4、事件の全容
遅くなってすみません。
「ねえ、教えてちょうだい。いったいエミリアに何があったの?」
私は黙り込む四人に、身を乗り出して尋ねた。
やがて一人の令嬢がわっと顔を覆って泣き出した。
一人は手を震わせて怯えている。
一人はうつむいたまま固まっている。
だがリリアナだけは気丈に顔を上げて話し始めた。
「あの日……私達は月に一度のお茶会の日だったんです」
◇◇
「ああ、エミリアったら『円卓の乙女』に選ばれちゃうんだもの」
「すごいわ。さすがエミリアね」
「しかも憧れの三貴公子の一人、アンソニー様と婚約も決まったし」
「いいなあ。もう怖いものなしね」
いつものようにお茶を飲みながらレース編みを教えてもらって、おしゃべりに興じていた。
「たまたまクリスティナ様にお作りしたレースが気に入ってもらえただけよ。次はもう脱落してサンドラ様にお席を返すことになると思うわ」
エミリアはみんなの称賛にも遠慮がちに答えた。
「そうそう。そのサンドラ様の顔を見た?」
「円卓の乙女から外された時の顔ったら」
「ちょっといい気味よね」
「いっつも威張って、三貴公子の方々のことを自慢げに話すんだもの」
「みんな三貴公子のお話を聞きたいから仲良くしてるだけなのに」
「まるでご自分が人気があると勘違いしてらっしゃるのよ」
いつも意地悪をされている四人は胸のすく思いだった。
「私はなんだかサンドラ様に申し訳なくて……。あの方が苦労して掴んだお席なのに」
エミリアだけは浮かない顔で答えた。
「気にすることないわよ」
「苦労して掴んだって言っても、贈り物をたくさんしただけじゃない」
「サンドラ様が努力したわけではないわ」
「サンドラ様のお母様がお金を使って無理矢理勝ち取ったんじゃない」
乙女会の同年代のグループは、今ではエミリア派とサンドラ派に真っ二つに分かれていた。
だがその均衡は、エミリアがアンソニーと婚約して円卓の乙女の一席を奪い取ったことで、大きく傾こうとしていた。
もともとサンドラの『権勢』だけに群がっていた令嬢たちは、離れていくのも早い。
エミリアは望まぬままに派閥の頂点に立たされ、大きな流れが自分に引き寄せられてくることが恐ろしかった。
だがエミリア派の令嬢たちは、すっかり勝った気分で舞い上がっていた。
「それにアルフォード様だって、弟君のロックウェル様よりエミリアのお父様のグッチーニ伯爵の方を頼りになさってるんでしょ?」
「最愛の奥様のダイアナ様を亡くされてから、本音で話せるのはグッチーニ伯爵だけだって聞いたわ」
「アルフォード様に意見できるのは今ではグッチーニ伯爵だけだって話よ」
令嬢たちは母親の噂話をそのまま訳知り顔で語り合った。
「お父様はアルフォード様とは幼なじみで気心が知れてるようだから……」
身分ではロックウェル公爵の方が上でも、アルフォード様に対する発言力はグッチーニ伯爵の方が上だと言われている。
「ほらね。もうサンドラ様に勝ち目なんてないわ」
「私達エミリアについていくからね」
「お父様もエミリアと会うって言ったら喜んで外出させてくれるのよ」
「これからもずっと仲良くしてね」
もう勝負はついたと。
みんなが思っていた。
しかし。
そんな平和なお茶席に、突然軍服姿の兵士たちがなだれこんできた。
「きゃああ! なんですか?」
「何事なの?」
怯える令嬢を尻目に、兵士たちは部屋の中をあちこち捜索している。
「誰か! 誰か来てっ!!」
家の者を呼んでも誰も来ない。
外も騒がしいからみんなそれどころではないらしい。
そうしている間にも、次々に兵士がなだれこんで来る。
エミリア達は五人で手を取り合って震えながらその様子を見つめていた。
やがて、階下からの「あったぞっ!!」と言う声と共に、兵士たちは部屋を駆け出していった。
「な、なに?」
「何があったの?」
エミリア達五人は、恐る恐る廊下に出て階下の様子をうかがった。
そこには。
吹き抜けのエントランスを、縄で縛られて連行されるグッチーニ伯爵の姿があった。
◇◇
「私達は兵士達に馬車に乗せられて帰されて……それっきりエミリアとは会ってないわ」
「数日してみんなでエミリアのお屋敷に行ってみたけど、門は木で打ちつけられて誰も出入り出来なくなっていたの」
なんてことを。
エミリアはどれほど辛い思いをしたんだろう。
「それでグッチーニ伯爵はなぜ捕えられたの?」
四人は再び顔を見合わせた。
「しばらくはお父様たちは何を聞いても教えてくれなかったの」
「最近になってようやく少しだけ聞いたのだけど」
「誰にも言うなって口止めされてて」
「お願い、教えて! 私はエミリアを助けたいの」
「でも……サンドラ様に知れたら……」
「この話題を噂しただけでもサンドラ様が鬼のようにお怒りになるの」
「今ではもう誰もサンドラ様に逆らえないのよ」
「サンドラ様を怒らせたら、私達もエミリアと同じ目に遭うわ」
「そうやってこれからも怯えながら生きていくの? エミリアを助けられるかもしれないのに見捨てるの? あなたたちはそれでいいの?」
「……」
「私は嫌よ! 私は可能性が少しでもあるなら、エミリアを助ける方法を探すわ」
しばらく逡巡していた令嬢たちは、やがてお互いに決心したように頷き合った。
そして告げた。
「グッチーニ伯爵は、アルフォード様の一番大事な絵を盗んで燃やしたらしいの」
次話タイトルは「アルフォード様の一番大事な絵」です




