15、ロイ様からの招待状
「ク、クリスティナ様の隣にお座りになったのですか?!」
帰りの馬車に揺られながら、シモンヌは卒倒しそうになっていた。
「ええ。成り行きでね。仕方がなかったのよ」
「成り行きって、どういう成り行きですかっ!」
乙女会であったことを説明すると、シモンヌは天をあおいで気を失いそうになっていた。
「よくもご無事で……。ああ、私は控え室にいて良かったですわ。側で見ていたら正気でいられなかったことでしょう。なんて恐ろしい……」
「思ったほど恐ろしい方ではなかったわよ、クリスティナ様は。威圧感はすごかったけど」
「それはレイラ様をお気に召したからでしょう。気に入らない人には、それはもう平気で残酷な仕打ちをなさる方ですわ。ステラ奥様などは……その……あまりお好きでないようで、ですがアルフォード様の弟夫人ですから、ひどい仕打ちもできず無視を決め込んでおられました」
なんとなく分かった。
クリスティナ様はとにかく美に厳しい方なのだ。
すべてにおいて美しいものだけを認める方。
つまり裏を返せば、美しくないものは一切認めない。
ステラおばさまの美は、その内面に尊く広がっているけれど、目に見えない美には興味がないのだろう。
「ともかく無事でなによりでした。もう乙女会には参加なさらないで下さいまし。私の寿命が縮まってしまいますわ」
「そうね。私もまた行きたいとは思わないわ。ただ……」
お開きになって馬車に乗る前に、リリアナ嬢が私のところに来た。
「さきほどは助けて下さってありがとうございました」
心からの感謝を込めてそう言ってくれた。
私が派手に出て行ったおかげで、彼女はチョコのことを咎められることもなく、無事に会を終えることができたようだ。
「いいえ、気になさらないで。それよりも今度お茶会にご招待致しますので四人で来て下さらないかしら。お話が聞きたいの」
少し戸惑った表情を見せた彼女だったが、決心したようにうなずいた。
「分かりました。他の三人にも伝えておきます」
そう言ってくれた。
これは大きな前進だ。
帰ったらさっそくお茶会の準備をして、四人に招待状を出さなければ。
「近日中にお知り合いになったご令嬢たちをお茶会に呼びたいの。いいかしら?」
「まあ、もうお友達ができたのですか? まったくレイラ様ったら不思議な才能をお持ちですわね。あなた様には驚かされることばかりですわ」
シモンヌが感心して言った。
「あとソフィーが今日のお茶会にいなかったことが気になるわ。あれからすぐにまた来るようなことを言ってたのに音沙汰なしだし」
「ではザック様に聞いてみましょう」
「そうね。出来ればソフィーも一緒にお茶会に参加してくれるといいのだけど」
「分かりました。お茶会の準備などはお任せ下さい。奥様がはりきってクッキーを作られることでしょう」
そんなやりとりをしながら屋敷に戻った私に、思いがけないプレゼントと招待状が待っていた。
「これは……」
「そうなの。驚いたでしょう? 私も今さらどうしてこんな物がとびっくりして、眺めながらずっと考えていたのよ」
ステラおばさまは箱の中のプレゼントを眺めながら小一時間ほども考えふけっていたらしい。
いえ、おばさまが考えたところで大した結論も出なかったと思うのだけど。
それは大きな箱に入った豪華なドレスだった。
「ここに手紙が添えてあるわ。差出人はロイになってるの」
おばさまは封を切ることもせずに私の帰りを待っていたようだ。
「ロイがこんな気のきいたプレゼントを贈ってくれるなんて珍しいことだわ。いいえ、乙女会に間に合わせたかったなら、やっぱり間が抜けてるわね。ロイらしいといえばそうなんだけど、やっぱり女性にドレスを贈るなんてロイらしくないわね。いったいどういうことかしら」
そうやってずっともんもんと考えていたらしい。
私はさっそく封を切って手紙の中身を見た。
「どうやらロイ様は乙女会の日にちを明日と勘違いしてらしたみたいだわ。さっき気付いてドレスが間に合わなかったことを詫びてらっしゃるわ」
そうだったの?
じゃあ約束は守るつもりでいたの?
でも……。
何かが引っかかる。
「それでお詫びに今日のディナーにご招待下さってるみたい。迎えの馬車を寄越すので、このドレスを着てアルフォード邸にお越し下さいと書いてあるわ」
ステラおばさまもシモンヌも驚いている。
「まあまあ、あの子が女性にそんな気のきいた招待をするなんて」
「ロイ様もようやく女性に興味を持たれたのかもしれませんわね」
「まあ、レイラに興味を? なんて素敵なのかしら」
「ではさっそくご準備を致しましょう」
「そうね。綺麗に着飾ってロイを驚かせましょう」
おばさまとシモンヌはすっかり乗り気だ。
でも私はどうにも腑に落ちない。
なぜなら。
箱の中のドレスは。
クリスティナ様と同じ、紫だったから。
次話タイトルは「ロイ様のもとへ」です




