デパート三階 【氷の洞窟】
「仕方が有りませんわね。ともかく先に進みましょ」
一応、拾ったハサミと白のクレヨンを巾着袋に入れ、文房具売り場を離れる。
慎重に辺りの様子を伺いながら階段を探す。
また雪だるま達と遭遇なんかしたら、厄介ですもの。
何度か、サク、サクと雪だるまの近付く音をやり過ごして、どうにか階段までたどり着けた。
「やっぱりだわ」
この階段は、三階に行けそう。
でも、一階に降りる方は塞がれている。
恐らく、こうやって階段の上り下りを複雑にしているのだわ。
正に、氷の迷宮を作っている、と言う事かしら。
「ともかく、雪だるま達が来ない内に上りましょ」
そして、三階。
やはり四階への階段は閉ざされている。
ここは、確か、婦人服と紳士服売り場だった筈なのだけれど……。
「何ですの、これは……?」
一階と二階は、霜に覆われてはいたけれど、デパートの売り場の原型は留めていた。
でも、目の前にある光景は……。
「まるで、洞窟の様ですわ」
床や、壁はおろか、ショーケースを覆い尽くした氷は、そのまま天井まで延び、壁の様に成っている。
その天井も、氷で覆われているわ。
まるで洞窟の様。
確か、その津案と仰る方がこのデパートに逃げ込んだのが昨夜と言う話。
未だ、半日も経っていないのに、一階の広場を封鎖し、三階を此処まで作り変えるなんて……一体何がしたいのかしら?
他のフロアも、この様に完全に氷漬けの洞窟に作り替える積りかしら……それとも、このフロアに何か……。
「考えて居ても仕方が有りませんわ」
その氷の洞窟を進んで行く。
下の階より大分薄暗い。
一応、氷を通して、微かに灯りが差し込んでるところもあるから、まったくの暗闇では無いけれど、正直灯りが欲しい。
でも、ウィルオウィスプも召喚出来ない今は、我慢するしか有りませんわね。
サク、サク、サク……。
また雪だるまの足音。
フロアが、通路状に作り替えられてるせいで、隠れる所が少ない。
氷の壁に張り付く様に身を潜める……けれど……当然、雪だるまと目が合う。
已む無く、両手を合わせ、氷柱を飛ばし、一撃で破壊。
でも……。
サク、サク、サク……。
サク、サク、サク……。
サク、サク、サク……。
雪だるまの達が、集まって来たわ!
両手を合わせながら、氷で覆われた洞窟の通路を走って逃げる。
途中、出合頭に出くわした雪だるまは、氷柱で破壊。
どうにか、逃げおおせてはいるけれど、いつまでも、と言う分けにも行かないわ。
背後から追って来る、あのサクサクと言う足音が消えない。
と言うより、寧ろ増えてる感じがする。
通路を右に曲がると……マズイ袋小路ですわ!
と、言うより、ここは小部屋の様に成っている。
サクサクと、足音が近付いて来る。
なんとか、やり過ごせないかしら……そうだわ!
巾着袋からハサミを取り出し、その刃先で床に張った氷に魔法陣を刻む。
サク、サク、サク……。
足音が近付いて来る。
あと……もう少し……出来たわ!
すかさず、床に描き上げた魔法陣の上に乗り、右手に刀印を結んで魔力を流す。
サク、サク、サク……。
ほぼ同時に、雪だるま数体が小部屋の中に。
息を殺し微動だにぜず、小部屋に雪崩れ込んでくる雪だるま達を、ただ見下ろす。
結構な数だわ。
この雪だるま達が一斉に飛び掛かってきたら、万事休す……ですわね。
雪だるま達は、小部屋の中を何かを探す様にじっくりと見て回り、暫くすると納得したかのように出ていった。
「フゥ~、どうにかやり過ごせましたわ」
実際は短い時間だったのでしょうけれど、体感的には結構長く感じたわ。
床に描いた魔法陣は、隠身の魔法陣。
これは、術者の姿を見え無くする魔法陣よ。
と言っても、実際に姿が消えるわけでは無いわ。
気配を消し去り、存在感を極限まで無くすというモノ。
勿論お爺様に教わった魔法陣なのですけれど、実のところ教わって以来、使ったのは初めて。
何しろ、隠れなくてはいけない後ろめたい事なんて、今まで一度もしたこと有りませんもの。
でも、上手く行って良かった。
お爺様には感謝ですわね。




