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ブス女ですけど転生して美少女になりましたの。ほほほ。  作者: 夢見るライオン
第一章 レイラ、マッチ売りの美少女になる
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18、王子様の指輪

「下がりなさい、無礼な!」


 もう少しで顔が見えそうだったのに、黒服の男に押し止められた。


「そなたのような者が口を利けるお方ではない!」


 これはやっぱり王子様に違いない。

 こうなったらなんとしても顔を見てみたいのに。


「あの、せめてお名前を。私にとっては命の恩人のような方なのです」

「バカを言うな! そなたなどに名乗るはずがないだろう。馬車を出すから下がりなさい」

「そう言わずに。一生の思い出にお顔だけでも……」

「なにが一生の思い出だ。下がらぬか!」


 馬車を覗こうとする私と、食い止めようとする黒服男の必死の攻防が続いた。


「このご恩はいつか、いつかきっと百倍にしてお返ししますから!」

「そなたごときに出来るわけがないだろう。もういいから下がりなさい!」


 押し問答を続ける私の耳にクスッと笑う声が聞こえた。


 え?

 王子様の笑い声? なんてそよ風のような上品な笑い声なの。


 続いて低音の振動が私の鼓膜に響いた。

 でも小さな声すぎて何を言っているのかよく聞こえなかった。


 黒服男に指示を与え、何かを渡すために手が差し出された。

 キュロットパンツと同じ色の袖口と、レースの飾りが見えて、その先には若々しく長い指先が見えていた。


 そしてその指には……。


(あれは……)


 青い飾り細工のついた指輪。

 精巧な絵のようなものが描かれた紋章のような細工が透明な水晶の中に見えた。


 一瞬だったのに私の目がその指輪をしっかりとらえたのには訳があった。


高級陶器灰青ウェッジウッドブルー……)


 その指輪に描かれた紋章には、高級陶器灰青ウェッジウッドブルーが使われていたのだ。


(この世界ではすでに存在している色なの?)


 驚いて呆然と見つめていた私の目の前に、何かがにゅっと突き出された。


「え?」


「ご主人さまがこれで腕の血を拭けばよいとおっしゃっておられる」


 黒服男の突き出す手には、見事なレースで縁取られたハンカチがあった。


「ハンカチ……」


 私はその美しいレースに見惚れて、思わず受け取った。


 王子様のハンカチ。

 やることなすこと、すべてが王子様だった。


「なんて綺麗なハンカチ……」


 レースは雪の結晶のように繊細で、隅に二頭の馬の姿が躍動感あふれて刺繍されている。

 その刺繍の見事さに見入っていた私はバタンというドアの閉まる音でハッと顔を上げた。


「あっ!」


 この隙にと黒服男は馬車に乗り込み、ドアを閉めてしまったのだ。


「ま、待って! ハンカチを……」


 ドアの小さな窓から顔を出した黒服男が「持ってけ」というように手を振っている。

 そしてやれやれという顔で御者の方に向いて「出せ」と命じたようだ。


 馬車は手綱を鳴らしてあっという間に行ってしまった。


 私はハンカチを手にしたまま、その馬車が去っていくのをいつまでも見つめていた。



「お姉ちゃん、大丈夫? あんな怖そうな大人に掴みかかっていくからビックリしたよ」


 傍から見てると、私が黒服の男と取っ組みあっていたように見えたらしい。

 長い金髪の一見おとなしそうな少女が、大人の男を押しのけようとしているのだから、道を行く人々も何事かと視線が集まっていた。

 馬車の中の王子様の顔をひと目見ようとしてただけなんだけど。


「それ何? 何かもらったの?」

 ネロは私の手に握られたハンカチを見た。


「血を拭くようにってハンカチをくれたの」


「ハンカチ? 貴族の人が持つ手ぬぐいみたいなやつ? すごく綺麗だね」

 ネロはハンカチすら見たことがなかったのか、目を輝かせている。


「うん。血を拭くなんてもったいなくて出来ないわ。これは大切にとっておくわ」


 王子様からもらった宝物だ。

 私は大事にスカートのポケットにしまった。

 1000ルッコラも落とさないように慎重にポケットの奥に入れた。


 そして腕の血は破れた袖でぬぐった。


 家に糸と針なんてあるだろうか。

 どちらにしても、このボロ服は限界だ。

 新しい服が必要だ。


 だがその前に……。


「ネロ。ヨハンに1000ルッコラ渡しても600ルッコラ余るのよ。このお金で美味しいものを買いましょう。何が食べたい? 食べ物はどこに売ってるの?」


 お腹が空腹で悲鳴を上げている。


「え? お父ちゃんに言わずに勝手に使ってもいいの?」


 ネロは不安そうに私を見上げた。

 お腹がすいてるはずなのに、従順なネロはあんな父親に義理を通そうとしている。

 その純粋さに心が洗われるようだけど、二十歳の私の心が澄んだ透明になるはずもない。


「まったく問題ないわ。これは私が苦労して稼いだお金なのよ。約束のお金以外はびた一文ヨハンに渡すもんですか。これで美味しいものを買って、私の服だってもっと美少女に相応しい可愛いワンピースを買ってやるわ。見違えるような美少女に変身するわよ。見てらっしゃい。ふふふ。ふふふ」


 鼻息荒く宣言する私に、ネロが怯えた表情をした。


「なんかお姉ちゃんが怖いよう。昨日までと別人みたいだよう」


………………………………………………………………


※ 現在のレイラの所持金   1600ルッコラ



次話タイトルは「貧民の現実」です

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