41、セリーヌ、捕まる
昼過ぎになってようやくエミリアの店を出た。
お腹がすいたけど、昼食の前にケンの店に行くことにした。
今日は朝ごはんもなんだかんだで食べそびれている。
ネロには一個だけ持っていた飴玉をあげたが、お腹がすいてるはずだ。
今日はお金も入ったことだし、あとで市場で美味しいものを買ってあげよう。
そんなことを考えながら店の前に着くと、なんだか人だかりが出来ていた。
「ほらっ! 膝をつけ! 罪人!」
「頭を地面にこすりつけて謝れ!」
「なんだ、その反抗的な顔はっ!」
店の前にはケンと職人たちが並んでいた。
みんな腕を組んで険しい顔をしている。
そしてその手前には……。
セリーヌが自警団に捕えられて縄でしばられていた。
街中を引きずり回されたのか、服は破れ、髪はぐしゃぐしゃで地面に座らされている。
そして肩を押さえつけられて、地面にひれ伏すように命じられている。
「セリーヌ! お前、自分が何をやったのか分かってるのか?」
「お前のせいで坊ちゃんは追い返されるところだったんだぞ!」
「レイラさんがいなかったらどうなってたことか」
セリーヌは私の名前を聞いて、ぎりりと唇を噛みしめた。
「なんだ、その顔は! 全然反省してないようだな!」
「お前なんか牢屋行きだ。鞭打ちの死罪だ!」
ちょ、ちょ、ちょっと待って。
ほ、本気で言ってるの?
昨日まで一緒に働いてた仲間じゃないの?
「ケン坊ちゃん、どうしますか?」
「もちろん鞭打ち死罪ですよね」
職人たちがケンに尋ねる。
「ああ。下手をしたら俺とレイラが商品不備で罰を受けたかもしれない。これは許せる範囲の罪じゃない。自警団の皆さんにお任せしますので、裁きをお願いします」
ケン!
そ、そんな。まさか。
「ま、待って! みんな!」
私はあわてて人だかりの中に飛び込んだ。
「あ、レイラさんだ」
「いいところにいらっしゃった」
なんか私に対するみんなの言葉遣いがやたらに敬語だ。
すでに未来の店主夫人の扱い?
いやいや、待ってって。
今日は断るつもりで来たのに。
「みんな落ち着いて! セリーヌは充分ひどい目にあったみたいだし、もういいじゃない。ともかく商品も無事納められて、御用達のプレートももらえたことだし」
「レイラさん、罪人を甘やかしてはいけませんよ。こういう根性のひん曲がったやつは、また同じようなことをするに決まってるんだ」
「こんなやつを生かしておくと社会の害になるだけですよ」
き、極端なんだって。
この世界では反省して改心する猶予もくれないの?
「さあ、この女を連れていってくれ」
「もう顔も見たくない」
自警団たちはセリーヌの腕を乱暴に掴んで立たせようとした。
「離してっ!! 触らないでっ!! 痛いったら!」
セリーヌが必死で抵抗しているが、大きな男たちは蹴ったり殴ったりしながら引っ張りあげようとしている。
「やめてっ! やめてよ、お願い!」
私はその中に飛び込んでセリーヌを抱き締めた。
「レイラ! 危ない! 君が怪我するじゃないか!」
ケンもあわてて自警団の連中を止めに入ってきた。
「ケン、お願い。許してあげて、お願いよ!」
別にいい子ぶりっ子をしたいわけでも、優しい人間だと思わせたいわけでもない。
前世に育った私には、目の前のひどい仕打ちに耐えられない。
こんなことで鞭打ち死罪なんて、逆に罪の意識を感じて一生後悔してしまう。
「レイラ……」
「私が嫌なの。お願い、今回だけは許してあげて」
ケンと職人たちは顔を見合わせた。
「レイラさんは本当に優しい人だ」
「こんなひどい事をされても許すなんて」
「それに比べてこの女のクズっぷりには反吐が出るな」
職人たちは口々に言い、最後にケンが一つため息をついて答えた。
「分かったよ、レイラ。お前に免じて許してやる。だが、次に何かしたら容赦しないからな」
「じゃあ鞭打ちも死罪もなしなのね」
「ああ。大丈夫だ」
良かった。
「おい、セリーヌ! レイラさんに感謝しろよ!」
「レイラさんは見た目通り、天使のように優しい人だ」
「それに比べてお前は見た目通り、クズの悪魔だな」
や、やめてったら。
これ以上セリーヌを突き落とさないでったら。
セリーヌはふて腐れた顔でうつむいている。
その顔は擦り傷と泥で汚れ、よほどひどく引きずられてきたのか手足も擦りむいて血が滲んでいた。
「じゃあ今回は刑罰は望みません。自警団の皆さんはこれで今日のところはお引取り下さい」
ケンが現金を渡して言うと、自警団たちはしぶしぶ帰っていった。
この世界では被害を受けたものが自警団にお金を払って捕えるらしい。
貴族は分からないが、平民や貧民には裁判なんて面倒なものはないのだ。
「あの、ケン。店の奥でセリーヌの怪我の手当てをさせてくれないかしら」
私はおずおずとケンに申し出た。
親切すぎて嫌みに思えるかもしれないけど、どうしてもこのまま放っておけない。
ブス女として二十年間生きてきた私には、セリーヌのことが他人事には思えない。
ケンはもう一度ため息をついてから、呆れたように言った。
「レイラのお人好しには負けたよ。気の済むようにしろ」
「ありがとう、ケン」
次話タイトルは「セリーヌの思い」です




