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ブス女ですけど転生して美少女になりましたの。ほほほ。  作者: 夢見るライオン
第一章 レイラ、マッチ売りの美少女になる

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17、黒馬車の王子様

「あっ!」


 黒服の男は捜査一課の刑事のような目付きで、拾ったマッチケースを眺めている。


「あの……返して下さい。それは私のものです」


 私は立ち上がって恐る恐る手を伸ばした。

 その私を男は刑事の目で上から下まで眺めている。

 そして破れた袖と血の滲んだ腕に目を止めた。


「怪我をしているのか? 馬車に轢かれたのか?」


 三十前後の男は、無表情に尋問した。


「少し接触して転んだだけです。大丈夫です。それより返して」


「これは何だ? 中に何か入ってるのか?」

 男は言いながらブリキのフタをスライドさせて開いた。


「マッチ? マッチケースか? これを売ってたのか?」

 

 職務質問? これが噂の職質?


 前世ではブスじょだからって職質を受けることはなかったけど、ここでは子供だから補導でもされるのかしら?


「そ、そうです。悪いことなんてしてません。これを売らないと家に帰れないのです」


 私は警察官に弁明するように答えた。

 すると男は、しばらく考え込むようにしてから「ここで待て」と言い残して馬車に戻って行った。


 え? なに? 警察みたいなところに連れていかれるの?


「お姉ちゃん今のうちだよ。早く逃げよう」

 ネロが私を置いていけずにまだ服を引っ張っていた。


「でもマッチケースが……」


 男は私のマッチケースを持ったまま馬車の中の誰かと話している様子だった。

 馬車までは少し離れていて話している内容はよく聞こえなかったが、かしこまった様子から考えて相手がずいぶん目上の人だと分かった。


 もしかして警視総監?

 いや、この世界だと……自警団総督……みたいな?


 いかめしい髭面のおじいさんを想像していた私は、その馬車の後ろのカーテンがそっと開かれたことに気付いた。黒服男の話を聞いて、カーテンを上げてこちらを見ようとしたようだ。


 ほんの一瞬、その姿が垣間見えた。


「え?」


 それはおじいさんなんかではなくて……。


(金髪の少年?)


 いや、青年と言ったほうがいいかもしれない。

 遠目で一瞬すぎて、はっきりとは見えなかった。


 でも黒服の男に振り向いて何か指示を与えている後ろ姿が一瞬だけ見えたのだ。


 その人は長い金髪を後ろでリボン結びにしていて、若い男のように見えた。

 少なくとも年寄りではないと思う。


 やがて指示を受けて黒服の男が私のところに戻ってきた。


「ご主人様がこのマッチケースを買って下さると言っている」


「え?」


 私は驚いて黒服の男を見上げた。


「いくらだ?」

 黒服の男は懐から分厚い財布を出した。


「ひ、100ルッコラですけど……」

「その籠の中のも全部だ。全部でいくらだ?」


「えっ?! 全部?」


 私はネロと顔を見合わせた。


「それを全部売れば家に帰れるのだろう? だから全部買うようにと仰せだ」

「ま、まさか……。じ、十ケースもあるんですよ?」


「十か。では1000ルッコラでいいのだな」


 黒服の男は財布の厚い束から紙幣を一枚抜き取った。

 手渡された紙幣には1000の数字が書いてあった。


 せ、1000ルッコラの紙幣なんてあったんだ。初めて見た。

 じゃあ、あの分厚い財布の束は全部1000ルッコラってこと?

 どんだけの金持ちなの。


 いや、それよりも1000ルッコラ!!

 これでヨハンに殴られなくてすむ。

 おまけに余ったお金でネロに美味しいものを買ってあげられるわ。

 

 ああ、この世界にもいい人はいたんだ。


「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 私は黒服の男に何度も頭を下げた。


「私はご主人様の言う通りにしているだけだ」


 男は無愛想に言い捨てると、マッチを受け取って馬車に戻っていく。

「あ、待って!」私はその男を追いかけ、馬車の前までついていった。


「ではご本人にお礼を言わせて下さい」


 馬車に乗り込もうとしていた男は、ついてきた私に気付いて迷惑そうな顔をした。


「無礼者。庶民が易々とお顔を拝することのできる方ではない。下がれ」


「で、ですが、お礼を……。あの、ありがとうございます! 本当にありがとうございます」

 私は小さな体でぴょんぴょん飛び跳ねて、黒服男の影になって見えない馬車の中の麗人にお礼を言った。


 麗人は深く座っていて残念ながら顔は見えなかったけれど、膝から下だけが見えた。

 高そうな革のブーツと青いキュロットパンツの裾とレースの飾りが見えた。


 お、王子様だ!

 白馬には乗ってないけど、黒馬車の王子様だ!


 私はそう確信すると、むくむくと好奇心がわいてきた。

 そしてなんとか顔を見ようと馬車の中を覗きこんだ。



次話タイトルは「王子様の指輪」です

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