36、妻
つま。
つまとは。
刺身などのつけ合わせとして添えられるもの。
いや、そのつまではない。
妻とは。
配偶者、家内、嫁さん、ワイフ。
その妻で間違いないでしょうか?
ケンは無言で顔を真っ赤にして窓の外を見たまま、目も合わそうとしない。
ガラガラガラガラと馬車の車輪の音だけが聞こえている。
ちょっと待って。
一から整理しよう。
私はレイラ、貧民、美少女、そして十三歳。
そ、そうよ。十三歳よ。
中身は二十歳だからそれなりに妻というものを理解はしているけども。
十三で結婚って早くない?
生きていくのに精一杯すぎて、結婚なんて考えたこともなかった。
前世ではもちろん夢見たけれど。
あまりに遠く儚い夢すぎて現実味がさっぱりなかった。
つまり私の身に起きる出来事だとは、前世含めて考えたこともなかった。
「あの……十三才で結婚って、この世界ではどうなんでしょう?」
私はとりあえず、この沈黙の気まずさから逃れるためにも尋ねてみた。
「貴族では婚約者がいて当たり前の年だよ。平民では大店の嫁入りにはよくあることだ。もっと年のいった大旦那に嫁入りすることがほとんどだけど、俺は若くてもちゃんと店をきりもりしている。自分で言うのもなんだけど、掘り出しものの嫁ぎ先だと思う。しかもレイラは平民の地位を手に入れられる」
ケンは一気にまくしたてた。
な、なるほど。
百害あって一利なし。いや、違った。
百利あって一害なし。
確かに、この貧しい貧民がアルフォード家御用達の名店ロリポップの店主夫人だ。
こんなありがたい話はないだろう。
さすが美少女。
ブラボー美少女。
ブス時代にはこんなありがたい話、どれほど口を開けて天を仰いでも降ってこなかった。
もうここはケンの気が変わらないうちに受け止めるか。
こんないい話、二度とないかもしれない。
でも……。
本当にそれでいいの?
好きとか恋とか愛とか。
まだ何も感じるひまもないままに決めてしまっていいの?
いや、この世界ではそんな贅沢は言えないのかもしれない。
貴族も平民も、好きな人と結婚できる人なんて何割いるだろう。
まして私は貧民だし。
それにケンは異性としても悪くない。
「……」
よし!
き、決めてしまうか……。
大きな魚を逃す前に……。
だが私が答える前に、沈黙に耐え切れなくなったケンが口を開いた。
「レ、レイラがまだ考えられないっていうなら、結婚はもう少し後でもいい。レイラが大人になるまで待つよ。婚約だけして、うちに住めばいいよ」
た、助かった……。
動揺しすぎて訳が分からなくなってた。
十三の少女とも思えない腹黒い打算だけで決めてしまうところだった。
少し冷静になって考えてみたい。
「ありがとう、ケン。前向きに考えてみるわ」
ようやくごくりと唾を飲み込み、それだけ答えられた。
「おう。そうしてくれ」
窓の外を見たままぶっきらぼうに答えながらも、ちょっと嬉しそうな顔になった。
うう。いい人なのよね。
こういう不器用なところもひっくるめて、好きになれるかもしれない。
こうして……。
緊張する二人を乗せて、馬車は街中へと辿り着いた。
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※現在のレイラの所持金
前回残金 ― 990
ロリポップの報酬 +30000
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29010ルッコラ
(借金返済予定)
次話タイトルは「ネロの決心」です




