4、貴族の条件
まさかのこんな所でステラおばさんに出会えるとは。
いや、私の思ってるステラおばさんとは違うかもしれないけど。
とりあえず、ステラおばさんのことは置いておいて。
いろいろ疑問に思うことがある。
「あの……どうして私達はここにいるんでしょうか?」
確かミリセント教会でネロと二人、凍えて死んだものとばかり思っていた。
「うふふ。実はある高貴な方から預けられたのよ」
ステラおばさんは分厚い手を胸の前で組んで、ふくよかな顔で微笑んだ。
「ある高貴な方とは?」
「言ってしまいたいけど、あー、言ってしまいたいのだけど、それはダメなの。口止めされてるのよ。あーでも言ってしまいたいわ」
この人の良さそうなおばさんには隠し事は無理だと思う。
そのうちポロっと言ってしまいそうだが、辛うじて今は踏みとどまったようだ。
「私はスチュアート公爵様に嫁いで四十年。とても温厚ないい方で、私のクッキーを毎日喜んで食べてくれて、それはそれは幸せな結婚生活だったの。ただ、残念なのは後継に恵まれなかったことよ。そして五年前には夫も亡くなって、一人でこの大きな屋敷に暮らしてきたの」
まったりと のどかに暮らしてきた様子がうかがえる。
「それでね、一人ぼっちの私を心配して、あなた達を養子にしてはどうかって連れて来られたのよ」
「よ、養子?! 私達を?」
それって貴族になるってこと?
そんないい話が転がってるものだろうか?
平民になるのも大変そうだったのに。
それを飛び越えて貴族になんて。
「ああ、でもあまり期待しないでね。私は公爵夫人とは言ってもすでに夫も亡くなって、夫の遺産だけを頼りに細々と暮らしている貴族なの。位だけは高いけど、お金も権力も無いに等しいわ。残念ながら良い縁談も、地位も、あなたたちに用意してあげられないだろうと思うの」
そんなもの無くても……。
暴力をふるわないで衣食住を与えてくれる人がいるだけで充分だ。
「そんな落ちぶれた貴族だけど、一人ぼっちで年老いていく私とここで静かに暮らしてくれたら嬉しいのだけど。どうかしら?」
ステラ夫人は遠慮がちに尋ねた。
「ここで……暮らしてもいいんですか?」
断る理由なんてない。
ヨハンの家なんて帰りたくもないし、そもそもお尋ね者だ。
そういえばその罪はどうなったのかわからないけど。
この老人一人が住む貴族の家までは探しに来ないだろう。
ここで静かに絵を描いて暮らせるなら、それで満足だ。
「あなたたちさえ良ければ嬉しいわ。他の貴族のように贅沢は出来ないだろうけど、食べることには困らないと思うの」
「ネロもいい?」
私は隣に座るネロに尋ねた。
「僕はお姉ちゃんが無事に暮らせるならいいよ」
ネロも追っ手のことを心配しているようだ。
「そうそう。困った人に追われてたようだけど、そのことは心配しないで。たぶんうまく処理してくれたはずよ」
誰が?
その口止めした高貴な人が?
いったい誰だろう。
「ただ一つだけ問題があるの」
「問題?」
「養子に迎えるにあたって、貴族に相応しい者かどうかの試験があるの。貴族は、貧民が平民になるように税金を納めればなれるものではないのよ。できれば試験にパスして、正式な養子としてあなた達を迎え入れたいと思うの」
「試験……ですか?」
私とネロは顔を見合わせた。
「学校にも行ってなかったなら……少し大変かもしれないけど、これからこのシモンヌに習って勉強してもらうことになるわ。出来そうかしら?」
どんな勉強をするのかは分からないけど。
こうなったらやるしかない。
貴族になれる千載一遇のチャンスを逃す手はない。
「頑張ります!」
私とネロは元気よく答えた。
次話タイトルは「ロイとレナルド」です




