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ブス女ですけど転生して美少女になりましたの。ほほほ。  作者: 夢見るライオン
第三章 レイラ、貴族になる

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10、珍しい訪問客

「残念ながら今このお屋敷には絵を教えられる教師はいません。奥様が手配して下さっていますが、教師が来るのを待ってる時間的余裕はありません。しばらくはこの教本を見ながら紙でクロッキーの練習をしましょう」


 シモンヌはそう言って、鉛筆で粗く描かれた見本のクロッキーを何枚か広げた。


「ザック様が幼い頃練習していた教本です」


 そこには、さっき見たザックさんの馬の見本絵らしきものもあった。

 しなやかな曲線が美しい、とても上手なクロッキーだ。


 この見本を見て、なぜあんなしゃくれた短足馬になったのか不思議だ。


 また笑いがこぼれそうになる。

 ザックさんの絵には人を愉快な気持ちにさせる魔法がかかってるようだ。

 ある意味、すばらしい才能かもしれない。


「最終的に自分で題材を選んでキャンバス地に描いてもらいますが、まずはクロッキーで練習してみましょう」


 シモンヌは棚から画用紙と鉛筆を出して、私とネロに渡した。


「鉛筆だ……」


 私のジュラルミンケースにも濃さの違う五種類の鉛筆を入れていたが、この世界で紙に出会わなかったので使ったことはなかった。


 前世の持ちやすく改良された良質な鉛筆と違って、もっと太い木枠に四角い芯が入っている。

 鉛筆削りなんてもちろんなくて、芯の先はナイフでいびつに削られている。

 そして芯は途中までしか入ってないのか、お尻側は空洞になっていた。


「これはどうやって持つの?」


 ネロは初めて見る鉛筆をグーで握りしめていた。


「羽ペンと同じでいいのよ。ネロの小さな手には持ちづらいかしら」


 読み書きの練習はインクをつける羽ペンが主流だ。

 この太い鉛筆では手紙などは書けないからだろう。

 いや、この世界では鉛筆の方が貴重品なのかもしれない。


「見ていて、ネロ。初心者は最初に主要な部分のポジションを決めてしまうと描きやすいと思うわ。馬の顔と胴体と足としっぽと。大きな丸で位置を決めるの」


 私は太い鉛筆で薄い丸をいくつか配置して描いた。


「それからおおざっぱな輪郭を描くといいわ」


 さらさらと馬の輪郭を丸の位置に合わせて描いてみせる。


「そして細かい部分を描いて、少し陰影をつけると立体感が出てくるわね」


 馬の顔とたてがみ、しっぽを流れるように描いて斜線で陰をつけた。

この程度のクロッキーなら一分ほどで描ける。


「すごい……」


 ネロは目を輝かせて私の手元を見つめた。


「まあ、なんてことでしょう。そういえばあなたは絵師をやっていたと言ってたわね。では教師などなくても描いて教えられるわね」


 シモンヌも感心したように頷いた。


「はい。絵を写すのは得意です。この教本程度の絵なら描けます」


「それは良かったわ。では二人でここで練習して、十日以内にこのキャンバスに一枚ずつ絵を仕上げてちょうだい」

 

「分かりました」


 シモンヌはホッとしたように部屋を出て行った。


「僕も……描いてもいいの?」


 ネロは真っ白な画用紙を前に緊張しているのか手を振るわせた。


「もちろんよ。画用紙の予備もたくさんあるわ。まずは思いっきり描いてみて」


「うん!」


 ネロは震える手でゆるゆると私がさっき説明した通りに位置取りをした。

 線は震えていびつになっているが位置は正しい。


 ただやっぱり鉛筆が太すぎるのか、細かい部分がうまく描けないようだ。


「大丈夫よ。最初にしてはとても上手よ。鉛筆にもすぐに慣れるわ」


「うん」


 ネロは無心で鉛筆を走らせている。

 よほど描いてみたかったのだろう。

 いつも私が絵を描くのを見ていたからか飲み込みが早い。


 少なくとも胴長短足のしゃくれ顔の馬ではない。


 ネロが集中しているのを見て、私は椅子から立ち上がった。


「私はさっそくキャンバスに描いてみるわ。これでアルフォード様に認められたら、確実に貴族試験に合格できるもの。最高のものを描くわ」


 ただ、題材をどうするかだ。


 自然に足は窓際に向かっていた。


 窓から見える湖と森の景色。

 やっぱりこれを描くしかないだろう。


 このアトリエのような部屋は角部屋になっているようで、残念ながら湖を斜め下に見下ろす配置のようだ。構図はあまりよくない。


 別の窓からは玄関口となる外へと続く大きな門が見えていた。


 金属を蔦模様に編んだような装飾性の強い両開きの門だ。

 防犯的にはあまり役に立ってない。

 門番などもいない。


 アルフォード家の敷地内に入る前に重厚な門があるので、それぞれの屋敷にはあまりセキュリティの心配はないのかもしれない。


 それを物語るように一台の馬車が門の向こうに停まるのが見えた。


 御車が降りて自分で(かんぬき)をずらして開けている。


 そして馬車を門の中に入れると、再び自分で門を閉じた。


「誰かお客様かしら」


 この屋敷で数日過ごしているが、客らしい客は誰も来ていない。

 年老いて一人暮らしの未亡人に用のあるものなど食材を配達する下男ぐらいだ。


 だが黒に金の縁取りをした馬車は、もちろん下男が乗るものではない。

 身分の高い人の来訪を意味していた。


 そして小さな噴水の前で馬車を降りた人物に、私は唖然とした。


「あれは……」



次話タイトルは「助けてくれた恩人」です

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