1、ここはどこ?
「夢?」
え? どっちが?
落ち着いて整理して考えてみよう。
私は転生して異世界の美少女になった。
そしてそこで罪人として追われ、すべてを失って寒さと空腹で死んでしまった。
……ということは。
また転生して前世に戻った?
ここで一番気がかりなことといえば、やっぱりあれだ。
「まさか……元のブス女に?」
ハッと両手で顔の輪郭をたどる。
いや、その前に気付いた。
「金髪……」
砂埃で汚れてはいるが金髪の長い髪が胸元に垂れている。
そしてエミリアの仕立ててくれたワンピースを着ている。
「……ということは、私はまだ異世界のレイラなの?」
半分ほっとして半分嫌な予感になった。
なぜならエミリアのワンピースには赤い大きなシミが広がっているから。
「ネロ……」
ネロは?
キョロキョロと辺りを見渡してもネロの姿はない。
子供一人で寝るには広すぎるベッドには私一人しかいない。
明るいピンクで統一された家具も調度もやたらに高そうで、ヨハンの家の三個分ぐらいの広い部屋だ。そこに私一人がポツンと寝ていたようだ。
窓からは鳥のさえずりが聴こえ、なんかいい匂いがする。
食べ物の夢を見ていた余韻かと思ったが、どうも現実みたい。
甘い甘い焼きたてのクッキーのような香り。
途端にぐうとお腹がなった。
今はそれどころじゃないのに、ぐうぐうと空腹を訴えている。
「もう静かにしてよ、私のお腹。それよりもネロを探さなくちゃ」
そう思うのに甘い美味しそうな香りに意識が向かってしまう。
「この異世界に来てから、こんな食欲をそそる匂いは初めてだわ」
どこから匂ってるんだろうとベッドをおりて確かめようとした。
その時。
遠くに見える部屋のドアがガチャリと開いた。
「あら、ようやく目が覚めたみたいね」
紺のワンピースに白いエプロンをした女性が入ってきた。
頭にもエプロンと同じ白いフリルの帽子をかぶっている。
メイド喫茶……の服装だが、これはコスプレではなく本物のメイドのようだ。
なぜなら萌え系女子とはほど遠いから。
どう若く見積もっても三十代の、地味で真面目そうな女性だ。
黒髪を後ろで固くひっつめて、背筋を伸ばして歩いてくる。
「まったく、馬車に乗ってもベッドに運ばれてもまったく起きないんだもの。死んでるのかと思ったらむにゃむにゃと口を動かして幸せそうに笑ってるし。呆れたわ」
そういえばマッチの中に見た前世の実家で、お母さんの作ったロールキャベツを食べる夢を延々見ていた。食べても食べてもなくならないけど、食べても食べてもお腹がいっぱいにもならない。嬉しいのか悲しいのか分からない夢だった。
「なにぼーっとしてるの? 早くベッドから降りてちょうだい」
「あ、はい。すみません」
汚いものを追い払うようにベッドから下ろされた。
「まったく、あの方の気まぐれにも困ったものだわ。こんな汚らしい子供たちを拾ってきて、置いていくんだもの。シーツも布団も全部洗わなくっちゃ。ほら、どいて」
メイドの女性はせかせかと布団をまるめて、私が寝ていたシーツをはがしている。
確かにシーツは私の服の砂埃と血のシミで汚れてしまっていた。
「すみません……」
思わず謝ったけど、ちょっと待って。
今、気になるワードがいくつか混じってたわよね。
あの方?
子供……たち?
……ということは。
「ネロは? ネロもここにいるんですね?」
掴みかからんばかりに尋ねる私を、メイドは迷惑そうにサッとよけた。
「ネロ?」
「弟です! 怪我をしていた私の弟です!」
次話タイトルは「変わり果てたネロ」です




