はあいつに返すしかあるまい」とか言ってたけれど、返すと云う事は、本来はあの木像は公使の物ではなく、そのあいつの物と言う事だわ。
そのあいつとは誰か……やっぱり一番怪しいのはあのフードの男だわ。
そうすると、カラスの使い魔を使って木像を奪った人物も、フードの男の可能性が高いわね。
どうゆう人間関係かは分からないけれど、公使に取り上げられた木像を取り返す為に公使を嵌めた、と考えるのが自然だわ。
大使館の何処か……若しくは大使館の敷地の外かも知れないけど、何処かに潜んで使い魔を放つチャンスを待っていたのね。
まあ、今推理出来ることはここまでかしら。
さすがに疲れたし、眠いわ。
そろそろ寝ましょう。
「ウルタール、有難う。そろそろ寝ましょうか」
「にゃー」
ウルタールを抱きしめたまま布団に潜り込む。
「おやすみなさい、ウルタール」
「にゃー」
あれ?眩暈がする。
これは、いつものあれだわ。
パラレルリープで現代の世界に行く予兆。
まあ、良いタイミングかも知れないわ。
大分働かされたもの、暫く現代の世界で自堕落に骨休めさせて貰いましょう……Zzz……。
補足情報:
〇現世・幽世
現世:現在の世のこと。つまり、この世のこと。
幽世:死後の世界とか、あの世のこと。




