6、やきもちスラン
「やだ。オレはやらない」
スランの工房に大喜びでケンの注文の話をしにいくと、思いもかけない返答を返された。
「え? なんで? 30000ルッコラよ? こんな大仕事めったにないわよ」
「でもやだ」
子供のようにぷいっと顔をそらした。
いや駄々っ子か!
「ち、ちょっと、なんでよ! ここで認められたらブリキ職人のスランの名前も一気に広がるわ。アルフォード様の目にとまることだってあるかもしれないのよ」
「……」
スランはブリキを金づちで叩きながら黙り込んでいる。
「もしかしてケンの頼みだから?」
それ以外に考えられない。
「……あいつに借りをつくりたくない」
スランはぽそりと呟いた。
「なに言ってるのよ! 借りができるのはむこうの方でしょ? あっちが頼んできたんだから。ケンはそんなくだらないプライドを捨てて、いい仕事をするために頼んできたのよ。昔なにがあったかは知らないけど、ここは大人にならないと」
「どうせオレはケンと違ってガキだよ。この間はひどい男だって言ってたのに、やっぱり女ってケンみたいな強引なオレ様男の方が好きなんだよな。昔からそうだった」
「は?」
話の方向が少しズレてない?
「ちょっと誰が好きなんて言ったのよ。私は仕事を一緒にする上では信頼できるんじゃないかって思っただけよ。勘違いしないで」
「あいつは平民だしオレよりずっと金持ちだ。オレなんかよりケンと組んだ方がいいって思ってんだろ? だったらケンのところに行けよ」
ダメだ。こじらせてる。
すっかり意固地になって話にならない。
そしてネロがとんでもないことを言った。
「スラン、ケンにやきもち焼いてるの?」
無邪気な子供は時に核心を貫く。
「やきもち?」
私と目が合うと、スランは真っ赤になってそっぽを向いた。
「ち、ちげーよ! 誰がやきもちなんか……」
そうだったの?
ごめんなさい。なにせ長年ブス女人生を歩み続けてきたから、やきもちを焼かれる経験値はゼロなの。全然気付かなかったわ。
スランはケンに私を取られると心配してるってこと?
そんな無用の心配を?
「あのね、スラン。ケンが私のことをどういう目で見てるか分かってる?」
「分かるさ。オレとあいつは昔っから考えることが同じだったんだ。五年ぶりに会ったレイラは綺麗になってて驚いたはずだ。しかも前向きで健気に一生懸命生きてる子が昔から好きだった。レイラを気に入ったからそんな話を持ちかけてきたんだよ」
「……」
誘導したわけではないが、思わぬスランの本音を聞いてしまった。
考えることが同じってことは、少なくともスランはそんな風に思ってくれてるらしい。
すねた表情でとんてんとブリキを叩いているスランがちょっとかわいい。
ずるいな。他の子にもそんな顔してるんだろうけど、憎めないじゃない。
「ケンはね、私のことを金にがめつい女だって思ってるのよ。仕事の上では協力するけど、それ以上の感情なんて何もないわ。そもそもあの人は貧民なんか相手にしないわよ」
「そうかなあ……」
「そんなに心配なら明後日の打ち合わせにスランも一緒に来ればいいわ。今後のこともあるから一度顔合わせしておくべきよ」
明後日、店じまいした後でロリポップに行くことになっていた。
納品まであまり時間がないらしく、のんびりしていられないのだ。
「分かった。でももし会ってみてどうにも一緒に仕事できそうになかったら、オレはおりるからな」
「おりられたら困るけど……とにかく一緒に行きましょう」
前途多難だけど、なんとか会うところまでは説得できた。
まだまだ問題は山積みだ。
でもその前に……。
私には待ちに待った楽しみがあった。
いよいよ明日、エミリアのワンピースを受け取ることになっていた。
最後の仕上げに襟のレースをつけるだけだと言っていた。
「うふふ。うふふ。ケンとの打ち合わせの前に仕上がって良かったわ」
貧民貧民とバカにしていたケンを驚かせてやるんだから。
それに汚いと言って私を店から追い出した店員も見てらっしゃい。
この美貌に物言わせて、完璧な美少女になってやるんだから。
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※ 現在のレイラの所持金
9600ルッコラ
(スランに職人代と材料費を払った残金)
次話タイトルは「エミリアのワンピース」です




