西洋物産展
「梨咲さま。お体が宜しいのでしたら、明日如何かしら♪」
明日?
何の事かしら。
「そうそう実はね、こまっちゃん。明日から日本橋の網乾屋さんで西洋物産展が始まるの♪」
網乾屋さん……ああ、網乾屋百貨店の事ね。
結構最近出来たデパートですわ。
でも……。
「そう言えば、網乾屋さんて油小路家とは商売敵では無かったかしら?」
油小路家は幅広く御商売をされているわ。
勿論、百貨店の経営もなさっていて、網乾屋さんの斜向かいにも、油小路家が経営する大帝都百貨店が有る。
「こまっちゃんて、妙な事に気を使うわね。老けるわよ♪」
「大きなお世話ですわ♪」
「うふふ♪」
私と、梨咲ちゃんのやり取りを、忍ちゃんが微笑ましく見てる。
いつもの風景が戻りましたわ。
「まあ、パパが言うには、網乾屋の社長は人格的には見習う所は皆無だけど、デパートは良いお店だから、後学の為に覗かせて貰いなさいって。どうも、うちのパパは将来的に、デパート事業を私に継がせたいみたいなのよ」
「そうそう、話が逸れたわ。で、ここの所、ずっと暇そうにベッドに寝ているしかなかったから、それをパパが見かねたのね。これを戴いたのよ」
そう言って、枕元に置かれていた本を手渡してくれる。
そう言えば、お部屋に入った時に、梨咲ちゃんと忍ちゃんが見ていましたわ。
結構薄いけれど、大きくてカラー印刷の本。
この時代では珍しい。
表紙には『網乾屋百貨店 西洋物産展』とのタイトル。
物産展のパンフレットですわね。
ページを開くと、物産展で展示販売する高額商品のカラーイラストや詳細とお値段が書かれている。
「関係者とか、お得意様限定のパンフレットらしいわ。パパは当てつけに渡された、とか言ってたけれど。私は見に行けそうに無かったから、こまっちゃんとしのちゃんに行って貰って、お土産話を聞かせて貰おうかなって、お話ししてたのよ。でも、さっき戴いたリンゴのお陰で元気も出たし。どう、こまっちゃん、明日?」
「主にヨーロッパの家具やら、絵画やら、お洋服やら、色々展示されるそうですわ。それに、小町さまがお喜びに成りそうな物も♪」
「私が、ですの?」
「このページよ、こまっちゃん」
梨咲ちゃんが開いたのは、陶磁器を紹介しているページ。
マイセンやロイヤルコペンハーゲンと言った有名ブランドの陶磁器のイラストが並んでる。
ティーセットなんかも有りますわ♪
二人は、これを見せたかったのね。
「小町さま、左下の方をご覧に成って」
左下?
何かしら……あっ!
「猫ちゃんのティーセットですわ♪」
ティーカップには和風の花柄に猫ちゃんの絵。
素敵なシノワズリですわ♪
うん?
なんか見覚えが御座いますわ、このティーカップ……。
いつ、どこで、でしたかかしら?
最近、よそ様で紅茶を戴いたと言えば、現代で優弥くんのお母様に入れて頂いたダージリン。
美味しいお茶でしたけれど、カップは普通の大量生産品でしたわ。
その他で戴いたのは、玉藻堂で戴いた鉄観音。
でも、あの時は古九谷の湯呑に注がれていましたわ。
とっても、美味しいお茶では有りましたけれど……。
そう言えば、現代の玉藻堂でも、同じ湯呑でお茶を戴き……あっ!
現代の玉藻堂。
確か、アール・デコのキャビネットの中に有ったティーカップと同じ絵柄。
このパンフレットは写真ではなく、イラストで書かれた物だから、まったく同じ物かは断定できませんけれど。
今思えば、とっても危ないところだったわ。
もし、あの時、小野小町では無く、蘆屋小町でしたら、躊躇なく二十円札の売却代金で四十万円のティーカップを購入していた。
そして最悪、トゥーアサ・ジェー・ザナンの購入を諦める事に成っていたかもですわ。
でも、これは……どこかの錬金術師さんの言葉では無いけれど、あの猫ちゃんのティーカップと私の因果が繋がっていたと言うことよ♪
しかも、セットですわ。
ティーポットにシュガーポット、それに、六客あるティーカップはそれぞれ違う猫ちゃんが描かれていると、パンフレットには記載されている。
「とっても素敵ですわ♪めちゃくちゃ欲しいですわ♪」
「でしょ、でしょ。こまっちゃん♪」
でも、問題はお値段ですわね。
現代の玉藻堂では結構なお値段で売られていた。
蘆屋小町がいくらお嬢様と言っても、お小遣いには限度が有るわ。
それに、一お兄様から頂いた十円札はウルタールに、叔父様から頂いた二十円札はトゥーアサ・ジェー・ザナンに変わりましたもの。
で、おいくらかしら?
価格500円也。
「アゥ!お高いですわ……」
現代の物価だと大体250万円ほど。
さすがに、お小遣いではどうにも成りませんわ。
「ふふ♪小町さま。ティーカップだけでも売って下さるようですわよ」
「それでも、一客六十円。お母様におねだりしないとダメですわね」
「じゃあ、決まりね♪こまっちゃん、しのちゃん。久しぶりに、明日三人でお買い物よ♪」




